見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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二五八

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 髪飾りか?

 その瞬間、トラゴスがこちらへ向き直った。
角のように見えた物は再び髪に隠れてしまった。

「いずれにしてもだ」

 カルタスが口を開く。

「何と言われようと俺はアンタなんか知らない。アンタみたいな美人なら忘れる筈もない」

 今、さらりと何か言ったなコイツ。

「当時、俺は傭兵だった。傭兵の楽しみは酒と女だ。他にはない。だが、さすがに子供に手を出したりはしねえよ」

 それは個人の嗜好だろう。
カルタスがそうでないとは言い切れないが、まあ、普通に考えれば子供に手を出したりはしまい。

 それに今、目の前に居るのは子供ではない。
もう立派な女性だ。
カルタスが本当に見境が無かったなら、適当に話を合わせてトラゴスを手込めにしている。

 カルタスを疑うのは難しい。
顔は犯罪だが、なんだかんだコイツは信用できる。
プライドを持っている。
やはり怪しいのは彼女か。

「レオさん」

 頭の中に管理人の声が聞こえた。

「いったい、ナニとお話しされているのですか?」

 ナニと?
『誰と』の間違いではないか。
管理人も人間みたいな言い間違いをするんだな。
俺は少し管理人に親しみを覚えた。

「ナニと、って……むさい男と美人が一人居るだけさ」

 俺は小声で管理人に答えた。

「女性?人間のですか?」

 管理人がまた尋ねる。
女性と言えば人間に決まっている。
犬や猫に女性とは言わない。
その場合は牝だ。

 どうもおかしい。
管理人がかつて、こんな話の噛み合わない事を言ったことがあるか。
ないだろう。

「どういう意味だい?」

 俺は管理人の答えを待った。

「こちらではレオさんと、男性が一人確認できるだけです。あとは何だか判らないエネルギーを感知していますが……」

 何だか判らないエネルギー?
それは何だ?

 俺はトラゴスをもう一度見た。
怪しい女であることは確かだが、人間である事には間違いがない。

 いや、 まてよ。角だ。
俺はさっき見えた角を思い出した。
トラゴスに歩みよる。

 トラゴスが不安そうに上目使いで俺を見上げた。
カルタスも突然何事かと俺を見つめた。

「失礼」

 俺は拒否する隙も与えず、サッと彼女の髪を掻き上げた。

 やはり。
あった。角だ。

 一瞬トラゴスは体をこわばらせた。
カルタスが息を呑む。

「……なんでえそりゃあ。角か?」

 カルタスが呟いた。

「君は何者だ?カルタスを狙いに来たのか?」

 俺はトラゴスを問い詰めた。

「ちが……私はそんな……」

 トラゴスが角を押さえて後ろに離れる。
その視線がカルタスに向けられた。
カルタスの表情は唖然としていた。

 トラゴスの顔が哀しそうに歪む。

「人間どころか生物かどうかも怪しいな。俺には人間以外の敵が多くてな。正直に言え、何者だ」
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