見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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二九三

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 トラゴスがバフォメットとは。
元はただの山羊だったと言っていた。
それを何者かが人間にしてくれたのだと。
山羊から人間。
確かに形はバフォメットを連想しなくもない。
しかし、これは……

「バフォメット……!?まさか主の望まれた者か!」

 カーディナルの一人が声を詰まらせながら言った。
主の望まれた者とは何だ?
だが、少なくとも奴らがトラゴスに一枚噛んでいることだけは判った。
だったら、なおさらトラゴスをやらせる訳にはいかない。

「はあっ!」

 気合い一閃。
メルドルムが斬りかかってきた。

 ガキインッ!

 俺のサフィリナックスブレードとメルドルムの剣がぶつかり合う。
マザの剣のように折れなかったのはさすがだ。

「お前、あんな連中を仲間にしても何とも思わないのか!」

 俺がメルドルムに問いかけた。

「うるさい!賊に心配される謂れはない!」

 メルドルムは動揺していたが、将軍としての立場と職責は絶対なのだろう。
意志を翻す事はなかった。

「焼けッ!ファイヤーボール!」

 メルドルムの右手からファイヤーボールが放たれた。

 ドンッ!ドンッ!ドンッ!

 それを地面へ飛び込むように回転してかわす。
将軍ともなれば、剣に加えて魔法を扱うのも珍しくないと言うわけか。
勇者レベル、つまり『ドラゴンクラス』に片足突っ込んでいると揶揄されるだけの事はある。

 しかし魔法職のそれと比べれば一段落ちるのは仕方がない。
それでは俺を止められないのだ。

 俺はメルドルムに斬りかかる。

「たあっ!」

 ドカッ!

 横からマザの飛び蹴りが俺にヒットした。
くそっ、うるさい奴め。

「剣は折れたけど、それで勝ったと思われちゃ敵わないからね」

 小柄なマザが拳を構える。
拳闘?
コンパクトに構えたファイターの構えだ。
リーチにハンデがある小柄な体格で、武器があるならまだしも拳闘だと。

 将軍クラスには驚かされる事ばかりだ。
普段なら一笑に伏すだろうが、相手が将軍では警戒せざるをえない。
さっきの蹴りは威力はそこそこだが、速さとキレがあった。
放置していい相手ではない。

「くそ……思ったよりも面倒だな」

 カーディナルの方を警戒しながら、目の前のマザとメルドルムを見据える。

「待たせたな。こっちは片付いたぜ」

 背後にカルタスとオレコが現れた。

「トラゴスは?」

 俺がトラゴスを探すと、カルタスの後ろに静かに立っている。

「姿が……」

 いつものトラゴスの姿だ。

「はい。驚かせてしまい申し訳ありません」

 そう言ってトラゴスは静かにお辞儀をする。
ギャップがありすぎて訳がわからない。
まあ、とにかくトラゴスを過度に心配する必要は無さそうだ。
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