見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
354 / 826

三五四

「テメエ……なめてんのか、それともただの世間知らずか?俺を誰だか知らねえとはな。もう謝っても遅いぜ、お前はスマキにして半殺しの後にドブ川に流してやるからよ」

 男の額に深いシワが刻み込まれた。

「アンタの事なんて知らん。自分が有名人だと思い込むのは、みっともないぜ」

 俺は男を見据えたまま立ち上がった。

「困りますよ、お客さん」

 男の声がした。
見ると通路をこちらへ向かって歩いてくる男がいる。
店の責任者か。
見たところ三十手前かそこらだろう。
きちっとした身なりをしていた。

「なんの騒ぎですか?」

 男が尋ねた。

「この愚図がまた粗相をやらかしたんです!それにマイヤードさんにまで迷惑を掛けて」

 さっきの女が男に言い付けた。

「これはマイヤード様。うちの者がご迷惑をお掛けして申し訳ありません。今日の分は結構ですのでどうかご容赦下さい」

 そう言って男はマイヤードと呼ばれた親父に頭を下げた。

「おう。そう言ってくれるのは有りがたいが、この若造が俺に文句があるらしくてよ。店には関係無いが、ちっとばかり散らかしちまうかもしれねえな」

 マイヤードはそう言うとニヤリと笑った。

「左様ですか。それは仕方がありませんね。判りました、我々は何も見ておりませんので手短にお願い致します」

 男もそう言うと、くるりと背を向けて立ち去ってしまった。
ただの常連客と言うわけでは無さそうだ。
太客なのか、この辺りの顔なのか。
どちらにせよこれは渡りに舟かもしれない。
『蛇の道は蛇』とはよく言ったもんだ。
ここから手掛かりが得られるかもしれない。

「なんだ。お前が散らかしても俺は片付けないぞ」

「口の減らねえ若造だな。この辺の人間じゃねえんだろ。どこの田舎者だ?」

 マイヤードが馬鹿にしたように言った。

「ミスリル銀山に住んでいる。今度遊びに来いよ、お茶くらい出してやる」

 俺はそう言ってニヤリと笑った。

「山頂まで来られたらな」

「ミスリル銀山にい?ホラばっかり吹いてるんじゃねえ!ハッタリでは俺を退かせられんぞ!」

 マイヤードが指をパチンと鳴らす。
突然、辺りの客の中から数名が立ち上がった。
仲間か?

「おい、お前ら。この若造にこの町のルールを教えてやれ!」

 悪党にピッタリの啖呵だ。
思わずうっとりしそうな程の定番セリフだった。

 たちまち男たちが、わあっ!と詰め寄る。
俺は背後の少女を守るため、一歩も動かず迎え撃った。

「くたばれえっ!」

 男が手に酒瓶を持って殴りかかる。
それより早く顔面を殴打する。
ただそれだけの簡単な作業だ。
避ける意味すらない。
間合いに入った奴から順番に殴り付ければ良いだけだった。
感想 238

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

親世代ではなかったのですか?

立木
恋愛
親世代が「乙女ゲーム時代」だったと思っていたら、子世代も「乙女ゲーム」だった。 ※乙ゲー転生ですが要素は薄いです。 ※別サイトにも投稿。 ※短編を纏めました。

【完結】瑠璃色の薬草師

シマセイ
恋愛
瑠璃色の瞳を持つ公爵夫人アリアドネは、信じていた夫と親友の裏切りによって全てを奪われ、雨の夜に屋敷を追放される。 絶望の淵で彼女が見出したのは、忘れかけていた薬草への深い知識と、薬師としての秘めたる才能だった。 持ち前の気丈さと聡明さで困難を乗り越え、新たな街で薬草師として人々の信頼を得ていくアリアドネ。 しかし、胸に刻まれた裏切りの傷と復讐の誓いは消えない。 これは、偽りの愛に裁きを下し、真実の幸福と自らの手で築き上げる未来を掴むため、一人の女性が力強く再生していく物語。

【完結】1王妃は、幸せになれる?

華蓮
恋愛
サウジランド王国のルーセント王太子とクレスタ王太子妃が政略結婚だった。 側妃は、学生の頃の付き合いのマリーン。 ルーセントとマリーンは、仲が良い。ひとりぼっちのクレスタ。 そこへ、隣国の皇太子が、視察にきた。 王太子妃の進み道は、王妃?それとも、、、、?

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。