見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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十三

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 彼の行動が大胆過ぎて、俺の呼吸がどんどんと荒くなっていく。
心の準備が出来る前に、展開していく目の前の状況へ追い付けていないのだ。

 階下は暗かった。
生臭さを感じるが部屋の様子を確認する事は難しい。

「灯り。持ってないか?」

 オオムカデンダルが言った。

「ああ、ある」

 俺は急いでポーチから小さな燭台と蝋燭を取り出す。
そして、おもむろに蝋燭に火を灯した。

 辺りがポウッと明るくなる。
大した光量ではないが暗闇では十分に頼りになった。

「うわあああああッ!!」

 俺は理解するより先に叫んでいた。
それが何なのかとか、どういう状況なのかは頭の中には無かった。
本能的に絶叫したと言っていい。

 広さはそれほどでもない。
この家の広さと同じくらいか。
部屋一杯に何かがぶら下がっている。

 いや、吊るされているのか。

 肉だ。
血が滴っている。
動物を屠殺した肉を吊るしているのか。
しかし、それにしては汚い。

 血にまみれて洗われてもいない。
大した処理も施されていない。
皮だけ剥いで、適当にカットして吊るしたと言う感じだ。

 だが。

 俺が声を上げたのはこのせいだ。
咄嗟に理解できなくても、生理的な拒否感が真っ先に口を突いて出たのだ。

「人間だな……」

 オオムカデンダルは一つ一つ確認するように吊るされた肉の塊を手で触っていた。

 モンスターとの戦いを何度も経験している俺でさえ、こんな惨たらしい死体には触れたことはない。

 この男は全くなんとも思っていないのか。

「……」

 俺は耳を疑った。
嫌だ。
聞きたくない。

「……たすけて」

 聞こえるか聞こえないかと言う小さな声で、俺の耳に最も聞きたくない声が届いた。

 俺は恐る恐る必死に目を見開いた。
見たくない気持ちが強すぎて、必死に見開いた俺の目はそれでも細く薄目を開くのが精一杯だった。

「……たすけて」

 吊るされた肉塊の中に、見慣れた顔があった。
血まみれで真っ赤に染まった表情は読み取れなかったが、間違いない。

「あ……ああ。ああ……」

 俺は名前を呼んだつもりだったが言葉にはなっていなかった。

 彼女は俺の最も古い仲間だ。
一緒にミラーナイトに昇格したレンジャーだ。
最も多く困難を共にした戦友であり、恋心を抱いていた女性だ。

「酷いなこりゃ。可哀想だが楽にしてやった方がいい」

 オオムカデンダルが他人事のように口にする。

「ふざけるなッ!」

 俺はその瞬間、出したことの無いような大声でオオムカデンダルに叫んだ。

 そんなの嫌だ。
出来るはずがない。

 俺は彼女を抱き締めようとした。

「やめとけ。そいつに苦痛を与えるだけだ」

 言われて俺は抱き締めようとしていた自分の腕を寸前で止めた。

「辛うじて生きているだけだ。こんなフックに肉を直接引っ掛けられたままお前に抱き付かれたら、余計ダメージを与える事になる」

 俺はどうすればいい。
助けることも出来ず、殺してやることも出来ない。

 抱き締めることも許されないのか。
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