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本編
メイド勇者
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「なにい? てめえ何者だ!」
男達が気色ばむ。
ロットはため息を吐いた。
「自分で思っているほど有名では無いんですかね。私もまだまだです」
ロットが肩を落とす。
「……割烹着のせいじゃないかしら。イメージって大事なのよね」
ショーコがロットの腕にしがみつきながらも、冷静に分析する。
「えー。だってフリフリのヤツは評判悪いんですもん。もうこれくらいしか……」
どうしてそこまで作業着にこだわるのか。
ショーコにはさっぱり解らなかった。
「適した格好は大事なんですよ」
ショーコの心中を察してロットが言う。
「せめてマント込みじゃないと解らないと思うの……」
ショーコの言葉ももっともだったが、マントを着けて家事仕事では、邸の主よりも偉そうである。
流石にそれは無いだろう。
「てめえら、何をゴチャゴチャ言ってやがる!」
男達はいきり立った。
ロットはショーコを後ろに庇うと、男達を数えた。
「ひい、ふう、み……七人か。八人居た訳だ」
足元で伸びている男も加える。
「自分で名乗るのはハッキリ言って恥ずかしいが仕方が無い。私はロット。人は勇者ロットと呼んでくれますが」
仕方無くと言った割りに、ロットは腰に手を当てて胸を張った。
元々目立ちたがり屋なのかも知れない。
そうで無ければ、勇者などやってられまい。
ショーコは勝手にそんな事を考えていた。
「勇者ロットだあ? 嘘つけ! そんな所帯染みた勇者が居る訳ないだろ!」
男達は口々にロットを突っ込んだ。
それもかなり的確だ。
ロットは、張っていた胸を次第にしぼませる。
何だか、しょんぼりしてしまった。
「だからイメージが大事だと言ったのよ」
ショーコがロットの背後から声を掛ける。
「……そうですね。次からはせめてフル装備で、前掛けくらいにしておきます」
小声で言うロットの言葉を、ショーコは想像してみた。
勇者の盾に勇者の剣を携えて、鎧と兜とマントを羽織った勇者のフル装備。
それに前掛け。
もはや、違う迫力を醸し出す予感しかしない。
「……それに付いては相談に乗りますから、後でもう少し考えましょ、ね?」
ショーコがロットに言った。
「良いから早く女をこっちに寄越しな!」
男達が痺れを切らす。
先頭の男がロットの脇からショーコへ手を伸ばす。
「キャッ!」
ショーコが短く悲鳴を上げた瞬間、途中からは男の悲鳴に声が変わった。
「いてててててえーッ! いでえッ!」
ロットが男の腕を軽く捻り上げる。
「口で言っても解らないなら、実力行使しか有りませんね。お相手しますよ、掛かって来なさい」
ロットが男を突き飛ばす。
逃れた男は痛む腕を擦りながら、ロットの顔を見た。
言われてみれば勇者ロットに見えなくも無い。
昔、ちらっと一目見ただけだったが似ている気がする。
「……アンタ、まさか本当に」
男達は後ずさる。
「最初からそう言っています」
ロットがそう言うと、男達は顔を見合わせた。
「相手が悪過ぎる……!」
「まさか、本当にロットの筈が無いだろう」
「じゃあ、お前が行って試してみろよ」
男達は意見が割れて揉め始めた。
ロットは、この流れなら面倒事は回避出来たなと安心した。
出来る事ならば、騒ぎは起こしたく無い。
「てめえら、何意気地の無い事を言ってやがる。全員半殺しにされてえのか?」
不意に大きな声がした。
芯の通った力強い声だ。
声に自信を感じさせる力がある。
「ひ……ネ、ネルソンさん!」
男達は振り向いて、声の主に驚いた。
「てめえら、いつまでも何処をほっつき歩いてやがるんだ。しかも何だ。たった一人にまた泣かされてるのか!」
ネルソンに怒鳴られて、男達は小さくなった。
しかし、明らかにロットに対する萎縮は無くなっている。
ロットがネルソンを見た。
この男、相当強い。
一目見てロットには感じるものがあった。
雰囲気だ。みなぎる自信が前身から溢れているのを感じる。
根拠の無い自信では無さそうだ。
単なるお山の大将とは違う。
ネルソンが男達を掻き分けて前へ出て来た。
「よお、アンタ……ロットだろ?」
これが普通の反応だ。
ロットはわずかに安心した。
大丈夫だ。ちゃんと知られている。
「そうですが、貴方は?」
ネルソンがボルサリーノハットを上げて、その奥からロットを見つめた。
「俺はネルソンって者だ。ネグラムの幹部だと言えば、どんな人間かアンタなら解るだろう」
なるほど。マフィアの幹部とその手下達と言う訳か。
面倒臭い事になって来たなとロットは思った。
「ネグラムなら知ってますよ。有名ですから知らない者は居ないでしょう。私の事もご存じならお互いにここでぶつかる理由は無いと思いますが?」
ロットは取り敢えず和解案を匂わせてみた。
ネルソンは顎に手をやると考える素振りを見せる。
「そうだなあ。確かに理由は無いな」
ロットはショーコの背中に手を当てて、先を急ごうとした。
「……では、私達はこれで」
だが、ネルソンの言葉はまだ続いた。
「理由は無いが、作ればある」
ロットが咄嗟にショーコを抱き抱えて飛び退いた。
そこへ、ネルソンの鋭いキックが空を切った。
「流石に勇者ロットだ。有名人は一味違うな」
ネルソンはその光景を見てニヤリと笑った。
男達が気色ばむ。
ロットはため息を吐いた。
「自分で思っているほど有名では無いんですかね。私もまだまだです」
ロットが肩を落とす。
「……割烹着のせいじゃないかしら。イメージって大事なのよね」
ショーコがロットの腕にしがみつきながらも、冷静に分析する。
「えー。だってフリフリのヤツは評判悪いんですもん。もうこれくらいしか……」
どうしてそこまで作業着にこだわるのか。
ショーコにはさっぱり解らなかった。
「適した格好は大事なんですよ」
ショーコの心中を察してロットが言う。
「せめてマント込みじゃないと解らないと思うの……」
ショーコの言葉ももっともだったが、マントを着けて家事仕事では、邸の主よりも偉そうである。
流石にそれは無いだろう。
「てめえら、何をゴチャゴチャ言ってやがる!」
男達はいきり立った。
ロットはショーコを後ろに庇うと、男達を数えた。
「ひい、ふう、み……七人か。八人居た訳だ」
足元で伸びている男も加える。
「自分で名乗るのはハッキリ言って恥ずかしいが仕方が無い。私はロット。人は勇者ロットと呼んでくれますが」
仕方無くと言った割りに、ロットは腰に手を当てて胸を張った。
元々目立ちたがり屋なのかも知れない。
そうで無ければ、勇者などやってられまい。
ショーコは勝手にそんな事を考えていた。
「勇者ロットだあ? 嘘つけ! そんな所帯染みた勇者が居る訳ないだろ!」
男達は口々にロットを突っ込んだ。
それもかなり的確だ。
ロットは、張っていた胸を次第にしぼませる。
何だか、しょんぼりしてしまった。
「だからイメージが大事だと言ったのよ」
ショーコがロットの背後から声を掛ける。
「……そうですね。次からはせめてフル装備で、前掛けくらいにしておきます」
小声で言うロットの言葉を、ショーコは想像してみた。
勇者の盾に勇者の剣を携えて、鎧と兜とマントを羽織った勇者のフル装備。
それに前掛け。
もはや、違う迫力を醸し出す予感しかしない。
「……それに付いては相談に乗りますから、後でもう少し考えましょ、ね?」
ショーコがロットに言った。
「良いから早く女をこっちに寄越しな!」
男達が痺れを切らす。
先頭の男がロットの脇からショーコへ手を伸ばす。
「キャッ!」
ショーコが短く悲鳴を上げた瞬間、途中からは男の悲鳴に声が変わった。
「いてててててえーッ! いでえッ!」
ロットが男の腕を軽く捻り上げる。
「口で言っても解らないなら、実力行使しか有りませんね。お相手しますよ、掛かって来なさい」
ロットが男を突き飛ばす。
逃れた男は痛む腕を擦りながら、ロットの顔を見た。
言われてみれば勇者ロットに見えなくも無い。
昔、ちらっと一目見ただけだったが似ている気がする。
「……アンタ、まさか本当に」
男達は後ずさる。
「最初からそう言っています」
ロットがそう言うと、男達は顔を見合わせた。
「相手が悪過ぎる……!」
「まさか、本当にロットの筈が無いだろう」
「じゃあ、お前が行って試してみろよ」
男達は意見が割れて揉め始めた。
ロットは、この流れなら面倒事は回避出来たなと安心した。
出来る事ならば、騒ぎは起こしたく無い。
「てめえら、何意気地の無い事を言ってやがる。全員半殺しにされてえのか?」
不意に大きな声がした。
芯の通った力強い声だ。
声に自信を感じさせる力がある。
「ひ……ネ、ネルソンさん!」
男達は振り向いて、声の主に驚いた。
「てめえら、いつまでも何処をほっつき歩いてやがるんだ。しかも何だ。たった一人にまた泣かされてるのか!」
ネルソンに怒鳴られて、男達は小さくなった。
しかし、明らかにロットに対する萎縮は無くなっている。
ロットがネルソンを見た。
この男、相当強い。
一目見てロットには感じるものがあった。
雰囲気だ。みなぎる自信が前身から溢れているのを感じる。
根拠の無い自信では無さそうだ。
単なるお山の大将とは違う。
ネルソンが男達を掻き分けて前へ出て来た。
「よお、アンタ……ロットだろ?」
これが普通の反応だ。
ロットはわずかに安心した。
大丈夫だ。ちゃんと知られている。
「そうですが、貴方は?」
ネルソンがボルサリーノハットを上げて、その奥からロットを見つめた。
「俺はネルソンって者だ。ネグラムの幹部だと言えば、どんな人間かアンタなら解るだろう」
なるほど。マフィアの幹部とその手下達と言う訳か。
面倒臭い事になって来たなとロットは思った。
「ネグラムなら知ってますよ。有名ですから知らない者は居ないでしょう。私の事もご存じならお互いにここでぶつかる理由は無いと思いますが?」
ロットは取り敢えず和解案を匂わせてみた。
ネルソンは顎に手をやると考える素振りを見せる。
「そうだなあ。確かに理由は無いな」
ロットはショーコの背中に手を当てて、先を急ごうとした。
「……では、私達はこれで」
だが、ネルソンの言葉はまだ続いた。
「理由は無いが、作ればある」
ロットが咄嗟にショーコを抱き抱えて飛び退いた。
そこへ、ネルソンの鋭いキックが空を切った。
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ネルソンはその光景を見てニヤリと笑った。
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