見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
689 / 826

六八八

しおりを挟む
「俺も柄物を使うか」

 バルログはそう言うと右手を握った。

 しゅうっ

 たちどころに手に三叉戟を握る。
武器を作り出しているのか。

 俺はサフィリナックスヒューイットを地面に這わせる。

「ふっ!」

 短く息を吐きながら腕を素早く振る。

 たしっ!

 地面を打って毒の触手が跳ね上がった。
波打ちながらバルログの正面を強襲する。

「ふん!」

 だがバルログはいとも容易く三叉戟で跳ね退けた。
毒に触れないように武器を手にしたのだ。
戦い慣れているな。
だが。

 触手と戟で数回打ち合いながら、俺は間合いを詰める。
威力のある攻撃は格闘の間合いで無ければ繰り出せない。
長射程の攻撃はサフィリナックスヒューイット以外無い。

「大口を叩いた割にはそんな物か。その毒はたいした物だが」

 バルログが無駄口を叩く。
相手が悪魔であろうが、なんであろうが、実体を伴っていれば毒が効く。
常識はずれの強毒だ。

 バルログも、さすがにサフィリナックスヒューイットには警戒している。
こういった地下や洞窟のような場所では激しく動き回れない。
俺のように動き回って相手を襲う戦い方は、動きを制限されてしまう。

 触手以外の方法で大ダメージを与える。
やはり近接格闘しかない。

「ククク。何を考えているか判るぞ」

 なに。
バルログが鼻で笑う。

「狭い所では動きが制限される。何とか近付かなければ。だろう?」

 やはり読まれていたか。
さっきから俺は攻め立てている割りに、決定打を決められていない。
あれこれと試行錯誤する動きから、俺の考えを見透かしたのだ。

「だったら俺は好きに攻めさせてもらおう。小物に魔法などもったいないが、相手の嫌がる事はしておかないとな」

 バルログが嫌らしく笑う。

 ぼっ!

 バルログが三叉戟を突き出す。
その先端から火の玉が飛び出す。
ファイヤー・ボールか。

 さすがはバルログ。
無詠唱のファイヤーボールなど、当然のように撃ってくるな。

 俺はそれを連続で避けた。
連発してくる所も、魔力量が無尽蔵な所をうかがわせた。

「はっはっはっはっ。いつまで避けられるかな?」

 近付けば三叉戟が、離れればファイヤーボールが。
全く付け入る隙が無い。
死角が無かった。

 くそ。

「焦りが見えるぞ」

 バルログが嫌味を言う。
明らかに向こうに余裕があるな。
しかし、これは何とかしなければ。

「よそ見してんじゃねえ!」

 バルログが突然吼えた。

 ビリビリビリ

 怒声が振動となって体に当たる。
体が一瞬、すくんでしまう。

 オオオオオオオオオォ……

 しまった。
一瞬の隙を突いて、バルログの前に巨大な魔方陣が組上がる。

 まずいぞ。

 ゴオオオオオオオオオ! 

バルログの正面に魔方陣が完成すると同時に、巨大な火柱が発射された。

「くっ……!」

 ガードが間に合わない。
とっさに顔を背けるのが精一杯だ。

 ガオオオオオオオォォン……ッ!

 獣の咆哮のような音を伴って、火柱が俺を吹き飛ばす。

「うわあああああっ!」

 どがあっ! 

 そのまま天井に叩き付けられた。

「まだだぜ!」

 バルログが畳み掛けてきた。

「ボルケーノ!」

 バルログの叫びと共に地面が裂けて、地下から更に火柱が上がる。

 デカいぞ!?

 ドバッシャア! 

 マグマのような粘度の炎が俺を持ち上げ、更に爆発した。
しおりを挟む
感想 238

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...