見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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七八一

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「フハハハハハ!」

 ヴァンパイアはこちらの都合などお構い無しだ。
既にやる気に満ちている。
どうする。
倒すしかないが、それでは……。

「ケン。ヴァンパイアの討伐経験はあるのか?」

「いや、さすがに無いねえ。近年じゃ誰も倒した事は無いんじゃないか?最近ネオジョルトとか言う犯罪組織が倒したと噂されたが、まあおそらく眉唾だよね」

 ケンはそう言ったが、表情には緊張が表れている。
勇者の末裔とは言っても、魔王ヴァンパイアを初めて目の前にしては、気後れする気持ちは良く判る。

「ケン。代われ。俺がやる」

「おおっと、そうはいかない。ヴァンパイアなんて滅多に無い経験なんだ。あらゆるモンスターとの戦闘を避けるなってのが我が家の家訓でね。経験を積ませてもらうよ」

 立派な心掛けだが、動揺しているのは隠しきれていない。
だがここは、ケンの心意気を尊重しよう。
俺はケンを見守る事にする。

「ケン、弱点を用いない場合は心臓一択だ。再生能力がキツい。中途半端では無く、完全に破壊しろ!」

「判っているよ。モンスター図鑑は全てここだ」

 ケンはそう言って自分の頭を指差した。

「君こそ戦った事があるような口ぶりだね。まあ、君なら僕も驚かないけど」

 ケンは俺を振り返りもせずに言う。
やはり俺の事を疑っているのか。
いや、薄々気付いているのかもしれない。

 まあ良い。
今はそんな事を気にしている場合でも無い。
万が一の時には、いつでも助けに入れる準備をしておこう。

「ハハハハハハハハッ!」

 ヴァンパイアがマントを広げて飛び上がる。
その姿が、かがり火に照らされて大きな影が壁に映る。

 悪魔のような影。
ヴァンパイア本体の姿とはまるで違う、更に禍々しい悪魔の形だ。

「はあっ!」

 ケンが離れた位置から衝撃波突きを放つ。

 ぼっ!
ぼっ!
ぼっ!
ぼっ!
ぼっ!

 五連続。
ケンの本気が窺い知れる。

 ズバッ
ズバズバッ
ズバズバッ

 全てヴァンパイアの胴体に命中した。
だが、正確に心臓を貫かなければ、いくら体を破壊しても意味が無い。 

「おい!心臓だ!心臓を狙え!」

「判っているよ!少し黙っていてくれ!」

 ケンは焦りが隠せていない。
心臓を狙ったのだろうが、手元がよほど正確で無ければ、的に当たるまでの間に大きく外れてしまう。
むしろ全て胴体に命中した事の方が、本来は称賛されるべき事なのだ。

 しかし、相手は魔王であり、ケンは勇者で、王国騎士団総隊長だ。
完全かつ確実な結果を求められる。
この程度で満足してもらっては困るのだ。

「ケン!ビビるなっ!もっと引きつけろ!怖がって遠間で戦おうとするな!」

「く、くそっ!くそっ!」

 ケンは必死でヴァンパイアの攻撃を凌いだ。
ヴァンパイアには数々の能力がある。
その全てを頭に入れているが故なのか、ケンは今一つ思い切って近付けないでいた。

 これは厳しいな。
俺は冷静に見ていた。
あまり時間を掛けたくは無いが、今のケンは懐に飛び込むのを警戒し過ぎている。

「んふふふ」

 ヴァンパイアが不気味に笑う。
その両眼が、更に怪しく光った。

「ヤバイ!」

 ケンは咄嗟に視線を外す。
ヴァンパイアの能力、チャームだ。
コレにやられると心を操られてしまう。
しかし。

 チャームを意識し過ぎて、ケンはヴァンパイアを良く見ていない。
見られないのだ。
いくら勇者と言えども、さすがに初見では難しいか。
俺でさえ三回はヴァンパイアと戦っている。

 魔王クラスなら最終討伐目標だ。
こんな勝ち抜き戦の途中で出て良いような玉では無い。

 俺は痺れを切らして歩み出た。

「来るなよ。来たら絶交だかんね」

 ケンが言った。
絶交は良いが、いつ友達になったんだ。
まあ、それはともかくケンの覚悟が垣間見える。
相当な覚悟だ。

「助けは要らんのか?」

「要らない!」

 ケンの両眼には力強い光が宿っているように見える。
俺はしばらくそれを確かめると、ゆっくりと後ろへ下がった。
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