見知らぬ世界で秘密結社

二三九

「フフハハハ。何をしに来たのやら」

 キメラが笑う。
俺は呆気にとられてサイクロプスを見つめた。
まさか一撃とは。

「……ちょっと。女性を足蹴にするなんて上等な趣味とは言えないわよ」

 令子の声がする。
いきなりの出来事で動揺したが、彼女らが簡単にやられる筈などないのだ。

 サイクロプスの足元を見る。
そこには令子が両手でサイクロプスの足を持ち上げている姿があった。
その光景は奇抜すぎて、シュール以外の何物でもない。

「むぅ……」

予想外だったのだろう。
キメラが唸った。

「何者なのだ……お前たちは」

「それは俺の質問だ」

 一瞬の隙を突いて、俺はキメラの正面から逃れた。
奴は『うっすら見える』と言っていた。
それは逆に言えば、注意深く見なければ判らないと言うことだろう。
まだ消えているメリットは、わずかだがある。

 俺はキメラの周囲を高速で移動する。
完全にキメラの目から消えられない以上、的を絞らせないようにこちらから攻撃するのが得策だと考えた。

 しゅばっ！

 側面からキメラの横っ腹にキックを叩き込む。

「ぬ……っ」

 キメラがわずかに苦しそうな声を発した。
まったく効いていない訳ではないらしい。
改造人間の攻撃でこの程度とは。
俺が未だに普通の人間だったらと考えるとゾッとする。
どんな冒険者も、キメラには絶対に勝てまい。

「メエエェェェ！」

 山羊の頭が、いなないた。
真っ黒な山羊の頭だ。
黒山羊である。
山羊特有のあの目がギョロりとこっちを見た。

 見つかったか？
いや、見えてはいない筈だ。
俺は構わず反対側に回り込み、後ろ足の付け根辺りを攻撃した。

 ！

 俺は何かを察して、攻撃を途中で止めた。
そして後ろへ飛び退く。

 ピシャアァン！ゴロゴロゴロゴロ……！

 辺りが眩しい光に包まれた。
そして轟音。
落雷だ。
俺とキメラの間に落雷が落ちてきた。

 まさか、これもキメラの力なのか。
俺は驚愕した。
雷も呼べるとは。

 間髪入れず、ドラゴンの口が開かれる。

 ゴオオッ！

 灼熱の火炎が舐めるように辺りに広がる。

「くそっ！温度が高すぎる……！」

 ドラゴンの炎は普通の火とは、その火力が違った。
恐るべき超高温だ。
この体でさえ熱さを感じる。
直撃を食らったら危険すぎる。

 近付けない。
俺はもう一度触手を伸ばした。

「サフィリナックスヒューイット！」

 手首から伸びた触手がキメラを襲う。

 バィンッ！

「くそっ……！」

 信じられない。
瞬間的にプロテクションを唱えたと言うのか。
俺の触手は見えない壁に阻まれ、キメラには届かない。

 キメラになっても神官職の魔法が使えるなんて、神の加護とはいったい何なのか。
俺は舌打ちをした。