ドグラマ ―超科学犯罪組織 ヤゴスの三怪人―

小松菜

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本編

新興勢力勃興

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「は?」

ヤーゴがポカーンと口を開いた。
鳩が豆鉄砲を食らうとはこういう状況を言う。

「いや、だから今晩奴隷を奪いに行くんだよな?  西地区の」

唯桜は繰り返してヤーゴに質問した。
何だか雲行きが怪しい事は、空気を読まない事には定評のある唯桜にも薄々伝わっている。
いつもならこの辺りで口撃が始まる美紅が、明後日の方を向いて爪の手入れをしている。
牛嶋でさえ自前のぐい飲みで、どぶろくを一人窓に向かってちびちびとやっている。

「唯桜さん……俺そんな話しましたっけ……?」

ヤーゴの顔は青い。そしてプルプル小刻みに震えている。
捨てられた仔犬みたいだなと唯桜は思った。
思ったが、今の雰囲気はそれを言う雰囲気ではない事くらい唯桜にも解った。

「いいえー。言ってませーん」

美紅がこちらには目もくれず言葉だけ寄越した。

「え?  言ってない?  嘘?  言わなかった?  今晩奴隷を奪うって」

唯桜はいつになく早口になっていた。
人間後ろめたい時は早口になるものである。

「唯桜さあん、頼むよお。奴隷を競売に掛ける時に奪われない様にって言ったら、唯桜さんが用心棒かって言ったんだぜえ」

ヤーゴは半分泣いている。

「確かに言ってましたあ」

美紅がまた口だけ挟んだ。

「西地区は黒いカラスって組織が仕切ってる縄張りだ。そこの奴隷集積所はデカ過ぎる。警備も厳重だしウチの被害も相当覚悟しなきゃいけねえ。そんな事したら戦争になっちまう。うう……」

結局ヤーゴは半泣きから全泣きになった。
どうやら自分はまたやってしまったらしい。

「あれ?  そうだっけ?  勘違いしたのかな」

唯桜は頭を掻いた。
その時美紅が初めてこっちを見た。
蛇の様な鋭い眼光を放っている。

「は?  勘違い?  アンタ自分の口で用心棒だって理解を示しておいて、何でそれが一晩も経たない内に奴隷襲撃に書き変わってんの?  脳みそどうなってんの?  中古のノートパソコンと入れ替えろ!  アホ!  脳筋!」

マシンガンの如く、美紅の舌鋒が激しく唯桜に降り掛かる。

「なんだよ……ちょっと勘違いしただけだろ。脳みそ中古のノートパソコンと入れ替えたら、それは俺じゃ無くなっちまうじゃねえか」
「解ってるわよ!  だから言ってんのよ!」

流石の唯桜も口では美紅に太刀打ち出来ない。

「あああああああ!  うっせえ!  うっせえ!  うっせえ!  バーカ!」

突然唯桜がキレた。突然だからキレると言うのであって、ゆっくりキレる奴などいないが。
唯桜は鼻息も荒く、肩をいからせて啖呵を切った。

「俺ぁよ、端っからこんなチンケな下っ端仕事嫌だったんだよ!  用心棒だ?  知るか!  俺はヤゴスの大幹部だ!  泣く子も黙る爆狼魔人、大神唯桜様だ!  金輪際顎で使われて堪るか」

一気にここまで捲し立てると、立ち上がってテーブルに片足を乗せた。

「おう、ヤーゴ」

ドスの利いた声で唯桜はヤーゴを呼んだ。
ヤーゴは震え上がって、ひゃいと変な声で返事をした。

「お前には迷惑かけたよ、悪かったな」
「い、いえ」

ヤーゴのプルプルは勢いを増している。

「だがよ、俺ぁこれ以上おめえンとこの指図を受けたく無くなった」
「え、ええ……」

どういう感情の、ええなのかもう良く解らない。

「どうせいつまでも他所の組織で使われてるつもりは無かったんだ。遅かれ早かれ自分の居場所は作らにゃならんからな」

牛嶋は相変わらず窓の外を見ていたが、ぐい飲みを持つ手は止まっていた。
美紅はため息をついた。

「そういう訳で俺は今から自分の組織を作る。よって、今後は好き勝手やらせてもらう」

ヤーゴはパニックに陥った。
勝手に話を拗らせておいて仕事も突然キャンセルとは。ましてや勝手に新勢力を立ち上げて、明らかに自分達の組織とバッティングする雰囲気である。

俺はもう、おしまいだな。ヤーゴはそう思った。
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