見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
32 / 826

三二

「一人でか?」

 所長が驚いた。

 無理もない。
今の話を聞いた後で一人で事件に首を突っ込もうなどという奴はいない。
伊達や酔狂でもなければ。

「……仇を討つつもりか」

 当然そう思うだろう。
そしてそれは完全に誤りではない。
半分はその気持ちなのだから。

 だが理由の残り半分は、放っておくのはあまりに危険だからだ。
ベテラン冒険者が一〇人もやられるような化け物を量産されでもしたらそれこそ取り返しがつかない。

 被害者は加速度的に増えるであろうし、それを討伐するための人員も倍々で増えていく。

 これは元から断たなければならないのだ。
狂信者共を探しだし、叩き潰さなければ。
とても国の判断など待ってはいられない。

 いや、そもそも国が動いてくれる保証もない。
こんな辺境の領地に国軍が来るとは思えないし、かといって領主の持つ兵士だけでは人手が足りまい。

 この小さな領地では兵士の数も最低限しか配置されておらず人手は常に不足している。
だからこそ冒険者を使って捜索なり探索なりをさせているのだ。

 仮に国から人員が割かれるとして、それは一体いつのことになるのか。

 だから今やるしかないのだ。
この俺が。
そして今の俺なら全くの不可能ではない。
たぶん。

「待てレオ。気持ちは判るが一人では無理だ」

 所長が止める。
判っている。所長は何も間違ってはいない。
彼の立場では行かせる訳にはいかないのも理解している。

「しかし行かない訳にはいかない。悠長に事を構えている時間もない」

 それだけ言えば所長にも意味は伝わる筈だ。
俺を引き留めるだけのもっともな理由など、今この地にはない。

 所長の顔が煩悶していることを物語る。

「……判った。だが少し時間をくれ。何とか冒険者を募集してみよう」

 冒険者か。
それしか方法はあるまい。
しかしミラーナイト一〇人が全滅するような相手なのだ。
これ以上犠牲者は増やせまい。
大人数では行動も遅くなる。
となれば……

「ハイパーナイトクラスを募集しよう。今この地に何名いるかは判らんが……」

 やはりそうなるか。
ハイパーナイトを雇うとなればそれなりに金が必要になる。
所長も頭が痛いな。

「二日、いや三日待ってくれ」

 所長が言った。

「そんなに待てない」

 一日だって惜しいのだ。
だが一日では誰も集まるまい。
所長には悪いが俺は最初から一人で行くつもりだったのだ。
何の問題もない。

「……判った。ではこうしよう」

 そう言うと所長は机の引き出しからバッジを取り出した。

「これは各斡旋所の特使バッジだ。所長権限で特別な権限が必要な者に貸し与えられる。これを着けていれば俺に準ずる権限が与えられる。責任は俺持ちになる訳だが……」

 こんな大事な物を貸すのは所長としても相当な覚悟が必要な筈だった。
彼は事の重大性を正確に把握している。

「これで行く先々の斡旋所で冒険者を募集するがいい。依頼はウチの斡旋所の扱いになる。費用もウチ持ちだ。正規の依頼だから信用もある。ハイパーナイトクラスを募集するには役に立つ筈だ」

 そう言って所長はバッジを俺に握らせた。
感想 238

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

居酒屋の看板娘でしたが、歌の治癒魔法が覚醒して王女に戻されました〜幼い頃に出会った側近様と紡ぐ恋〜

丸顔ちゃん。
恋愛
生まれてすぐに誘拐され、死んだとされた王女── その赤子は、実は平民街にひっそりと置き去りにされていた。 病弱な父に拾われ、居酒屋の看板娘として育ったミリア。 白い小花を髪に挿し、歌うことが大好きな少女。 自分の歌に“治癒の力”が宿っていることなど知らずに、 父と平民仲間に囲まれ、穏やかな日々を送っていた。 ある日、市場にお忍びで来ていた皇太子とその側近が、ミリアの歌声を耳にする。 皇太子は“王族にしかない魔力の波動”を感じ、 側近は幼い頃の祭りで出会った白い小花の少女を思い出し、胸がざわつく。 その直後、父が危篤に。 泣きながら歌ったミリアの声は奇跡を起こし、治癒魔法が覚醒する。 「どうして平民の私に魔力が……?」 やがて明かされる真実── ミリアこそ、行方不明になっていた王女その人だった。 王宮に迎えられ、王女としての生活が始まる。 不安と戸惑いの中、そばにいてくれるのは、 幼い頃に一目惚れし、今も変わらず彼女を見つめる皇太子の側近。 「今度こそ、君を見失わない」 歌姫王女として成長していくミリアと、 彼女を支え続ける側近の、優しくて温かい恋の物語。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

私の存在

戒月冷音
恋愛
私は、一生懸命生きてきた。 何故か相手にされない親は、放置し姉に顎で使われてきた。 しかし15の時、小学生の事故現場に遭遇した結果、私の生が終わった。 しかし、別の世界で目覚め、前世の知識を元に私は生まれ変わる…