見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
57 / 826

五七

 ヴァンパイアが笑みを浮かべる。

「ふふふ。少し面食らったが所詮はこの程度だ。まあ、お前よりは少し手強かったかな?」

 そう言ってヴァンパイアは俺を見た。

 恐ろしい。
やはり人間には敵わないと思わせる迫力がヴァンパイアにはある。

 だが。

 俺は震える自分の足を力一杯殴った。

「動け!この役立たずが!ビビってんじゃねえ!」

 恐ろしくて堪らない。
それはもう間違いなく俺の人生の中で一番に恐ろしい状況だった。

 未だに足は震えているし、それを殴る俺の手もまた震えていた。
恥ずかしくて言いたくはないが、今にも失禁しそうだった。

 しかしもう後悔はしたくなかった。
あんな思いをしていなければ、今俺は全力で逃げ出している。
いや、命乞いだってしているだろう。

「冗談じゃない……」

 俺は小声で呟いた。
それは自分自身に対しての言葉だ。

「あんな惨めな思いはもうたくさんだ。何もせずに後悔してたまるか……!」

 自分でも信じられなかったが、俺はそう呟いてやっと立ち上がった。

 足がプルプルと震えている。
生まれたての子馬のようだ。
それでも俺は立ち上がることをやめなかった。

 何人救えるか判らない。
一人も救えないかもしれない。
だが何もせずに後悔だけできるか。

 自己満足で結構。
俺は聖人君子ではないのだ。

「俺は……冒険者だ」

 震える指に力を込めて、剣を強く握りしめる。

「人間らしい……実に人間らしい。恐怖に飲み込まれそうなくせに必死に抵抗する。母親にはたまに居るタイプだが……」

 ヴァンパイアはそう言って不敵に笑みを浮かべた。

「そういうヤツの血が一番旨い……」

 ヒャヒャヒャヒャヒャと今までとは違う笑い方でヴァンパイアが笑った。
高笑いだ。
こっちが本性って訳だ。

 胸糞悪い。

「なるほどねえ。怯える奴をいたぶると飯が旨くなるタイプか。まあ、たまに居るなそういうヤツ」

 突然オオムカデンダルの声がした。

 バキッホキッ!

 キャンッ、キャインッ!

 骨が砕ける音と狼の鳴き声が同時に聞こえた。
この化物狼があんな悲鳴をあげるなんて想像もつかないが、もっと想像もつかない光景を俺は目の当たりにした。

 狼の口があり得ない角度で開かれた。
そして狼の口が裂ける。

 オオムカデンダルが容易く両腕で引き裂いたのだ。
いや『引きちぎった』がより正確かもしれない。

 これにはヴァンパイアも驚きを隠せなかった。
それは表情を見れば誰にでも判っただろう。
ヴァンパイアがあんな顔で驚くなんて、今後もう二度と見られないだろう。

「あー、くせぇ。ヨダレでベッチョベチョだぜ」

 オオムカデンダルはそう言って、手にしていた狼の下顎を投げ捨てた。
感想 238

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

居酒屋の看板娘でしたが、歌の治癒魔法が覚醒して王女に戻されました〜幼い頃に出会った側近様と紡ぐ恋〜

丸顔ちゃん。
恋愛
生まれてすぐに誘拐され、死んだとされた王女── その赤子は、実は平民街にひっそりと置き去りにされていた。 病弱な父に拾われ、居酒屋の看板娘として育ったミリア。 白い小花を髪に挿し、歌うことが大好きな少女。 自分の歌に“治癒の力”が宿っていることなど知らずに、 父と平民仲間に囲まれ、穏やかな日々を送っていた。 ある日、市場にお忍びで来ていた皇太子とその側近が、ミリアの歌声を耳にする。 皇太子は“王族にしかない魔力の波動”を感じ、 側近は幼い頃の祭りで出会った白い小花の少女を思い出し、胸がざわつく。 その直後、父が危篤に。 泣きながら歌ったミリアの声は奇跡を起こし、治癒魔法が覚醒する。 「どうして平民の私に魔力が……?」 やがて明かされる真実── ミリアこそ、行方不明になっていた王女その人だった。 王宮に迎えられ、王女としての生活が始まる。 不安と戸惑いの中、そばにいてくれるのは、 幼い頃に一目惚れし、今も変わらず彼女を見つめる皇太子の側近。 「今度こそ、君を見失わない」 歌姫王女として成長していくミリアと、 彼女を支え続ける側近の、優しくて温かい恋の物語。

公爵家の次女ですが、静かに学園生活を送るつもりでした

佐伯かなた
恋愛
王国でも屈指の名門、公爵アルヴィス家。 その家には、誰もが称賛する完璧な令嬢がいた。 長女ソフィア。 美貌、知性、礼儀、すべてを備えた理想の公爵令嬢。 そして──もう一人。 妹、レーネ・アルヴィス。 社交界ではほとんど名前も出ない、影の薄い次女。 姉ほど目立つわけでもなく、社交の中心にいるわけでもない。 だが彼女は知っている。 貴族社会では、 誰が本当に優れているのかは、静かな場面でこそ分かるということを。 王立学園に入学したレーネは、 礼儀作法、社交、そして人間関係の中で、静かに周囲を観察していく。 やがて── 軽んじていた者たちは気づく。 「公爵家の妹」が、本当はどんな令嬢だったのかを。 これは、 静かな公爵令嬢が学園と貴族社会で評価を覆していく物語。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

親世代ではなかったのですか?

立木
恋愛
親世代が「乙女ゲーム時代」だったと思っていたら、子世代も「乙女ゲーム」だった。 ※乙ゲー転生ですが要素は薄いです。 ※別サイトにも投稿。 ※短編を纏めました。