見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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六〇

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 バルバは武術家だ。
彼の目にはオオムカデンダルの姿は、俺以上の驚きをもって映ったはずだ。

「あれはレオ、お前の知り合いなのか?」

 バルバは体の自由を取り戻しつつあった。
他の者も同じ様子だ。
ガイもルガもディーレも体を起こしてオオムカデンダルの戦いを見守っていた。

「……なんなんだ、アイツは」

 ガイが感嘆の言葉を漏らす。
気持ちは判るが、そうは言われても説明できない。

「ク……ッ、逃げてばかりでは私は倒せんぞ」

 ヴァンパイアが悔しそうに言った。

「さっきお前もレオに同じことを言われていたじゃないか」

 オオムカデンダルが言い返す。
あの言い方は悪気なく言っているなと判る。
だから余計に質が悪い。

「うるさい!正々堂々とかかってきたらどうなんだ!」

 ヴァンパイアが怒鳴った。

「うはははは!お前がそれを言うか。魔王のくせに」

 オオムカデンダルが笑う。
言われた方は余計に頭にくるだろう。

「貴様……!」

 気色ばむヴァンパイアをまったく意に介さず、オオムカデンダルは余裕を見せた。

「良いぜ。まだ判らないみたいだから教えてやる。俺との差をな」

 そう言うとオオムカデンダルは後ろに下がるのをピタリと止めた。

 パンッ!

 急に甲高い音がした。

「クソッ……!」

 ヴァンパイアが顔を押さえて後ろに下がる。

「見えたか?今のパンチ」

 バルバが興奮気味に言った。
さすがだ。バルバには見えたらしい。
俺は強化されているから当然見えるが、生身で見えるとはさすがはハイパーナイトと言うべきか。
それとも武術家の目が鋭いのか。

「どうした?軽いジャブだぜ。見えなかった訳じゃないよな?」

 オオムカデンダルが拳をヴァンパイアに見せつける。

 おそらくヴァンパイアにも見えてはいる筈だ。
だが見えたからといって避けられるのか。
ましてや今のヴァンパイアは格段に大きい。
スピードはあっても体の大きさからくる的の広さは如何ともしがたい。

「いいのか続けても?滅多打ちにしちゃうけど」

 オオムカデンダルはステップも刻まずにベタ足で近付いていく。
それなのにヴァンパイアはその分だけ後ずさった。

 さっきまでの威勢はたった一発のジャブで消え去った。
今のヴァンパイアは不気味なほど静かだった。

 何を考えている。

 まさか降参などするとは考えられないが。
俺はヴァンパイアの考えを推し測ろうとした。

 仮にも魔王と呼ばれるヴァンパイアだが、今のままではヤツに勝ち目があるとは思えない。
しかし降参もするまい。
だとすればどうするか?

 逃走か。

 それが一番現実的だろう。
だがどうやって逃げる。
オオムカデンダルの動きを見る限り、そう易々とは逃げられまい。

 ヴァンパイアが一瞬こちらを見た。

 いや、これは。
ディーレたちを見ているのか。
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