見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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一〇九

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 は?

 俺はオオムカデンダルを見た。
何を言っている?

 フィエステリアームはもう……

 俺はフィエステリアームが倒れた辺りに視線をやった。

 !

「オオムカデンダル……」

 フィエステリアームが不安そうな声でオオムカデンダルを呼んだ。

 立っている。
そんな馬鹿な。
俺は我が目を疑った。

「なんだ?」

「あんまり痛くない……」

 フィエステリアームがどこか悲しそうに言う。
痛くない?
痛くないなら結構な事だと思うが。

 いや、それよりも。
何故立っていられるのか。
心臓を貫かれたのだ。
背中から剣が突き出しているのを、俺は確かに見た。

「……そうか。それは残念だったな。俺たちの痛覚はリミッターが掛かっているからな。違和感を覚える程度の痛みしか感じない。それ以上の痛覚は戦闘の際に邪魔になる」

 オオムカデンダルが子供に言い聞かせるような口調で説明した。

 彼らは痛みを感じないのか。
ならば、痛みによる恐怖とは無縁だ。
その事実一つ取っても、彼らにしてみれば強さの片鱗にしか過ぎないのだろう。

「人間の言う痛み……知りたかった……」

 フィエステリアームは心底がっかりした様子でそう呟いた。

「まだ終わってないぞ。お前にとっての初めての戦闘だ。喧嘩は勝つまでやれ」

 オオムカデンダルは父親が我が子に喧嘩の心構えを教えるように言う。
実際、そんな心境なのかもしれない。
フィエステリアームにはまだたくさんの教育が必要なのだろう。

 見た印象、フィエステリアームの知的水準は極めて高い。
足りないのは経験と一般常識くらいのものだろう。
それを教えてようとしているのだと思えた。

「なんだ……この子供はッ!」

 ルドムが気色ばむ。
天下の帝国将軍と言えども、脅威を感じずにはいられまい。
ルドムの実力が高ければ高いほど、相手のわずかな情報からその脅威を感じ取れるはずだ。

「やあっ!」

 フィエステリアームは子供らしい声で気合いを入れる。

 !

 気合いと同時にフィエステリアームの体は形を変えた。
これ以上、驚くことがまだあるのか。
俺はさすがに驚き疲れた。

 全身の形が流線型を多用したような、刺々しいデザインになった。
いかにも攻撃的な、危険を感じさせる形だ。

 ルドムも同じことを感じたようだ。
構えに余裕がない。
本気で構えているのが判る。

「しゅっ!」

 フィエステリアームの口から呼吸のような声が発せられた。

 ガッ!

 声と打撃音がほぼ同時だ。
フィエステリアームのパンチがルドムの腹に決まった。

 だが。

 ルドムは構わず打たせておいて、剣を再びフィエステリアームの胸へと突き立てた。
相討ち狙いか。
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