見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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七九三

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「グ……グ……グゴオオム……」

 トロールはどんどんと溶けていき、もう原型も留めていない。
超酸がトロールの再生を阻害する。
再生した部分に超酸が混ざって上手く再生出来ていない。

 如何に超再生能力と言っても、時間が経ち過ぎればいつまでも再生は出来ない。
ある程度の新鮮さとでも言うべき物が必要だからだ。

 トロールはもう再生出来ない。

 俺はチンピラどもの討伐はケンに任せて、子供たちの檻に向かった。

「今開けてやる。少し離れていろ」

 そうは言っても檻の中はぎゅうぎゅう詰めだ。
無理な話かもしれない。
それでも、子供たちは出来る限り精一杯端へと寄った。

 がしっ
ぐぐぐぐぐ!

 俺は力を込めて鉄の檻を両手で開いた。
何のへんてつも無いただの鉄だ。
さした力も必要無く、簡単に曲がった。

「わあああ!」

 子供たちが驚きと喜びの混ざった声を上げる。

「さあ、出ておいで」

 男の子が最初に出て来た。
それを見て次々に子供たちが檻から出て来る。
俺は同じように他の檻も破壊して、子供たちを解放した。

 これでひとまず子供たちは良いだろう。
これ以前の子供たちをどこまで追跡できるかは判らないが、一応やれる範囲は手を尽くしてみようと思う。

 さて。

 俺は立ち上がってケンの様子を見ようとした。

「ん?」

 俺の脚に何かが触れた。

「あ、あの……」

 女の子が俺を見上げている。
俺の腰ほどにも満たない小さな女の子だ。

「どうした」

 俺は声を掛けた。

「……」

 女の子は困ったような顔をして黙り込む。

「?」

 俺は何事か考える。
そうか。
俺はしゃがんで女の子の顔を覗き込んだ。

「そうか。一人では帰れないもんな。少し待っているが良い。今、あの勇者さまにお願いしてみよう」

 俺はそう言うと、背後でチンピラどもを次々に取り押さえるケンを指差した。

「わあ」

 途端に女の子の顔が明るくなる。
そりゃそうだ。
かなり遠くから連れて来られているのだろう。
一人で帰れって訳にはいくまい。

 気が付くと他にもたくさんの子供たちが俺を取り囲んでいる。

「なんだ?」

「あの……助けてくれてありがとう!」

 男の子がペコリとお辞儀をしてそう言った。

「ありがとう」

「ありがとうおじちゃん」

「ありがとうございました!」

 堰を切ったように子供たちが口々にお礼を述べた。
俺は困惑していた。
こんなのは経験が無い。
どう返事をすれば良いのか迷ってしまう。

「お前たち、俺が怖くないのか?」

 俺は見当違いな事を口にした。
お礼を言われているのに何を言っているのか。 

「うん。もう怖くないよ」

「あたしも!」

「僕もこわくないよ。おじちゃんは格好いいよ!」

 おじちゃんか。
まあ、間違ってはいないが。
俺は内心、苦笑した。

「そうか」

 俺は照れ隠しに一言それだけを言った。
見ると、ケンが全員を取り押さえた所だ。

「やれやれ。やっと終わったよ。ちっとも休憩にならなかったぞ」

 ケンがぼやいた。

「あの程度余裕だろ?」

「全員殺したらどうやって証言取るんだよ。殺さずに捕まえるの大変なんだぞ」

 なるほど。
言われてみればそうかもしれない。
しかし、そんな事を言いつつも結局全員ふん縛ったのだから、さすがだな。

「さて」

 俺はそう言って踵を返す。

「あれ?まだ何かあるのかい?」

「沖へ行って停泊している船を探してくる。そこにも何かあるかもしれないからな」

 俺はそう言うと川の出口に向かう。

「あ、そうそう。この子供たちの事も頼んだぜ。勇者さま」

 俺は振り返ってそれだけ言うと、川へと飛び込んだ。

 ばしゃーん

 水中はそれほど苦手では無い。
何故なら俺は『サフィリナ』と『ベニクラゲ』と『キロネックス』の能力を持つ改造人間だからだ。
つまり本来は水中を得意とする改造人間と言う事になる。

 まあ、元は人間だし、能力はクラゲやプランクトンだから、魚ほど自由にはならないが。
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