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4、暴走王女様
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サウロンは素早く闖入者──第一王女、リーゼロッタ・フォン・エーデルの前に立ちふさがり、少しでも部屋の中が見えないようにした。アランはマリアを抱きかかえたまま、窓へと必死の形相で全力ダッシュする。
「リーゼロッタ、そなたは何度扉を開けるときは静かに開けるようにと言えばわかるのだ? それ以前に、人がいないのならまだしも、それ以外の際は周りの者に開けさせるようにと言っているはずだが?」
情けないとでも言うようにサウロンは大げさに溜息を吐く。
「そ、その話は後でいくらでも聞きますわ。それよりも今は叔父様ですわっ! そこをどいてくださいっ!」
リーゼロッタは両手でサウロンを押しのけると素早く部屋を見回し、ちょうどアランが窓から外へと飛び出すのを見た。
「叔父様……逃がしはしませんわ」
リーゼロッタは微笑むと、強く地面を蹴り、アランたちの跡を追った。スカートの裾が大きく翻ることを気にする様子も見せない。
1人取り残されたサウロンは再度大きく溜息を吐いた。そして騎士たちの足音が近づいてくる足音に表情を引きしめた。
「……ただちにリーゼロッタを捕らえよ。民の迷惑となる前になんとしてもだ。多少の怪我ぐらいはさせても構わぬ」
静かな怒気をに満ちた国王の指示のもと、騎士たちは迅速にリーゼロッタを捕らえるべく、散っていった。何の説明もなく、第一王女を捕まえる命令が出ていることに疑問を持つ者はいない。
サウロンはそんな騎士たちの姿を窓から眺めながら、2人の無事を色んな意味で祈っていた。
「リーゼロッタも……あの暴走さえなければな……」
一方、リーゼロッタから全力で逃げたアランはすでに王都、それも通行人の多い大通りを駆けていた。
見るからに高価とわかるドレスに身を包んだ10前後に見える少女から鬼気迫る表情で子どもを抱きかかえて逃げる男の姿に、人々は状況を呑み込めず、唖然とした顔でその場に固まっている。
「なんで10年以上前とほぼ外見が変わってねぇんだよっ!?」
「愛の力ですわっ!」
リーゼロッタの言葉はある種の狂気をはらんでいた。
「そんな愛なんていらねえっ!」
このまま大通りを走ってはいずれ追いつかれると判断したのか、アランは適当な路地に飛び込んだ。
「『古の契約に従いて、力を貸し与えよ!』」
そしてリーゼロッタから姿が見えなくなる僅かな時間で、状況を打開すべく動く。
2人の身体は淡い蒼の光に包まれ、アランが強く地面を蹴ると、重力を感じさせない動きで屋根へと飛び上がる。
「伏せろ」
屋根にほとんど音を立てずに着地をするや否や、マリアを下ろす。マリアは言われるがままにアランの横に伏せた。
それに数瞬遅れてリーゼロッタも路地に飛び込んでくるも、アランの姿を見失い、その場で足を止める。
「いったいどこに……」
何かの感が働いたのか、上を見上げるも、2人の姿が見えることはない。
「おかしいですわね?」
リーゼロッタは首を傾げると、小走りで路地の奥へと駆けていった。
「……お父さん、あれ何?」
リーゼロッタが見えなくなると、マリアは肩の力を緩め、ぽつりと呟いた。
「一応この国の第一王女、リーゼロッタだ。そして俺の天敵でもある」
「……あんなのが王女様って、この国大丈夫?」
無意識のうちに仮にも王女をあんなの扱いしていることに気づかない。
「普段は普通なんだよ。ただ、俺が絡むとああなる」
アランもそのことには触れることはしない。
「……捕まったらどうなる?」
「十中八九、監禁されて薬かなんかを盛られるな。あいつはそういうやつだ。その前に兄貴が手を打ってくれるとは思ってはいるけどな」
アランはそう言いながら、マリアの頭に外套のフードを被せた。
「フードを被っておけ。その本は……一度俺が預っていいか?」
「うん」
マリアがサウロンから貰った本を手渡すと、アランはそれを腰のベルトポーチの中へと仕舞った。そして自分も目深にフードを被った。
アランは再度マリアを抱き上げ、先程とは反対側の路地へと身を踊らせた。そして綺麗に着地を決めると、マリアを地面に降ろす。
「んじゃあ、行くか」
「えっ? どこに?」
「どこって、王都観光だ。せっかくここまで来たんだしな」
「……この状況で?」
マリアは呆れたようにアランを見た。
「まさか向こうも普通に観光してるとは思わないだろうしな。それにどうも、マリアが目に入っていなかったみたいだからな。欺くという意味でも有効な手だと思うぞ」
「えっ? 視界には入ってるでしょ?」
「世の中にはな、目には入っていても自分の見たいものしか見えていない、そういう可哀想な人もいるんだ」
マリアはアランから発せられる謎の気迫に、戸惑いがちに頷いた。
「う、うん」
「わかったならいい。じゃあとりあえず洋服屋さんにでも行ってみるか? エルドラントとは結構違っていて面白いぞ」
アランはにこやかだったが、同時に何かを誤魔化しているようでもあった。
「物価もだいぶ違うから、マリアは驚くかもな」
「……そうなんだ」
だがマリアはそのことに気づかない。
「マリアが気に入ったのがあったら言えよ。いくらでも買ってやるからな」
「……うん」
どこまでも自分に甘い父親に、マリアは苦笑いを隠せなかった。
「リーゼロッタ、そなたは何度扉を開けるときは静かに開けるようにと言えばわかるのだ? それ以前に、人がいないのならまだしも、それ以外の際は周りの者に開けさせるようにと言っているはずだが?」
情けないとでも言うようにサウロンは大げさに溜息を吐く。
「そ、その話は後でいくらでも聞きますわ。それよりも今は叔父様ですわっ! そこをどいてくださいっ!」
リーゼロッタは両手でサウロンを押しのけると素早く部屋を見回し、ちょうどアランが窓から外へと飛び出すのを見た。
「叔父様……逃がしはしませんわ」
リーゼロッタは微笑むと、強く地面を蹴り、アランたちの跡を追った。スカートの裾が大きく翻ることを気にする様子も見せない。
1人取り残されたサウロンは再度大きく溜息を吐いた。そして騎士たちの足音が近づいてくる足音に表情を引きしめた。
「……ただちにリーゼロッタを捕らえよ。民の迷惑となる前になんとしてもだ。多少の怪我ぐらいはさせても構わぬ」
静かな怒気をに満ちた国王の指示のもと、騎士たちは迅速にリーゼロッタを捕らえるべく、散っていった。何の説明もなく、第一王女を捕まえる命令が出ていることに疑問を持つ者はいない。
サウロンはそんな騎士たちの姿を窓から眺めながら、2人の無事を色んな意味で祈っていた。
「リーゼロッタも……あの暴走さえなければな……」
一方、リーゼロッタから全力で逃げたアランはすでに王都、それも通行人の多い大通りを駆けていた。
見るからに高価とわかるドレスに身を包んだ10前後に見える少女から鬼気迫る表情で子どもを抱きかかえて逃げる男の姿に、人々は状況を呑み込めず、唖然とした顔でその場に固まっている。
「なんで10年以上前とほぼ外見が変わってねぇんだよっ!?」
「愛の力ですわっ!」
リーゼロッタの言葉はある種の狂気をはらんでいた。
「そんな愛なんていらねえっ!」
このまま大通りを走ってはいずれ追いつかれると判断したのか、アランは適当な路地に飛び込んだ。
「『古の契約に従いて、力を貸し与えよ!』」
そしてリーゼロッタから姿が見えなくなる僅かな時間で、状況を打開すべく動く。
2人の身体は淡い蒼の光に包まれ、アランが強く地面を蹴ると、重力を感じさせない動きで屋根へと飛び上がる。
「伏せろ」
屋根にほとんど音を立てずに着地をするや否や、マリアを下ろす。マリアは言われるがままにアランの横に伏せた。
それに数瞬遅れてリーゼロッタも路地に飛び込んでくるも、アランの姿を見失い、その場で足を止める。
「いったいどこに……」
何かの感が働いたのか、上を見上げるも、2人の姿が見えることはない。
「おかしいですわね?」
リーゼロッタは首を傾げると、小走りで路地の奥へと駆けていった。
「……お父さん、あれ何?」
リーゼロッタが見えなくなると、マリアは肩の力を緩め、ぽつりと呟いた。
「一応この国の第一王女、リーゼロッタだ。そして俺の天敵でもある」
「……あんなのが王女様って、この国大丈夫?」
無意識のうちに仮にも王女をあんなの扱いしていることに気づかない。
「普段は普通なんだよ。ただ、俺が絡むとああなる」
アランもそのことには触れることはしない。
「……捕まったらどうなる?」
「十中八九、監禁されて薬かなんかを盛られるな。あいつはそういうやつだ。その前に兄貴が手を打ってくれるとは思ってはいるけどな」
アランはそう言いながら、マリアの頭に外套のフードを被せた。
「フードを被っておけ。その本は……一度俺が預っていいか?」
「うん」
マリアがサウロンから貰った本を手渡すと、アランはそれを腰のベルトポーチの中へと仕舞った。そして自分も目深にフードを被った。
アランは再度マリアを抱き上げ、先程とは反対側の路地へと身を踊らせた。そして綺麗に着地を決めると、マリアを地面に降ろす。
「んじゃあ、行くか」
「えっ? どこに?」
「どこって、王都観光だ。せっかくここまで来たんだしな」
「……この状況で?」
マリアは呆れたようにアランを見た。
「まさか向こうも普通に観光してるとは思わないだろうしな。それにどうも、マリアが目に入っていなかったみたいだからな。欺くという意味でも有効な手だと思うぞ」
「えっ? 視界には入ってるでしょ?」
「世の中にはな、目には入っていても自分の見たいものしか見えていない、そういう可哀想な人もいるんだ」
マリアはアランから発せられる謎の気迫に、戸惑いがちに頷いた。
「う、うん」
「わかったならいい。じゃあとりあえず洋服屋さんにでも行ってみるか? エルドラントとは結構違っていて面白いぞ」
アランはにこやかだったが、同時に何かを誤魔化しているようでもあった。
「物価もだいぶ違うから、マリアは驚くかもな」
「……そうなんだ」
だがマリアはそのことに気づかない。
「マリアが気に入ったのがあったら言えよ。いくらでも買ってやるからな」
「……うん」
どこまでも自分に甘い父親に、マリアは苦笑いを隠せなかった。
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