見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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三二

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「一人でか?」

 所長が驚いた。

 無理もない。
今の話を聞いた後で一人で事件に首を突っ込もうなどという奴はいない。
伊達や酔狂でもなければ。

「……仇を討つつもりか」

 当然そう思うだろう。
そしてそれは完全に誤りではない。
半分はその気持ちなのだから。

 だが理由の残り半分は、放っておくのはあまりに危険だからだ。
ベテラン冒険者が一〇人もやられるような化け物を量産されでもしたらそれこそ取り返しがつかない。

 被害者は加速度的に増えるであろうし、それを討伐するための人員も倍々で増えていく。

 これは元から断たなければならないのだ。
狂信者共を探しだし、叩き潰さなければ。
とても国の判断など待ってはいられない。

 いや、そもそも国が動いてくれる保証もない。
こんな辺境の領地に国軍が来るとは思えないし、かといって領主の持つ兵士だけでは人手が足りまい。

 この小さな領地では兵士の数も最低限しか配置されておらず人手は常に不足している。
だからこそ冒険者を使って捜索なり探索なりをさせているのだ。

 仮に国から人員が割かれるとして、それは一体いつのことになるのか。

 だから今やるしかないのだ。
この俺が。
そして今の俺なら全くの不可能ではない。
たぶん。

「待てレオ。気持ちは判るが一人では無理だ」

 所長が止める。
判っている。所長は何も間違ってはいない。
彼の立場では行かせる訳にはいかないのも理解している。

「しかし行かない訳にはいかない。悠長に事を構えている時間もない」

 それだけ言えば所長にも意味は伝わる筈だ。
俺を引き留めるだけのもっともな理由など、今この地にはない。

 所長の顔が煩悶していることを物語る。

「……判った。だが少し時間をくれ。何とか冒険者を募集してみよう」

 冒険者か。
それしか方法はあるまい。
しかしミラーナイト一〇人が全滅するような相手なのだ。
これ以上犠牲者は増やせまい。
大人数では行動も遅くなる。
となれば……

「ハイパーナイトクラスを募集しよう。今この地に何名いるかは判らんが……」

 やはりそうなるか。
ハイパーナイトを雇うとなればそれなりに金が必要になる。
所長も頭が痛いな。

「二日、いや三日待ってくれ」

 所長が言った。

「そんなに待てない」

 一日だって惜しいのだ。
だが一日では誰も集まるまい。
所長には悪いが俺は最初から一人で行くつもりだったのだ。
何の問題もない。

「……判った。ではこうしよう」

 そう言うと所長は机の引き出しからバッジを取り出した。

「これは各斡旋所の特使バッジだ。所長権限で特別な権限が必要な者に貸し与えられる。これを着けていれば俺に準ずる権限が与えられる。責任は俺持ちになる訳だが……」

 こんな大事な物を貸すのは所長としても相当な覚悟が必要な筈だった。
彼は事の重大性を正確に把握している。

「これで行く先々の斡旋所で冒険者を募集するがいい。依頼はウチの斡旋所の扱いになる。費用もウチ持ちだ。正規の依頼だから信用もある。ハイパーナイトクラスを募集するには役に立つ筈だ」

 そう言って所長はバッジを俺に握らせた。
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