見知らぬ世界で秘密結社

四四四

 悪いが取り込み中だ。
いくらオオムカデンダルでも、今だけは引っ込んでいてもらいたい。

「やれやれ……仕方がない。じゃあ好きにしろよ。おーい、蜻蛉洲……」

 そこまで言ってオオムカデンダルの声は途切れた。
警告を表す表示が、より強調されて点滅する。
くそ、なんだよ。
そんなにヤバイのか。

「ぐっ、ごのっ！じねっ！じねっ！じにやがれえっ！」

 ヴァンパイアが執拗に首を絞め付ける。
首の中で、何やらミシミシと嫌な音が響いた。
俺はやむ無く殴るのを止め、首を絞めるヴァンパイアの両手を自らの両手で掴まえた。

「くっ！はなぜえっ！」

「そりゃ、こっちのセリフなんだよ」

 馬乗りの体勢で、力比べが始まった。
俺とヴァンパイアの力はほぼ拮抗している。
完全に外しきる事が出来ない。

 がしっ！

 突然背後から、何者かが俺の体を捕まえた。
なんだ？

 がしっ！がしっ！がしっ！がしっ！

 身体中を何ヵ所も同時に捕らえられる。
振り向くと、たくさんの人間が俺をヴァンパイアから引き剥がそうと引っ張っているのが見えた。

 くそっ、チャームか。
ヴァンパイアの魔力によって魅入られた人々が、よってたかって俺を捕まえる。
しかも並みの腕力ではない。
操られているからなのか、全員が怪力を発揮していた。

 このままでは不味い。
全員まとめて殺すしか無いのか。
故郷の村で、迫り来るグールを皆殺しにした時のように。
後味の悪さを思い出したが、俺は心を鬼にした。

 心をゼロにする。

 俺は考える事をやめ、機械のようにヴァンパイアを殺す事だけを考えた。
人間の心は複雑で繊細だ。
そう決めても、すぐに他の感情が湧き出てくる。
だから、また心をゼロにする。

「むんっ！」

 俺は力の限り、群がる人々を跳ね退けた。
軽く数人が吹き飛び、壁に激突する。
それでも次から次へと人々が襲い掛かる。
俺はお構いなしにそれらを跳ね退け、ヴァンパイアの顔面へと頭突きを食らわせた。

 グシャッ！

 肉の潰れる音がした。
辺りに鮮血が飛び散る。

「ぐうっ！ううっ！……ごのっ！」

 ヴァンパイアがくぐもった声を漏らす。
構わず二発三発と頭突きを繰り出す。

 グシャッ！グシャッ！グシャッ！

「うああっ！でめっ……！ぎゃっ！」

 しゃべらせない。
何もさせない。
化け物め。
死ね。

 気が付くと辺りに火が付いている。
倒した燭台か、はたまた暖炉の炎か。
とにかく引火した火が辺りに広がり始めていた。
更に二、三発頭突きを食らわせる間に、火の手は辺りを取り囲んだ。

「く……くくく！燃えているなあっ！みんな燃えるなあっ？」

 ヴァンパイアが声をあげて笑った。

 グシャッ！

 俺は黙って頭突きを食らわせた。
黙れよ。
お前も燃えるんだよ、ここでな。