見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
787 / 826

七八六

しおりを挟む
「ハッタリで僕たちをやり込めようとしたのか……」

 ケンが複雑な顔で言う。
そうは言っても、これまでそれで上手く行っていたのだろう。
全くのハッタリと言う訳でも無い。

 これだけ大掛かりな罠なら、突破できなくても仕方が無いと言う物だ。
並の実力ならヴァンパイアまでも辿り着けまい。
下手をすればゴースト辺りで力尽きても何ら不思議は無いだろう。

「く……!」

 男がこの期に及んで逃走を試みる。

「逃げられると思っているのか?」

 俺が迫る。

「何者だ……貴様」

「質問するのはこっちだ」

 俺は男の質問を無視した。

「上の子供たち以外はどこだ」

「知らんと言った筈だ。俺はこのエリアの責任者だ。他は知らん」

 あくまで知らんと言い張るのか。

「プロテクションがある限り、直接ダメージを与える事は出来ん。援軍が来るまで時間稼ぎに付き合ってもらうぞ」

 男が引きつった顔で言う。
ビビりながら言うセリフじゃ無いな。

「時間稼ぎなどさせないよ。僕がそのプロテクションを剥がしてやる」

 いつの間にかケンが立っている。
ちゃんと休めたのか。

「僕には自己回復のスキルがあるからね。じっとしていれば数十倍の速度で回復する。そんな事よりお前には全部吐いてもらうぞ。こんな詐欺師に担がれたと思うと腹が立つ」

 ケンがいつになく真面目な表情で言う。
結構、根に持ってるんじゃないのか。

「そうだ。冷静になればこんなペテンに引っ掛かる筈が無いんだ。下手にヴァンパイアなんかと接戦してしまったばかりに、余裕が無かった」

 ケンが剣を振りかざす。

「スー……ハー……、魔神力ッ!」

 深呼吸したかと思うとケンはカッと目を見開いた。
見る間に上腕が膨れ上がり、ケンの服ははち切れた。
これは。

 強化魔法の一種か。
だが魔法が働いた気配は無かった。
もしかすると、勇者の固有スキルなのかもしれない。
魔神力なんて、一般には聞かない名前だ。

「さあ試してみようか。お前のプロテクションがどのレベルなのか、すぐに判る」

 ケンはそう言うと、気合もろとも剣を振り下ろした。

「えいやあああっ!」

 がきいいんっ!

 振り下ろされた剣がプロテクションに弾き返される。

「ふ……ふふふ……!ど、どうだ。破れまい。ひ、ひひひ」

 男が強がりを口にする。

「では、もう少し力を込めてみよう」

 ケンがそう言うと更に腕が太くなる。
もう、ケンの体格と全く合っていない。
腕だけが別人の物のようにケンの体から生えている。

「チェストオオオッ!」

 ぶおんっ!

 ガッキイン!
バリイインッ!

 プロテクションが砕ける音がする。
一瞬だけガラスのようにキラキラと砕ける姿が見えた。
そしてそれはすぐに、消えていった。

「ひいいいい!」

「ふふふ。割れたね」

 ケンが怪しく笑う。

 がっ!

 そしてそのまま手を伸ばして、男の腕を掴まえた。

「……あった。やっぱりね」

 なんだ。
何があったんだ。

 ケンが男の手を掴んで俺に見せた。
ローブに隠れていたが、男の指には大きな指輪があった。
これがなんだ?

「これは召喚士の指輪だ」

 これが召喚士の指輪。
初めて見るな。

 この世には様々な職種に合わせて指輪が存在する。
その職能を伸ばす為。
あるいは、全く別の職種がその職能を使う為に用いる指輪。
いわゆる魔導具の一種だ。

 かなり稀少で高価な為に、市場にもほとんど出回らない。
なぜ稀少かと言えば、例に漏れずドワーフが造った物だからだ。
稀少なドワーフの稀少な魔導具。
出回らないのは当然だ。

「こんなレアな物を持っているとは思わないよな。けど、お前程度の実力でも、勇者を苦しめる程には強力だよ」

 ケンが忌々しそうに言う。

「レオがあの鐘に気付いてくれたお陰で召喚を阻止できたんだ。そうで無ければ今も延々と続いていた筈だ。全く恐ろしい」

 ケンがそう言って男のフードを剥ぎ取る。
男は慌てて顔を背けるが、無駄な抵抗だった。
顔を覆う布まで剥ぎ取られ、ケンに顔を掴まれた。

「お!?お前……!」

 ケンが驚いた。
並の驚き方じゃないな。
誰なんだ。

「……第一騎士団の隊長だよ」

 ケンが力無く言った。
身内か。

 俺は特に驚かない。
王国内に関係者が居ると知った時点で、こう言う事は想定済みだ。
だがケンにとっては、さすがに自分の部下だとは思いも寄らなかったようだ。
しおりを挟む
感想 238

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...