見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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三一六

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「落ち着け。トラゴスは山羊だ」

 俺はカルタスに言った。

「ふ、ふざけるな!山羊って言うんじゃねえ!元だ!元!」

「トラゴスに人間の恥ずかしいなんて感情が理解できる訳ないだろ。山羊なんだから」

「うっせえ冷やかすんじゃねえよ!」

 カルタスは唾を飛ばして反論する。
コイツ、さてはまんざらでも無いな。

「まあ、お前とトラゴスの事は判った。あとはオレコだな」

「……アイツもたぶんここに残ると思うぜ?」

 カルタスがあっけらかんと答えた。

「なぜ?」

「アイツとは長い付き合いだ。きっとそう言う。正直な所、俺たちも今の生活が嫌いな訳じゃない。むしろ気に入っている」

 だったら尚更だ。
何故ここに残るのか。

「人間は無い物ねだりが性だからな。戦いの中で安寧を求めたり、平凡な日常においては刺激を求めたり」

 つまり平和に飽きたってことなのか。

「そうとまでは言わんが、それよりもこっちの方が面白そうってだけだ。俺たちは守るべき所帯がある訳じゃない。その分、自由だ」

 なるほど。
自由を愛すると啖呵を切っただけの事はある。
心底自由人だ。

 なら俺の次の行動は、レイスたちから情報を聞き出し、妹を探すのに戻る事だ。
帝国のゴタゴタは当分は放っておいても良いだろう。
恐らくはあれで当面は大人しくなる筈だ。
ソル皇子に対しての面目もたつ。
いずれは決着を着ける時がくるだろうが。

「……ところでよ」

 カルタスが話し始めた。

「お前らのあの格好はなんだ?甲冑なんだろ?」

 あの姿の事か。

「そうだとも言えるし、違うとも言えるな」

「どう言う事だ?」

「確かに甲冑的な意味合いもあるが、あれが俺のもう一つの姿だ。着ている訳じゃない」

 カルタスが方眉をあげる。

「は?なんだそれ?」

「お前もひょっとしたらあんな風になれと言われるかもしれんぞ。一応覚悟はしておけ」

 俺は相当嫌だった。
なってしまった後では、不思議とそれほどの嫌悪感はない。
ひょっとしたらそう思わされるように調整されているのかもしれんが。

「ええ……俺もあんな風になるのか?それはちょっと……」

 カルタスは露骨に嫌そうな顔をした。
まあ、それが普通の反応だろう。

「そこはお前の意思次第だ。俺は弱いと一喝されたからな。断れなかった」

「弱い?お前が?」

「今の強さはあの姿のお陰による部分が大きい。俺はもともとミラーナイトクラスだ」

 カルタスが意外そうな顔をした。

「そうだったのか……それであんなに強くなるのか」

「そうだ。ブラックナイトクラスと同等のお前なら、ひょっとしたら断れるかもしれんぞ」

 俺はそう言って立ち上がった。
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