見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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五九三

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 空中で一回転すると、ベクターシードはキックの体勢で突っ込んで来る。
まさか、本気でそんな飛び蹴りが通用すると思っているのか。

 舐められたもんだ。

 俺はキックの隙を探した。
これは、紙一重でかわせる。
かわしざまにカウンターでサフィリナックスブレードを叩き込んでやる。

 俺は軽く腰を落として、膝に溜めを作った。

 !?

 膝が曲がらない。
これでは腰も落ちない。
構えられない。

 いや、それどころか動けない。
何だ。
何が起こっている。

 俺は軽くパニックに陥った。
その間にも、ベクターシードは目前にまで迫りつつあった。

 駄目だ。
回避は間に合わない。
ガードするしか無い。
しかし、その腕さえも上がらなくなっていた。

 どうしたんだ、俺の体は。
ベクターシードのジョルトバスターが、眼前に迫った。
俺は歯を食い縛る。

 ドッ!
ギャイイイイイイインッ!

 何かがぶつかる音がした。
その後に激しい音が響き渡る。
くっ……ん?
何ともない……のか。
俺は薄目を開けて様子を見た。

「……貴様は」

「うふふ、お元気そうで何よりだわ」

 俺の目の前に、ウロコフネタマイトに変身した令子の背中が見えた。
ベクターシードのキックを両腕でガードしている。
そこで火花が散って、激しい音を発していた。

 やや押し合いの状態が続いて、ベクターシードはウロコフネタマイトの腕を蹴って飛び退いた。

「ウロコフネタマイト……もうお出ましか」

「うちの行動隊長、急成長株なのよ。壊されたくないもの」

 明らかにベクターシードの緊張が高まっている。
ウロコフネタマイトを知っている。

「来るとは思っていたが、思っていたよりも早いな。さて、どうしたものか」

「百足くんが来ると思ってたんでしょ?」

「まあな……何故来ない?」

「さぁて、何故でしょう?」

「……」

 ベクターシードが沈黙した。
次の瞬間。

 ベクターシードはくるりと反転すると、頭上から襲い掛かるオオムカデンダルのかかと落としを十字受けにブロックした。

「はっはっはっはっ!良く気付いたな!晃!」

「不意打ちとは相変わらず汚い真似を」

「まあ、そう言うなよ。お互い様だろ?ウチの新人にタネ明かしもしないで必殺技くれやがって」

「タネ明かしなんてするか」

ベクターシードを挟んで、オオムカデンダルとウロコフネタマイトが仁王立ちになる。

「ふふ、さすがに二対一は分が悪い。今日は諦めよう」

「……お前、なんでこの世界に居る?」

 立ち去ろうとするベクターシードにオオムカデンダルが尋ねた。

「さあね。お前たちも何故ここに居るのか判らないんだろ?俺も同じさ」

「待て、色々と聞きたい事がある。ウチで茶でも飲んで行けよ」

「せっかくだが断る。毒でも盛られては敵わんからな」

「ちぇ、バレたか」

「まあ、その内にこちらからお邪魔するかもしれんがな」

「……それは、念入りに戸締まりしとかないとな」

 オオムカデンダルとベクターシードは会話を終えると、ガイたち四人を連れて立ち去った。
良いのか、逃がして。

「良いさ。今はこちらも忙しい」

 オオムカデンダルは特に変わらない様子でそう言った。
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