ドグラマ ―超科学犯罪組織 ヤゴスの三怪人―

小松菜

文字の大きさ
121 / 141
本編

第百二十話 笑う唯桜

しおりを挟む
「ウオオッ!」

唯桜はがむしゃらに立ち向かって言った。
むしろ、一方的に突っかかって行ったと言った方が正しい様な気もする。
しかし、未だリッチに届いた攻撃は皆無であった。

時々、思い出した様にリッチが杖を構える。
唯桜は本能的に何かを察知して身をかわした。
そこを炎や光弾が通過する。

少女の目には圧倒的に唯桜が圧されている様に見えた。
今の所、攻撃を食らってはいないものの、絶望的な状況に思えた。

だが唯桜の表情を見た時、少女は意外な事に驚いた。
ギョッとしたのだ。

笑っている……?
少女にはそう見えた。
唯桜は確かに笑っていた。
自分の攻撃はことごとく弾き返されているのにも関わらず、唯桜の顔には笑みが浮かんでいた。

唯桜は身を翻して光弾をかわした。
その背後で光弾が地面に当たって炸裂した。
唯桜はそのまま真横に走る。
その後を連続的に光弾が通過した。
後ろで爆発が連鎖していく。

深夜の街に爆発音が響き渡った。
ここだけ戦争でも起きているかの様だ。

「はっはっはっはあ!」

唯桜は遂に声に出して笑い始めた。
自然に声が漏れ出したのだ。

当たるッ!  当たるぞッ!
すり抜けて攻撃が当たらなかった子供の時とは違うッ!
防がれてはいるが、感触はある。
目には見えないが、触れられる。

コイツ、俺の攻撃を恐れていやがるッ!
ビビっていやがる!
だから必死で壁を作って閉じ籠ってやがるんだ!
ぎゃははははははっ!  幽霊も殴られるのは怖いってか?
見てろよこの骸骨野郎!  必ずぶん殴ってやるぜ!

唯桜の思考を知る筈も無いが、もしも知る事が出来たなら、超ポジティブシンキングと誰もが呆れた事だろう。
しかしこれこそが、唯桜の並外れた闘争本能を支える物でもあった。

諦めない。
良く言えば不屈だ。
悪く言えば往生際が悪い。

「ひゃっひゃっひゃっひゃっ!」

唯桜の高笑いがこだまする。
これでは、どっちが優勢でどっちが劣勢なのか解らない。

だが調子に乗って無茶をし過ぎた。
なりふり構わず振り回し続けた結果、右腕が外れそうになった。

「やべえ……ッ!」

唯桜は咄嗟に右腕を庇った。
そこへ間髪入れずにリッチが杖を奮う。

ドオンッ!

光弾が至近で唯桜の顔面に当たった。
顔面で爆発する。

だが、信じられない事に唯桜は堪えた。
少女は思わず息を飲む。
こんな事が有り得るのか。
一瞬爆風に反り返った唯桜は、体勢を戻しながらも頭突きを繰り出す。
しかし苦し紛れに繰り出した頭突きには、大した力は無かった。

フラフラッと、よろけながら唯桜は思わずリッチにもたれ掛かる。
目に見えない障壁が、フワッと唯桜の頭を受け止めた。
リッチはその隙も逃さず光弾を放つ。
再び唯桜は胸に光弾を食らって吹っ飛んだ。

ズザザザーッ!  と地面に倒れ込む。
流石にモロに食らってしまった。
唯桜の顔面は吹き飛んでしまったに違いない。
少女はそう思って顔を背けた。

「いってええ……!  野郎、ざけんなよ……!」

顔面を押さえて唯桜が立ち上がる。
前髪がわずかに焦げていた。

え?  それだけ?
少女は今日だけで、一体何度驚いたか解らない。
唯桜は特に表面上に大きなダメージを受けていなかった。

「てめえ、よくも俺様のダンディーなヘアースタイルを焼いてくれたな」

唯桜は前髪を気にして指先で摘まんだ。
焼けてチリチリに縮んでいる。
唯桜はぶちギレた。

「この野郎、てめえは丸ごと火葬してやる!」

そう言うと、今までとは打って変わり、ゆっくりと歩いてリッチに近付いていった。

リッチが一瞬戸惑った様に見えた。
少女はそれを見逃さなかった。

「え?  なんで?」

本の一瞬、後ずさる様に見えたのだ。
わずかに上体を反らせた様に見えた。

唯桜の顔には、何故か意地悪そうな笑みが浮かんでいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】婚約者なんて眼中にありません

らんか
恋愛
 あー、気が抜ける。  婚約者とのお茶会なのにときめかない……  私は若いお子様には興味ないんだってば。  やだ、あの騎士団長様、素敵! 確か、お子さんはもう成人してるし、奥様が亡くなってからずっと、独り身だったような?    大人の哀愁が滲み出ているわぁ。  それに強くて守ってもらえそう。  男はやっぱり包容力よね!  私も守ってもらいたいわぁ!    これは、そんな事を考えているおじ様好きの婚約者と、その婚約者を何とか振り向かせたい王子が奮闘する物語…… 短めのお話です。 サクッと、読み終えてしまえます。

黄金の魔族姫

風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」 「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」  とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!  ──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?  これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。  ──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!   ※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。 ※表紙は自作ではありません。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...