見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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七九七

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 とにかく場所は判った。
俺は後ろ髪を引かれる思いで上へと戻る。

 後はこの船が行き着く先を見極める。
それまではジッと身を潜めて待つしか無い。

 船は大きく小さく揺れながら、大海原を進む。
こんな状況でなければとても気持ちの良い船旅だったろう。

「……おい。誰か居るぞ」

 甲板で誰かが言った。
なんだと。
俺は過敏に反応する。
まさか、俺の事か。

「なにぃ?誰かって誰だ」

「判る訳無ぇだろ。見ろ」

 男は床を指差す。
この男は、さっき撤退を判断した男か。

「濡れてる。しかも続いている」

 床に水溜まりが出来、それが足跡のように船首へと向かっている。
あれは確かに俺の物だ。
こいつ。

「船の甲板が濡れてるなんて良くある事だろう。ここは海だぞ。気にしすぎだ」

 相手の男が呆れたように言った。
これくらいの反応の方が普通だろ。

「水しぶきが移動するか」

 男は譲らない。
男の耳飾りが月明かりにキラリと反射した。
悪党のクセに耳飾りとは。
俺は鼻で笑った。

「それはそうだが……気にしすぎだろ。こんな海原で誰が途中で乗って来るってんだ」

「判らんから警戒しろと言っているんだ。他の連中にも声を掛けて来い」

 耳飾りの男はそう言うと辺りを見回した。
俺はそのすぐ近くのマストの上にぶら下がっている。

 こいつ、やはり洞察力が他と比べて抜きん出ている。
見つかると面倒くさいな。

 男が突然こちらを見上げる。
俺はドキッとした。
だが、男はすぐに他を見る。
辺りを警戒しているだけか。
脅かしやがって。

「……何者だ。居るんだろう?判るぞ」

 耳飾りの男が言う。
バレてはいないが、何かに勘づいている。
俺は息を殺して男を見守る。

「センス・エネミー」

 男が魔法を唱える。

 センス・エネミー。
相手が敵意を持っているか見る事が出来る魔法だが、敵を探知する能力は無い筈だ。
だが相手の真意が判らない以上、俺も黙ってやり過ごすしかない。

「……」

 男は慎重に辺りを窺う。
この魔法、この対応力、こいつも冒険者崩れか。

 兵士や騎士は、応用力はあまり高くない。
教科書通りにはとても強いが、想定外などには弱い。
何でもアリは冒険者の特徴だ。

 不意に男がもう一度こちらを見上げた。
俺は息を圧し殺し、ジッと動かずに気配を消し続ける。

「……居るな。そこか」

 なんだと。
何故判る。
それともただのブラフか。
どっちだ。

 男はこちらを凝視している。
透明化は継続中だ。
陸上では水中ほど完璧では無いが、見破られるほどチープでも無い。

「敵意が揺らいで見えているぞ。姿を現せ」

 男が言った。

 敵意。
そうか。
俺から出ているヤツへの敵意までは、透明化しないと言う訳だ。
俺は男の対応力に舌を巻いた。
やるな、こいつ。
だが、だからと言って俺の正確な位置までは掴めていない。

 それに、戦えば俺が勝つのは目に見えている。
慌てるような事は何も無い。
俺は引き続きジッと身を潜める。

「プラヴァケーション」

 男は挑発の魔法を唱える。
衛士が使う魔法だ。
ガイが得意としていた。

 ぐ……!

 俺の心に強い敵愾心が燃え上がる。
あの男を……殺す!

 制御不能の湧き上がる殺意。
自分を抑える事が出来ない。
精神魔法の耐性は、さすがに改造人間にも搭載されていない。

「見付けたぞ!」

 男が俺を見てそう言った。
今、俺の体からは相当に強い敵意が噴きだしている筈だ。
つまり丸見えって訳だ。

 だっ

 俺はマストを蹴って男に飛び掛かる。

「プロテクション」

 男は壁を張って俺を弾き返す。

 がっ!

 俺はプロテクションに跳ね返されて、甲板に着地する。
プロテクションなど、とうに見飽きた。
破壊するのは容易い。

 俺は再び男へと襲い掛かる。
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