見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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四四五

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 チャームに掛かっていた人々が炎に巻かれて苦しみ出した。
可哀想だと思うが、俺にはどうする事もできなかった。
運が悪かったと諦めてくれ。
俺は心の中でそう何度も繰り返す。
その代わりに、このクソヴァンパイアだけはここで必ずぶっ殺す。

「くくく!俺は炎では死なんぞ?お前はどうなんだ?レオ!」

 ヴァンパイアが笑いながら俺を見上げる。

「あいにく俺も焼け死んだりしない。残念だったな」

 俺の言葉にヴァンパイアが露骨に顔をしかめた。
どうやら自分に有利な状況だと思っていたようだ。
残念だったな。

「クソっ!何なんだよ貴様はっ!何故僕の邪魔ばかりするんだっ!」

「……てめえが人類の敵だからだろ」

「うるさあああああいっ!」

 叫びながらヴァンパイアの体は更に一周り大きくなった。
こいつ、ここからまだ変化するのか。

「何が人類の敵だ!君たちが山羊を食うのに山羊が立ち上がるのかよ!黙って飼われて、黙って食われているだろうが!大人しく人間は食われろよ!」

「やかましい!誰が食われるか!てめえこそ石でも食ってろよ!」

「嫌だ!嫌だ!嫌だ!人間が旨いんだあっ!」

 まるで子供の喧嘩だ。
結局の所、支配者を夢見るなんてのはこう言う『好き勝手したい』と言う欲望なんだろう。

 オオムカデンダルは何もしないと言っていた。
支配しても何もしないと。
自由にさせるのだと。
俺は彼らの言う事のほとんどを理解できないが、支配すると言う事が何なのか、少し判ったような気がした。

 まあ、気がしただけだ。
どうせオオムカデンダル辺りには『違うな』と言われるんだろうが。

 ググググ……

 ヴァンパイアの体が筋肉で膨れ上がる。
それに比例してパワーが増していくのが判る。
拮抗していた力が、徐々にヴァンパイア有利へと傾き始めた。

「く、この野郎……」

 止めていたヴァンパイアの手が、再び俺の首を絞め始める。
信じられない馬鹿力だ。
改造人間のパワーを上回るとは。

「レオ!何をやっている!早く殺せ!」

 銀猫が苦しげに叫んだ。
判っているが、そう簡単では無い。
不死身と言われ、高い再生能力を持つヴァンパイアを殺すには一瞬で決着を付けなければならない。
俺が食らわした頭突きも、傷はもう見えなくなっている。
もうダメージも癒えている筈だ。

「ここだ!ここを狙え!」

 銀猫が叫ぶ。
ここ?
そこは。
ヴァンパイアの左の肩口から胸にかけて、銀猫の顔が浮かび上がっている。
そこは心臓の位置だ。

「俺を狙え!」

 再び銀猫が叫んだ。
俺は一瞬時間が止まったように感じた。
実際には一瞬の、そのまた一瞬ほどの本当にわずかな瞬間だった筈だ。

 自分ごと殺れと言っている。
判っていた筈だが、俺は衝撃を受けていた。
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