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本編
出たな化生
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夜になった。
人々は家に籠り、戸や窓を厳重に閉めた。
この街で夜に出歩く者はいない。
かつては夜も賑わっていた。
温泉宿があり、酒場があり、土産屋があった。
だが今は見る影もない。
リッチのせいだ。
もちろんそれだけでは無い。
領主のルドルのせいもある。
とにかく、街に平和の二文字は無かった。
町の中心地。昼間も通った場所だ。
この広場はかなりの広さだった。
中央に像が建っている。初代ガッチェ公だと思われる。
それ以外は特に何も無い広場だった。
場所毎に芝が敷かれ、公園の風情がある。
おそらく本来は、民衆の憩いの広場だったのだろう。
ヤーゴを始め四人がやって来た。
リッチ目撃の一番の場所はこの広場だったからだ。
「もっと廃墟とか森の中とか、そう言う場所に出るもんだと思ってたぜ」
唯桜が辺りを見渡して言った。
月明かりが辺りを照らす。
今晩は視界は悪くない。
「悪りいけどよ。今回は俺は見学させてもらうぜ。後は頼んだ」
そう言うと唯桜は煙草に火を着けた。
辺りに煙草の匂いが広がる。
美紅は今回、端から唯桜は当てにしていない。
自分と牛嶋でやると、最初から決めていた。
「特に何も感知しないわ。どんな感じで現れるのかしら」
美紅はセンサー類をフル稼働させて辺りを探った。
しかし、何も反応は無い。
牛嶋は両袖の中に腕を引っ込めると、目を閉じてじっと待った。
ヤーゴは唯桜の側で、落ち着きなく辺りを見回す。
「流石にリッチともなれば、緊張感が半端ねえなあ」
普通の人間であるヤーゴにとっては、一緒に着いて来ただけでも相当なくそ度胸である。
これも魔人会のマネージャーとしての責任感が成せる業であった。
「しかし、おめえ良くあんな馬鹿息子相手に話をまとめたな。感心するぜ」
唯桜がヤーゴを褒めた。
「まあ、元々港と船が一番の目的だったからな。金と街での自由云々はオマケみてえなもんだ」
ヤーゴは落ち着きなく周囲をキョロキョロしながら答えた。
「南や北へ遠征するなら船は必要だからな」
ヤーゴはどこまで進出する気なのか、唯桜も測り兼ねていた。
世界征服を目指す唯桜達は、いずれ世界にも進出するつもりではある。
しかしそれは魔人会としてではない。
あくまでヤゴス再興の野望だ。
唯桜が考えるより、ヤーゴの計画は随分と進捗が早かった。
牛嶋が目を開いた。
風が少し強まった様な気がする。
頬を撫でる風が冷たい。
「何か出てくるみたいね……」
美紅が広場の中心を睨んだ。
「お、おい。何かって何だよ……?」
唯桜が美紅に言った。
声がうわずっている。
「 ……さあね。エネルギー反応は無いけど、空間に何か現れようとしてるみたい。それしか解らないわ」
美紅も少し声に緊張が出ている。
美紅の宙空マルチソナーは、何も無かった空間に突然物体が出現した事を告げていた。
湧いて出たとでも言うのか。
美紅自身、焦りが無い訳では無かった。
しかし、焦っては敵の思うツボである。
牛嶋は静かに袖に腕を通した。
風が雲を運び月を覆う。
辺りは暗闇に包まれた。
ヤーゴは唯桜にくっついた。
唯桜も生唾を飲み込む。
美紅の感覚器はもうそこに何かが居る事を伝えている。
次に風が吹いた時。
雲を吹き飛ばし、月明かりが戻った。
月光が辺りを照らす。
そこへ何かが居た。
何だか解らない。だが人影があった。
「出たか……、化生」
牛嶋が人影を見据える。
そして一歩前へ踏み出した。
「まずは俺が行こう。アレが何か、美紅。お前が見極めるのだ」
牛嶋は美紅にそう告げて更に前へと歩き出した。
人々は家に籠り、戸や窓を厳重に閉めた。
この街で夜に出歩く者はいない。
かつては夜も賑わっていた。
温泉宿があり、酒場があり、土産屋があった。
だが今は見る影もない。
リッチのせいだ。
もちろんそれだけでは無い。
領主のルドルのせいもある。
とにかく、街に平和の二文字は無かった。
町の中心地。昼間も通った場所だ。
この広場はかなりの広さだった。
中央に像が建っている。初代ガッチェ公だと思われる。
それ以外は特に何も無い広場だった。
場所毎に芝が敷かれ、公園の風情がある。
おそらく本来は、民衆の憩いの広場だったのだろう。
ヤーゴを始め四人がやって来た。
リッチ目撃の一番の場所はこの広場だったからだ。
「もっと廃墟とか森の中とか、そう言う場所に出るもんだと思ってたぜ」
唯桜が辺りを見渡して言った。
月明かりが辺りを照らす。
今晩は視界は悪くない。
「悪りいけどよ。今回は俺は見学させてもらうぜ。後は頼んだ」
そう言うと唯桜は煙草に火を着けた。
辺りに煙草の匂いが広がる。
美紅は今回、端から唯桜は当てにしていない。
自分と牛嶋でやると、最初から決めていた。
「特に何も感知しないわ。どんな感じで現れるのかしら」
美紅はセンサー類をフル稼働させて辺りを探った。
しかし、何も反応は無い。
牛嶋は両袖の中に腕を引っ込めると、目を閉じてじっと待った。
ヤーゴは唯桜の側で、落ち着きなく辺りを見回す。
「流石にリッチともなれば、緊張感が半端ねえなあ」
普通の人間であるヤーゴにとっては、一緒に着いて来ただけでも相当なくそ度胸である。
これも魔人会のマネージャーとしての責任感が成せる業であった。
「しかし、おめえ良くあんな馬鹿息子相手に話をまとめたな。感心するぜ」
唯桜がヤーゴを褒めた。
「まあ、元々港と船が一番の目的だったからな。金と街での自由云々はオマケみてえなもんだ」
ヤーゴは落ち着きなく周囲をキョロキョロしながら答えた。
「南や北へ遠征するなら船は必要だからな」
ヤーゴはどこまで進出する気なのか、唯桜も測り兼ねていた。
世界征服を目指す唯桜達は、いずれ世界にも進出するつもりではある。
しかしそれは魔人会としてではない。
あくまでヤゴス再興の野望だ。
唯桜が考えるより、ヤーゴの計画は随分と進捗が早かった。
牛嶋が目を開いた。
風が少し強まった様な気がする。
頬を撫でる風が冷たい。
「何か出てくるみたいね……」
美紅が広場の中心を睨んだ。
「お、おい。何かって何だよ……?」
唯桜が美紅に言った。
声がうわずっている。
「 ……さあね。エネルギー反応は無いけど、空間に何か現れようとしてるみたい。それしか解らないわ」
美紅も少し声に緊張が出ている。
美紅の宙空マルチソナーは、何も無かった空間に突然物体が出現した事を告げていた。
湧いて出たとでも言うのか。
美紅自身、焦りが無い訳では無かった。
しかし、焦っては敵の思うツボである。
牛嶋は静かに袖に腕を通した。
風が雲を運び月を覆う。
辺りは暗闇に包まれた。
ヤーゴは唯桜にくっついた。
唯桜も生唾を飲み込む。
美紅の感覚器はもうそこに何かが居る事を伝えている。
次に風が吹いた時。
雲を吹き飛ばし、月明かりが戻った。
月光が辺りを照らす。
そこへ何かが居た。
何だか解らない。だが人影があった。
「出たか……、化生」
牛嶋が人影を見据える。
そして一歩前へ踏み出した。
「まずは俺が行こう。アレが何か、美紅。お前が見極めるのだ」
牛嶋は美紅にそう告げて更に前へと歩き出した。
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