見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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二〇

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「どういうつもりだ」

 インテリ風の男が言った。
言葉には怒気がこもっており明らかにピリピリしている。

「別にいいだろ。今さら秘密結社ぶるなよ」

 オオムカデンダルは全く悪びれずに言い返す。

 例の屋敷の例の部屋で例の面子が揃う中、俺は黙って立っていた。
腕の中の彼女がまだ生きているかどうかは判らない。

 でも、もう多分。

 俺は幾分落ち着きを取り戻し、冷静に腕の中の彼女を見つめていた。
外野の声を聞きながら。

「神経質になりすぎだ。俺たちはこの世界に迷い込んだ時点で、もう何の存在意義も達成すべき目的も全て消失した筈だ。そうだろ?」

 オオムカデンダルが珍しく理屈で言い返す。

 この世界に迷い込んだ?
気になる単語はポンポンと出てくるが、今の俺はそれを気にするような心境ではなかった。

 虚無感。
要するに周りに対する興味を失っており、全てがどうでもいいという心境だということだ。

「そんな事を言っているんじゃない!」

 インテリがテーブルをバンと叩いた。

「じゃあ何故お前はここから出て行かない。ここから出て一般人に紛れて、一般人として生きていけばよかろう」

 一瞬で冷静さを取り戻し言葉を続ける。
さすがはインテリだ。
それともそれは俺の偏見か。

「俺たちは普通の人間の体を捨てたのだ。一般人と共に暮らしたところで俺たちは歳を取らない。二十年も過ごせば周りとは明らかに違ってくる。お前はそれを理解しているからここにいるんだろう」

 何だか夢みたいな事を言っているなとは思う。
だがそれでも今の俺にとってはどうでもいいことだった。
人間が心理状態によって、ここまで無関心になれるものかと自分でも驚く。

「十万年だぞ。多分コイツらが全て死に絶えて、新たな生命が息吹いて、それらが文明を持つのに十万年だ。それまで俺達は死ねない」

 そいつは凄い。
不老不死には憧れるが、こんな風に考えたことはなかった。
リアルに考えれば不老不死なんて恐ろしいことなのだな。俺はゴメンだ。

「判ってるよ十万年だろ?判ってるって。でもよ、十万年生きるならたかが人間一匹気にしすぎだろ?お前の人生観のスケールが小さいんだよ」

「……なんだと」

 インテリ男の感情が一瞬で沸点を越えたのを感じた。
コイツ、意外と短気だ。

「まあいいんじゃない。オオムカデンダルが面倒みるって言ってるんだし。ちゃんと世話はするんだよね?」

 上座に座る少年が抑揚なく言った。
まるで子犬を拾ってきて母親に叱られる息子と、それを庇う父親といった感じだ。
当然この場合の子犬は俺だ。

「フィエステリアーム、それは賛同できない。人間は確かにゴミだが集団になると侮れん。この場所を嗅ぎ回る奴等が現れないとは言い切れないんだぞ。人間は自分達とは異なる存在をそのままにはしておかない」

 インテリが少年に対して異議を唱える。
俺は段々と力関係が見えてきた気がしていた。
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