見知らぬ世界で秘密結社

五一二

「お仕置きだと……！」

 バーデンが気色ばむ。
オオムカデンダルは悠々と一歩目を踏み出した。

「な！動けるのか！？パラライズは効かないのか！」

 オオムカデンダルは歩みを止める事無く答えた。

「麻痺？俺にはあらゆる毒の類いは効かんぞ。神経毒も同様だ。精神に金縛りを刷り込むようなやり方も効かん。洗脳その他あらゆる精神攻撃から脳をブロックし、あらゆる毒に対して瞬時に排泄機能が働くからな。俺に効くのは蜻蛉洲が作ったフィエステリアームと、そこのサフィリナックスの毒だけだ」

 俺の毒もオオムカデンダルには有効なのか。
知らなかったが、そもそも俺のは攻撃が当たらなければ毒を注入出来ない。
オオムカデンダルならば俺の攻撃をそう簡単に食らう事は無いのだろう。
一方、フィエステリアームは辺りに毒を散布する。
攻撃など当てる必要がなく、危険過ぎるのだと言う。
その反省から俺の毒は、攻撃を当てた対象に直接注入する方法にしたのだと蜻蛉洲が言っていた。

「化け物め……！」

 バーデンが後ずさった。
精神的には、もうオオムカデンダルが勝利しつつある事がうかがえる。

 オオムカデンダルがバーデンの制空圏に足を踏み入れる。

「くあっ！」

 気合いを発してバーデンが斬りかかる。

 ガキンッ！

 しかし、やはり剣はオオムカデンダルの装甲に弾かれてしまう。
万策尽きたか。

「はっ！」

 今度はオオムカデンダルが軽く声を発して、バーデンを殴り付けた。
瞬間的にバーデンはラージシールドで受け止める。

 ガギャンッ！

 聞いた事の無い音を発てて藍眼鉱のラージシールドが、グニャリとひしゃげた。
バーデン本人も、ズザザザザと数メートルは後ろへと後ずさった。

「ほう？なかなか頑丈だな。これも興味深い」

 オオムカデンダルの声が一オクターブ上がる。
新しいおもちゃを見つけた子供のようだ。
見つけられた方は堪ったもんじゃないが。

「あ、藍眼鉱が……ラージシールドがひしゃげるとは！？」

 装飾を施された威風堂々のラージシールドが、見るも無残にベコベコに曲がってしまっている。

「ガードが間に合ったのはさすがだな。魔法のお陰か？」

 そう言いつつ、オオムカデンダルは更に距離を詰める。

「く……！来るなッ！近寄るんじゃない！」

 バーデンが剣を突き付ける。
だが、もはや剣など何の役にも立たない事は、バーデン自身が良く判っている筈だ。

「だ、誰か！いつまで寝ているのだ！早く立ち上がるのだ！コイツを袋叩きにせよ！」

 バーデンが叫んだが、それは無理な話だ。
自らの恐怖を呼ぶ能力で、味方の兵士は全員使い物にならなくなっている。
もうバーデンを庇う者は誰も居なかった。