見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
757 / 826

七五六

しおりを挟む
 俺は振り返って少年を見た。

「大丈夫か」

「……ひっく。おじちゃん誰?」

 一応泣き止んだか。

「……おじちゃんか。なぁ、ここの偉い奴はどこだ。そいつに話しがある」

「くすん。判んない……僕、お家に帰りたい……」

 少年はベソをかきながらも立ち上がった。
そして、また袋を担ぎ上げる。
まだ運ぶ気なのか。

「やらないと妹が酷い目にあわされるから……晩ご飯も抜きにされちゃう……」

 人質まで取るとは、大した念の入れようだ。
俺は更にメラメラと怒りが増した。

「判った。しばらく頑張れ。おじちゃんが何とかしてやる」

「ほんと……?」

 少年が力無く俺を見上げた。
あんまり期待していない目だな。
希望などとうに無いか。

「ああ、それまで普通にしていろ」

 俺は少年にそう告げると、その場を離れた。
この街の中に、責任者のような奴が必ず居る。
これは適当な盗賊団の仕事では無い。
かなり組織だってやっている、犯罪組織の仕事ぶりだ。

 西の繁華街にも似たような手口はあった。
ここまで規模が大きくはなかったが、やり口は似ている。

 ドッ!

「む?」

 俺は背中に衝撃を感じて振り返る。

 ドッ!
ドッ!
ドッ!
ドッ!

 更に立て続けに四回。
合わせて五回衝撃を受けた。

 矢だ。
振り返った俺の胸と腹に四本の矢が突き立っていた。
俺は正面を見た。
男たちが弓を手にして数人立っている。
早いな、もう集まってきたのか。

「クックックック。誰だか知らねえが、堂々と進入してくるとはな。運良く生き残れたらこき使ってやるからよ」

「いや、死ぬだろ。五本は撃ち過ぎだ」

「生き残ったら俺の勝ちだからな。テメエ忘れるなよ」

 男たちは互いにそんな事を言い合った。
誰も俺を気にしていない。
別に殺人など今さら何の興味も無いと言う事か。

 俺は無言で刺さった矢を引き抜いた。
一本ずつ、足下に投げ捨てる。
矢が長いな。
ご丁寧にロングボウを使っているのか。
チンピラのクセに偉そうに。

 カラン

 最後の矢を地面に投げ捨てた。
背中の奴は手が届かない。

「むん……」

 俺は背筋に力を込める。
 筋肉で矢を押し出す。

 カラン

 それも簡単に抜けた。
俺にこんな物が効くか。

「お……おい。あれ見ろよ!」

 誰かが気付いた。

「自分で矢を抜いたのか。馬鹿じゃねえの。死ぬぞ」

「おい、血が……血が出てねえぞ」

 男たちが口々に言い合う。
どうでも良いだろそんな事。
誰も自分たちの身が危険だとは考えないのか。
そうか。
俺一人に負けるだなんて思ってもいないのだな。

「ボスが居るだろう。呼んで来い」

 俺は男たちに言った。
まあ、それで呼びに行く奴なんて居ないだろうが、他に言う事など無い。
となれば、暴れるのが一番簡単だ。
ボス自らが来るのを待つしかあるまい。
この規模ならせいぜい全体でも三十人くらいしか居ないだろう。
暴れるには少し物足りない数だ。

 ここは、なんせ子供ばっかりだ。
大人も数人は居るんだろうが、物の数ではあるまい。
冒険者崩れのチンケな犯罪者集団て所だろうが、ボスさえ捕まえてしまえば、後はどうとでもなる。

 とにかく、子供たちを解放しなければ。

「俺がボスだよぉ!お前、丈夫そうだな。
こき使ってやるから、せいぜいここで働いていけよ!」

 一番小柄な男がそう言うと、残りの男たちは声を出して笑った。

「……そうか。お前がボスか」

 俺は静かに近付いた。

「動くな!勝手に近付いて来るんじゃねえよ!」

 全員が弓に矢をつがえた。
ロングボウの扱いに慣れているな。
冒険者崩れじゃないのか。

 ビュ!

 ボスと名乗った男の矢が放たれる。

 びしっ

「な……!?」

 俺はそれを片手で捉まえた。

「こんな物で俺をやれると思うなよ。チビ……いや、ボス」

 俺は男に矢を投げ返した。
しおりを挟む
感想 238

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...