見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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五四

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「よお、生きてるかァ?」

 この場におよそ似つかわしくない、緊張感のかけらもない言葉が上空から聞こえてきた。

「……オオムカデンダル」

 俺は彼の名前を呼んだ。
数日会っていないだけなのに、ひどく懐かしい気がした。

「よっ」

 どっ!

 オオムカデンダルは空を飛ぶ不思議な塊から飛び降りると、地面に難なく着地した。

「よお、あんたがヴァンパイア?伯爵とか言われてるんじゃなかった?あれ?ドラキュラ伯爵とは関係ないのか」

 相変わらず訳の判らない、場違いな事を何やら言っている。
だが、何故かそれが今は頼もしく感じられた。
不思議だ。

「……その声。ミミズクの声だな」

 ヴァンパイアが眉間にしわをよせてそう言った。
明らかに不快をもよおしている。

「よく三分持たせたな、偉い偉い」

 オオムカデンダルはヴァンパイアを無視して俺に向くと笑顔でそう言った。

「貴様……大物振るなよ」

 自分を無視されてヴァンパイアは意外なほど激昂していた。
無理もない。
生まれてこの方、ここまで露骨に無視されたことなどないのだろう。

 当然だ。
なにせヴァンパイアなのだから。

 人間と相対すれば、必ず何かしらの感情を向けられる存在。

 怒り、恐怖、絶望、憎悪。
あらゆる感情の対象者。
魔王ヴァンパイアを無視できる人間など存在しない。

 それが今、目の前でこれ見よがしに無視されている。

 俺はヴァンパイアの金縛りから解放された。
その場で地面に座り込む。

「大丈夫かよ?ま、そこで適当に休んでな」

 オオムカデンダルはそう言ってヴァンパイアに向き直った。

「くくくく……」

 俺は無意識に笑いが込み上げていた。

 まさか魔王ヴァンパイアが無視されることに敏感な、自己顕示欲の強い自意識過剰の構ってちゃんだったとはな。

 どっちが町娘みたいだ。
自分の方がよっぽど女の子じゃないか。

「おい、蜻蛉洲。ちゃんと記録とっておけよ」

 オオムカデンダルはミミズクを指差して大声で叫んだ。

『うるさい。他人を手伝わせやがって。今回だけだからな』

 ミミズクから今度はアキツシマの声が聞こえてきた。

「またぁ。そんなこと言っても手伝ってくれるお前が好きだぜ」

 オオムカデンダルの言葉にミミズクから『チッ』と舌打ちする音が聞こえた。

「さて、じゃあ噂のヴァンパイアがどんなもんか、テストしてみるかね」

 そう言ってオオムカデンダルは右肩をぐるぐると回す。

「いくぜ」

 オオムカデンダルは、言うが早いかその場でクルリと一回転した。

 そして。

「へへっ。怪人オオムカデンダル参上」

 あの時と同じく、正面を向いた時にはその姿はもう変わっていた。
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