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1章 少年期
クリシュ生誕
しおりを挟む俺は両親に会ったことがない。
神崎家の当主となるべく育てられ、修行に明け暮れていた俺は両親の愛を知らなかった。それもそのはずで、両親は俺が生まれてすぐにこの世を去ったそうだ。
代理戦争によって。
代理戦争による小規模戦争は大人数対大人数で行われるが俺の父親はそこで命を落とした。
日本はその戦争に勝利はしたが、父親は帰ってこなかった。
母親はそのことに絶望し、幼い俺を残してこの世を去ったそうだ。
俺は両親がいないことが当たり前のように生活していたのでその事実を知ったからといっても絶望することはなかった。
代理戦争はそういうものだから仕方ないという考えもあったし、両親の愛がどのようなものかも知らなかったので、ある意味当然だったのかもしれない。
だから今、優しい微笑みを浮かべて俺のことを抱いている綺麗な女性を母親だと認識するのに少し時間がかかった。
「エル様! 男の子です!! 元気な男の子が生まれてくれました!」
そう叫んでいるのは猫耳を生やしたこれもまた綺麗な女性だった。
メイド服を着ているしエル様って言ってたから確実にメイドだろう。
「えぇ……良かったわ……私、無事に産むことができたのね……レイン見て……私たちの子供よ…?」
俺の母親、エルって言われてるしエルと呼ぶことにしよう。
エルは息も絶え絶えになりながらも、かなりイケメンな青髪? の男に向かって俺を見せた。
エルは大丈夫か? と思ったが、出産直後だし、出産は苦痛を伴うって聞いているから大変だったのだろう。
生まれてすぐの俺だったが感謝の念は尽きなかった。
「おぉ!! なんて立派な男の子なんだ!! ありがとうエル!! 俺たちの子供を産んでくれて!! 君の白い美しい髪と俺の青髪を混ぜたような美しい銀髪だ!! クリシュお前も感謝しなさい、この人がお前を生んでくれたお母さんだ。」
やはりこのイケメンが俺の父親だったようだ。しかしあれだな、この父親のエルへの愛は半端ないな。
0歳児に母親に感謝しろって言うのか? いやこれがこの世界の普通かもしれないし素直にお礼を言っておこう。
「えぅーー!あぅーーー!」
あれ? 上手く喋れないな。
あぁ当たり前か、俺生まれてすぐだったわ。
「それにしてもクリシュ様は全然お泣きなさいませんね……どこか具合でも悪いのでしょうか!? ど、ど、どうしましょう!?」
「マルティナ、慌てすぎよ。大丈夫、クリシュはきっと強い子なのよ。ねぇレイン?」
「そうだ。クリシュは強い子になるのだ。きっと将来英雄と呼ばれるような男になるだろう。とりあえずエル、今日はもう休んでくれ。マルティナよ、クリシュのことは頼む」
「はい、分かりましたレイン様。さぁクリシュ様、こっちでお風呂に入ってからお休みなりましょうねー」
そう言って猫耳メイドのマルティナは俺を抱いて外に出る。
さて、まずはこの家のことを知らないといけないな。あと、赤ん坊の演技の練習。
そんなことを考えつつ俺は意識を手放し、眠りについた。
―――
生まれてから1ヶ月が過ぎた。
俺は恐らく子供部屋と思われる場所で生活している。
生活しているというか、ここから動けもしないのだが……
俺は相変わらず言葉を話すこともできないし、起き上がることもできない。
なので、腹が減った時は泣く。オムツらしきものを替えて欲しい時も泣く。夜に泣いたら申し訳ないので昼間暇な時に泣く。というようにして嘘泣きマスターの称号を得た。
意味が分からないかもしれないが本当に称号を得たのだ。ステータスに書いてある。
クリシュ=レンメール
lv 1
ランクH
称号 【嘘泣きマスター】
HP 60
MP 500
筋力 180
体力 150
敏捷力 60
魔力 420
魔法防御力 260
知力 230
運 5
スキル
『全属性魔法Ⅰ』『無属性魔法Ⅰ』『無詠唱』『剣技Ⅰ』
ユニークスキル
『スキルポイント』『魔神の加護』『剣神の加護』『メニュースキル』『……』
これが現在の俺のステータスだ。
とんでもなく不憫な称号だがタッチしたらこんな説明文が出てきた。
『嘘泣きマスター』
嘘泣きをすることで他人の同情を受け、甲斐甲斐しく世話してもらえるようになる。どんな悪人にも有効
これめちゃすごいのでは?と個人的に思っているが使い所が難しそうだ。
あと、ステータスだが、加護もあるしまぁ一般人よりは高いだろって考えていたら、どうやらマルティナが鑑定スキル?らしきものを持っていたらしく俺の両親にこう言っていた。
「……お2人とも、よく聞いてくださいね……クリシュ様は、レベル1です……なのにステータスはエル様とほぼ変わらないです。これは間違いなくクリシュ様は英雄だという証です。」
これを聞いた途端両親は一瞬驚愕の顔をして、その後一気に笑顔になって俺のことを目一杯あやしてくれた。
ーーあぁこれが愛なのかって俺は思った。
今までこんな風にあやしてくれる人なんていなかったし俺は絶対この2人の愛を踏みにじるようなことはしないと心に決めた。
この家には現在6人住んでいる。
俺の父親 レイン=レンメール
俺の母親 エル=レンメール
猫耳メイド マルティナ
猫耳執事 トール
メイドと執事の娘 アリス 2歳
そして俺こと クリシュ=レンメール
マルティナ一家はこのレンメール子爵家に住み込みでメイドと執事をしている。
アリスは将来俺の専属メイドになるために修行するそうだ。
また、マルティナとトールは護衛の役目もあるそうでそれなりにレベルとランクが高い。そしてそれよりも高いのがレインだ。
彼は騎士団の団長だったらしく、その功績の高さから子爵になったようだ。
またマルティナが鑑定を持っていて俺のユニークスキルや称号は見られたらマズイと思っていたのだが、マルティナは俺の称号とスキルについては何も言うことはなかった。
自分が英雄視されたことによって貢献ポイントが5増えていたことに気付いた俺は、何故父親のこのステータスが英雄視されないのに俺が英雄視されているのか疑問に思っていた。
レイン=レンメール
lv 70
ランク A
称号 【自由騎士】
HP 6000
MP 1200
筋力 2500
体力 3200
敏捷力 650
魔力 400
魔法防御 2800
知力 1200
運 50
スキル
『盾術Ⅷ』『剣技Ⅴ』『光魔法Ⅲ』『威圧Ⅲ』『体力アップⅤ』『HPアップⅤ』『馬術Ⅵ』
父親の強さはとんでもなかった。
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