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本編
これも才能
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本当にこんないい加減な方法で良いのか。
自分が言い出した事とは言え、ヤーゴは流石に心配だった。
大体、普通に考えれば目立ってはいけないのだ。
だからこそ少人数で行動している。
この辺りの盛り場で最も盛況な所、しかも比較的荒くれ者の多そうな店。
ヤーゴが調べた所がこの店である。
唯桜は全く躊躇せずどんどんと中へ入って行く。
見掛けない顔だとこっちをジロジロ見ている奴らが何人も居る。
こう言う店では馴染みになるまでは隅っこで飲んでる物である。
唯桜は知ってか知らずか、店の真ん中の大きなテーブルに一人陣取った。
周囲の視線が突き刺さる。
明らかに誰かの指定席っぽい。
毎度ながらヤーゴは騒ぎに巻き込まれるのを覚悟した。
こう言う時の唯桜は止めてもどうせ無駄である。
だからヤーゴも黙っていた。
「おい。てめえ」
早速おいでなすった。
ヤーゴは声のする方を見るのも嫌だった。
「おい、聞いてんのか! てめえらだよ!」
男の野太い声が怒鳴り声に変わった。
ヤーゴが溜め息を吐きながら声の主を見る。
想像通りの悪そうな人相がそこにはあった。
「どこに座ってるか解ってんのか? そこはロンメルさんの席なんだよ! さっさと退きやがれ!」
お手本通りのセリフである。
ヤーゴはいよいよ諦めた。
もうなるようにしかならない。
何気なく唯桜の顔を見る。
ニヤア
唯桜が悪魔の様な顔で笑いを堪えているのが見えた。
恐ろしい……。
ヤーゴはどっちの顔も見ない事にした。
「てめえ! 無視するんじゃねえよ!」
バアンッ!
男がテーブルを叩いた。
店内の視線が一気にこのテーブルへと集まる。
唯桜は全ての視線が向けられている事を確認してから、ようやく男の顔を見た。
「……うるせえな、このハゲ。ブルドッグみてえな面しやがって。その何とかって奴はおめえじゃねえんだろ? だったらすっこんでろ」
男が一瞬、ポカーンとした。
だがすぐに真っ赤になって激昂する。
「な、なな、なんだとおっ! てめえ! 死にてえのか!」
「何言ってやがる。テメエなんぞに俺が殺れる訳ねえだろ。ただのハゲかと思ったらタコなのかてめえは。ブルドッグなのかタコなのかハッキリしやがれ、このタコドッグ」
唯桜が子供に聞かせる様に、ゆっくりと言い放つ。
「この野郎!」
男が唯桜の上着の襟を捕まえた。
だが、唯桜はピクリとも動かない。
「てめえ、やってくれたな……弁償しろ」
「な、何いっ!」
「俺の一張羅にシワをつけやがって……百円だ。耳を揃えて弁償しろ」
唯桜が静かに言った。
静かに話す唯桜ほど恐ろしい物は無いとヤーゴは思った。
付き合いが長くなるほど解る。
これは嵐の前の静けさなのだ。
ちなみに百円は現代の感覚でおよそ百万円である。
「てめえ調子に乗……!」
ハキイッ!
男はセリフを最後まで言わせてはもらえなかった。
唯桜に頭を掴まえられて、顔面を激しくテーブルへと叩き付けられたからだ。
一瞬で店内は静かになった。
凍り付いたと言っても良い。
驚きと恐怖と、このあと訪れる修羅場を予感しての事である。
ロンメルの部下をやりやがった……。
小さな囁きがそこかしこから聞こえた。
唯桜はそんな事は少しも気にせず、近くを通りがかったウェイトレスに飲み物を注文した。
揉め事を起こす事に掛けては天下一品である。
台本通りに騒ぎを興せと言われても、これほど見事にこなすのは普通は中々難しい。
ひいっ、と小さな悲鳴が上がった。
入り口の方からざわめきが波の様に巻き起こる。
それはすぐに唯桜のテーブルにも伝わった。
モーゼの十戒もかくやと言わんばかりに、人混みが左右に割れて道が出来る。
ヤーゴはその光景を何事かと見守った。
息を呑む声が近付いてくる。
それと共に、男が現れた。
その後ろに数人の取り巻きが見える。
ヤーゴは感心した。
「ブランにもこんな悪そうなのが居るんだな」
思わずそう呟く。
「この間の一件で大分荒れたからな。近隣から火事場泥棒みてえなのがワンサカやって来たんだろ。こう言うのはどこも同じよ」
唯桜はそう言いながら一気に酒を飲み干した。
見もしないでそこまで解るとは、やはり蛇の道は蛇か。
なるほど、ナイーダ姫が言っていた事後処理と言うのはこう言う事か。
そこでヤーゴはやっとピンと来た。
「貴方、見ない顔ね」
先頭の男が言った。
予想に反してオカマっぽい。
唯桜が鼻で笑った。
男がピクッと反応した。
「何が可笑しいのかしら?」
周りがシンとした。
緊張感が伝わる。
「どこを笑って欲しいのか一つにまとめてから来いよ。こっちも困るじゃねえか」
唯桜が笑いながら言う。
「何ですって?」
「てめえだって余所モンだろうが、古株ヅラすんじゃねえよ。しかもオカマとはな」
唯桜はクククと笑いを堪えた。
「貴方、面白いわね……ただのお馬鹿さんなら死ぬ事になるけど」
男はそう言うとパチンと指を鳴らした。
自分が言い出した事とは言え、ヤーゴは流石に心配だった。
大体、普通に考えれば目立ってはいけないのだ。
だからこそ少人数で行動している。
この辺りの盛り場で最も盛況な所、しかも比較的荒くれ者の多そうな店。
ヤーゴが調べた所がこの店である。
唯桜は全く躊躇せずどんどんと中へ入って行く。
見掛けない顔だとこっちをジロジロ見ている奴らが何人も居る。
こう言う店では馴染みになるまでは隅っこで飲んでる物である。
唯桜は知ってか知らずか、店の真ん中の大きなテーブルに一人陣取った。
周囲の視線が突き刺さる。
明らかに誰かの指定席っぽい。
毎度ながらヤーゴは騒ぎに巻き込まれるのを覚悟した。
こう言う時の唯桜は止めてもどうせ無駄である。
だからヤーゴも黙っていた。
「おい。てめえ」
早速おいでなすった。
ヤーゴは声のする方を見るのも嫌だった。
「おい、聞いてんのか! てめえらだよ!」
男の野太い声が怒鳴り声に変わった。
ヤーゴが溜め息を吐きながら声の主を見る。
想像通りの悪そうな人相がそこにはあった。
「どこに座ってるか解ってんのか? そこはロンメルさんの席なんだよ! さっさと退きやがれ!」
お手本通りのセリフである。
ヤーゴはいよいよ諦めた。
もうなるようにしかならない。
何気なく唯桜の顔を見る。
ニヤア
唯桜が悪魔の様な顔で笑いを堪えているのが見えた。
恐ろしい……。
ヤーゴはどっちの顔も見ない事にした。
「てめえ! 無視するんじゃねえよ!」
バアンッ!
男がテーブルを叩いた。
店内の視線が一気にこのテーブルへと集まる。
唯桜は全ての視線が向けられている事を確認してから、ようやく男の顔を見た。
「……うるせえな、このハゲ。ブルドッグみてえな面しやがって。その何とかって奴はおめえじゃねえんだろ? だったらすっこんでろ」
男が一瞬、ポカーンとした。
だがすぐに真っ赤になって激昂する。
「な、なな、なんだとおっ! てめえ! 死にてえのか!」
「何言ってやがる。テメエなんぞに俺が殺れる訳ねえだろ。ただのハゲかと思ったらタコなのかてめえは。ブルドッグなのかタコなのかハッキリしやがれ、このタコドッグ」
唯桜が子供に聞かせる様に、ゆっくりと言い放つ。
「この野郎!」
男が唯桜の上着の襟を捕まえた。
だが、唯桜はピクリとも動かない。
「てめえ、やってくれたな……弁償しろ」
「な、何いっ!」
「俺の一張羅にシワをつけやがって……百円だ。耳を揃えて弁償しろ」
唯桜が静かに言った。
静かに話す唯桜ほど恐ろしい物は無いとヤーゴは思った。
付き合いが長くなるほど解る。
これは嵐の前の静けさなのだ。
ちなみに百円は現代の感覚でおよそ百万円である。
「てめえ調子に乗……!」
ハキイッ!
男はセリフを最後まで言わせてはもらえなかった。
唯桜に頭を掴まえられて、顔面を激しくテーブルへと叩き付けられたからだ。
一瞬で店内は静かになった。
凍り付いたと言っても良い。
驚きと恐怖と、このあと訪れる修羅場を予感しての事である。
ロンメルの部下をやりやがった……。
小さな囁きがそこかしこから聞こえた。
唯桜はそんな事は少しも気にせず、近くを通りがかったウェイトレスに飲み物を注文した。
揉め事を起こす事に掛けては天下一品である。
台本通りに騒ぎを興せと言われても、これほど見事にこなすのは普通は中々難しい。
ひいっ、と小さな悲鳴が上がった。
入り口の方からざわめきが波の様に巻き起こる。
それはすぐに唯桜のテーブルにも伝わった。
モーゼの十戒もかくやと言わんばかりに、人混みが左右に割れて道が出来る。
ヤーゴはその光景を何事かと見守った。
息を呑む声が近付いてくる。
それと共に、男が現れた。
その後ろに数人の取り巻きが見える。
ヤーゴは感心した。
「ブランにもこんな悪そうなのが居るんだな」
思わずそう呟く。
「この間の一件で大分荒れたからな。近隣から火事場泥棒みてえなのがワンサカやって来たんだろ。こう言うのはどこも同じよ」
唯桜はそう言いながら一気に酒を飲み干した。
見もしないでそこまで解るとは、やはり蛇の道は蛇か。
なるほど、ナイーダ姫が言っていた事後処理と言うのはこう言う事か。
そこでヤーゴはやっとピンと来た。
「貴方、見ない顔ね」
先頭の男が言った。
予想に反してオカマっぽい。
唯桜が鼻で笑った。
男がピクッと反応した。
「何が可笑しいのかしら?」
周りがシンとした。
緊張感が伝わる。
「どこを笑って欲しいのか一つにまとめてから来いよ。こっちも困るじゃねえか」
唯桜が笑いながら言う。
「何ですって?」
「てめえだって余所モンだろうが、古株ヅラすんじゃねえよ。しかもオカマとはな」
唯桜はクククと笑いを堪えた。
「貴方、面白いわね……ただのお馬鹿さんなら死ぬ事になるけど」
男はそう言うとパチンと指を鳴らした。
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出版社: アルファポリス
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