見知らぬ世界で秘密結社

二四六

 俺は狼狽した。
何度も視界情報を確認する。
だが、やはりレーダーには何の反応もなかった。

「そんな馬鹿な……」

 そんな事があるだろうか。
落下するにしてもレーダーにくらい映るだろう。
それともレーダーの範囲外まで高速で移動したのか。
そうだとすると、ホンの数秒でレーダーの圏外まで飛び去った事になる。
俺が全力で走るのはもちろん、ボードで飛ぶよりも速いスピードだ。

 俺は混乱していた。

「いったい、どうなってるんだ……」

 俺はキメラを思い出した。
そうだ、ヤツを締め上げるんだ。
俺は烈火の如く怒りが湧いてきた。
ボードを翻してキメラの元へと戻る。

 下を見ていると、令子がキメラの頭を持って歩いているのが見えた。
俺はすかさず急降下した。

 ザンッ！

 令子の前に飛び降りた。

「あら、どうしたの？何かあった？」

 令子がいつもの調子で尋ねてきた。
だが、今はそんな令子の様子にもカチンと来る。
俺は令子に歩み寄ると、キメラの頭を掴まえた。
正確には獅子のたてがみをだ。

「もう、乱暴ねぇ」

 令子が呆れた口調で言う。

「ハハハハ……どうだ。腹立たしいのだろう？良い気味だ」

 キメラがあざ笑う。
俺は無言でキメラの頭をぶん殴った。

「ぐおっ！」

 キメラの口から声が漏れる。

「おい……容赦はしないぞ。妹をどこへやった」

 俺は完全に冷静さを欠いていた。
それがどうした。
今すぐにでもコイツをペースト状にしてやりたいくらいだ。

「くくく、知りたいか？知ってどうなる物でもないがなぁ」

 バキィッ！

 俺はキメラが言い終わると同時に、またぶん殴った。

「ぐ……ッ！」

「早く言え」

  俺は手首から触手を出した。
先端がウネウネと蠢く。

「猛毒を打ち込むぞ」

 俺の言葉にキメラが ニヤアと笑う。

「クハハハハ……ワシに毒は効かぬ。無駄な脅しだ」

 どかっ！

 俺は問答無用でキメラの頭に触手を打ち込んだ。

「面白い。試してやる」

 キメラの脳天から毒を注入する。

「ぎゃああああああ！」

 途端にキメラが叫び出した。

「ひいぃぃぃぃぃっ！ひぎゃああああ！」

 まさに絶叫だ。

 令子がクスクスと笑う。

「馬鹿ねぇ。毒無効化なんてそれを上回る毒には意味ないわよ。なんたって蜻蛉洲君が作ったんだから」

 まだホンの少ししか注入していない。
キメラの毒耐性など微量でこのザマだ。

「毒耐性のせいで余計に苦しむ事になったな。死ねたら良かったのにな？」

 俺はキメラに顔を近付けて言った。

「死なないように少しずつ注入してやる」

 キメラの顔が苦痛と恐怖に歪む。
なんだ。
楽しくなってきたじゃないか。

 俺は無意識の内に、声を出して笑っていた。