見知らぬ世界で秘密結社

四一五

 キロの姉はしばらく沈黙した。
何かを考えているのか、それとも呆然としているのか。
オオムカデンダルはあえて何も言わず、黙ってキロの姉を見ている。
これも好奇心からの観察なのか。

「……これは本当にもらっても良いのか？後から返せとは言わないな？」

 キロの姉がようやく口を開いた。

「勿論。もうお前の物だ」

「……中身を見て、後から文句を言うなよ。お前が望む物なんて入ってないぞ」

「判っている。構わない」

 本気か。
結果、ガラクタしか入ってないかもしれないのに、金貨五十枚をくれてやるのか。
俺は訳が判らなくなってきた。
オレコも緊張気味に成り行きを見守っている。
さすがのカルタスも同様だ。
軽口も叩かずにじっとキロの姉を見つめていた。

「お姉ちゃん……」

 キロが姉を心配そうに見た。

「……判った。じゃあ見せてやる。後で文句を言うなよ」

 キロの姉は覚悟を決めたようにそう言った。

「そう来なくてはな」

 黒猫がそう言ったが、その向こうにいるオオムカデンダルがどれほど喜んでいるか、その姿が目に浮かぶ。

「で、隠し場所はどこだ？この姿で行ける所でなくては困るんだが」

 黒猫が心配そうに言った。
その姿で金貨をかついでここまで来たんだろ？
お前はどこでも行けるよ。

「隠し場所はあって無いようなものだ」

「どういう事だ？」

 キロの姉は俺たちに下がるように言うと、合言葉を唱え始める。

「……六月の花、七月の果実、八月の太陽、九月の庭、十月の月、十一月の夜、十二月の雪。神々の泉へ」

 キロの姉が言い終わると、突然その前に光が差す。

「これは……」

 オレコが目を細めながら言った。
キロの姉の前に大きな宝箱が現れる。

「すげえな……」

 カルタスは純粋に驚いている。
キロも、ピノもピコも、同じように驚いていた。

「これが、お前の見たがっていた宝箱だ」

 まさか場所を選ばずどこでも出現させられるとは。
これは魔導具なのか。

「いや、これは魔法だ。サモン・トレジャーチェスト。そう難しくない簡単な魔法だ」

 キロの姉が、なんて事ないと言う風に言った。

「サモン・トレジャーチェスト……聞いたこと無いわね……」

「簡単な魔法だがマイナーな魔法でもある。知ってる奴が少ないだけだ」

「アナタはどうしてこの魔法を？」

「……教えてもらったんだよ。ある人から」

 そう言ったキロの姉は寂しそうな表情を見せた。

「さあ！早く開けて見せてくれ！」

 黒猫は、もう待てないと言う風に部屋の中へと飛び込んで来ていた。
宝箱の前を行ったり来たりしている。
アンタは熊か。
いや、それは熊に対して失礼か。