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1章 少年期
冒険者ギルド
しおりを挟む「流石はクリシュ様ですね! 綺麗な斬撃でした」
マルティナはそう言って褒めてくれるが、俺は初めての魔物狩りがこんなにあっけなく終わってしまって少々困惑していた。
「クリシュ様、簡単に戦闘が終わって驚いているようですが、相手は最弱と呼ばれるゴブリンなので、クリシュ様のステータスならば勝てるのは当然のことです。もちろん、私やマルティナも瞬殺できます」
トールは俺に解説しながらナイフをおもむろに取り出し、俺に向かって投げつけた。
ナイフは俺の横を通り過ぎ茂みの中へ消えていった
「失礼しました。クリシュ様を後ろから狙う不埒者がいたものですから」
突然のトールの行動に戸惑いながらもそのナイフの向かう先に目を向けると、ゴブリンの眉間にそれは突き刺さっていた。
「クリシュ様、戦闘が終わっても油断をしてはいけません。特にここは森の中です。視覚や聴覚は狂うこともあります。ですので常に緊張感を持って行動して下さい」
「そっか、ごめんね。ちょっと調子に乗ってたみたいだ」
「いえ、クリシュ様のご年齢でゴブリンを屠って舞い上がらないのは無理がございますし、当然です。しかし、今後も魔物狩りを続けるならば覚えなければならないことは沢山あるので、頑張ってお勉強しましょう」
「そうですね、私たち獣人は五感が優れているので魔物がどこにいるのか大体分かりますが、クリシュ様は常に緊張感を持って行動しなければすぐに魔物の餌になってしまうこともあります。気をつけて下さいね。さて、それでは魔石を取り出して先に進みましょうか」
一般的な冒険者は、依頼を受けて魔物を討伐する以外にも収入を得る方法がある。
魔物は生きている時は害悪以外何でもないが、その亡骸からは良い素材が取れ、それを使って武器や防具を作り出すことができる。
冒険者は討伐した魔物の素材を集め売ることで収入を得ることができるのだ。
強力な魔物ほどいい素材になったり、食材として高価に売れるようになったりする。
「ゴブリンからは魔石以外に何か取れないの?」
「一応ゴブリンの持ってる装備品はあるのですが、品質が悪いので売ってもあまりお金にならないですね。森の中で動き回ることを考えるとオススメはできないです」
一般的な冒険者は俺のようにストレージを持ってるわけないし、邪魔になるだけってことか。
「収納魔法を使えれば持って帰ることを視野に入れても良いのですが、さっきも言ったようにお金にはあまりならないので今回は放っておきましょう」
ストレージを持ってるやつは俺以外にはいないが、収納魔法を使えるやつはいる。
収納魔法は空間魔法の1つで、魔力量によって入れられる重量は決まっているので、無限に入れられるわけではないが冒険者で収納魔法を使えるやつは重宝されるらしい。
「俺は空間魔法を使えるからその魔石俺が預かるよ」
そう言うと2人は目を丸くした。
「クリシュ様は空間魔法まで使えるのですか……本当に驚かせてくれますね」
「あぁ、そうだな。クリシュ様、空間魔法を使えることはあまり人に伝えない方が良いと思います。人によってはクリシュ様を便利屋扱いする輩も出てくる可能性もありますので」
「分かったよ。信頼できる人の前では使わないようにする」
まぁ、収納魔法じゃなくてストレージを使うつもりだけどな。
収納魔法は収納するだけなので時間停止効果はない。
だから時間経過と共に肉とかは傷んでしまう。
ストレージは時間停止効果もあるし、無限に入れられるからな。
「さて、魔石も取り出しましたし、先に進みましょうか」
「今日の目標はゴブリンを30体ほど討伐し、森の中で歩くことをクリシュ様に慣れてもらうことにしましょう」
「そうだね、森の中で歩くのは正直疲れるし、緊張で疲労も溜まるからそれぐらいがいいかも」
そうして俺は合計34匹のゴブリンを屠って森を出た。
「ではクリシュ様、これから冒険者ギルドに向かうので収納して頂いた魔石をこの袋に入れてもらってよろしいですか?」
そう言ってマルティナが麻袋を俺に差し出してくる。
「そっか、収納魔法がバレないようにするんだね」
「その通りです。まぁ私たちはこれでも村では有名ですので、絡んでくる者は居ないと思いますが、念のためですね」
この村は俺の父レインが治める村なので、その護衛であるトールとマルティナはそれなりに知られている。また、一応冒険者ギルドは存在するがそもそも村規模なので、冒険者として活動してるのは少数だ。
2人のランクはCなので、レインを除けばこの村1番の冒険者となる。
この村は冒険者ギルドがあっても、専門の武器屋や道具屋はない。
ギルドでちょっとした武器や防具、ポーションが売っているだけだ。
さて、冒険者ギルドの基本的な情報はリリーからもらってるが一応現地の声を聞いておこうか
「そういえば、冒険者ギルドってどんな施設なの?」
「そうですね、まず依頼についでですね」
・この世界に生きる全ての人にランクは存在する。
・魔物を討伐したり、依頼を達成したりしてランクを上げることができる。
・冒険者は基本的に好きな依頼を選べるが、自分より前後1ランクか、同ランクの依頼に限られる。
・依頼にないモンスターを倒しても、倒した証拠となるものを持ってくれば、特別報酬がもらえる。
・依頼をするのは基本的に商人や鍛治師、一般人など。しかし、冒険者ギルドからの依頼や、領主からの依頼もある。
・冒険者ギルドは国の機関であるが基本的に世界共通の施設であり、冒険者ギルドがない国はほどんどない。
・緊急性が高い時はランクの高い人たちに強制依頼をすることもある。
「あのさ、冒険者と一般人って何が違うの? ランクって全員あるんだよね?」
「冒険者はギルドに登録した人がなる職業ですね。いつでも入れますが、理由なく辞めることはできません。レイン様は元々冒険者でしたが、ランクBになった時に騎士になるという理由で冒険者を辞めました」
「へぇー、そうだったんだ。じゃあ俺も冒険者になれるんだよね? 特にデメリットもなさそうだし」
「まぁ、強制依頼以外は冒険者を縛ることはできませんがいいのですか? クリシュ様は長男ですのでそのうち領主になれると思うのですが」
「うん、まずはランク上げしないと。自分の領主が底ランクだったらなんか嫌じゃない?」
「そう思う輩も居ることは居ますが、悪政をしなければ基本的に領民は何も言いませんよ?」
「それに俺はこの村の領主としてやってくつもりはないんだ。実は世界をもっと見て回りたくてね……あ、父上と母上には内緒にしてね!」
「それはちょっと他言できませんね……まぁこの村は危険ですし、そう思うのは当たり前かもしれませんが……」
「クリシュ様がそう言うのなら私は応援します。もちろんアリスも連れて行ってもらいますけど」
「アリスは連れていくよ。俺1人では何もできないしね。トール、この村が危険ってどういうこと? 何か危険なことあるの?」
「あれ? クリシュ様は知りませんでしたっけ? この村はですね……」
「マルティナ、その話は後でしよう。冒険者ギルドに着いたのでとりあえず登録と換金だけしてしまいましょうか」
「分かった、後で聞かせて。ここが冒険者ギルドかぁ、初めて入るからちょっと緊張するなー」
ゲームやラノベの世界でしか見たことのなかった冒険者ギルドってやつに、俺はワクワクしていた。
何てったってここはイベント盛りだくさんの施設なのだ。
ここは子供が来るとこじゃねーって言って絡んでくる酔っ払いや、獣人のボインな美人おねーさん。強面のギルドマスターとか現れるハズなので楽しみだ。
ーそう思ってた時期もありました。
「おぉ、この子がレイン様のご子息か。お初にお目にかかります。私はここのギルドマスターのウォルツと申します。以後お見知りおきを」
俺に向かって綺麗なお辞儀をしてるのは60過ぎぐらいの優しそうな爺さんだ。
昔Aランク冒険者やってましたーって感じの人では全然ない。
どちらかというと校長先生みたいな人。
「ウォルツ殿、今日はクリシュ様の冒険者登録とゴブリンの換金をお願いしたいのです」
「うむ、了解したのじゃ。ではクリシュ様、この水晶に手を置いて頂けますかな? この水晶は犯罪履歴を調べることができるとともに、ランクを調べることができますので、ランクが上がった時にも利用して下さい」
何の問題もなく冒険者登録はできた。
あと、ゴブリンの常時討伐依頼があって5体ごとに達成できるので俺は6回分依頼達成し、Hランクの魔物を34体討伐したことで、合計23回分Hランクの依頼を達成したことになる。
ランクが上がるタイミングは
自分と同じランクの魔物を100体討伐する。
自分より上のランクの魔物を10体討伐する。
自分と同じランクの依頼を50こなす。
自分より上のランクの依頼を5こなす。
なので、依頼に換算した方が分かりやすい。
「クリシュ様はHランクなのでこちらのカードをお持ちください。これは冒険者カードといって、身分証みたいなものですね。無くされたら銀貨10枚頂くことになりますので気をつけて下さい」
そう言ってギルドマスターは俺に鉄で出来たカードを渡してくれた。
「クリシュ様はまだ幼いので時間は掛かると思いますが、そのうちSランクになって、英雄の生まれた村としてこの村を盛り上げてくれることを期待しております。まぁ、ゴブリンをこの歳で30体倒すのは少々異常なことですので、素質は十分あると思いますがの。フォッフォッフォッ」
「うん、頑張るよ。このギルドに職員を増員できるぐらいには」
このギルドの職員は3人しかおらず、おっさん、おっさん、爺さんの構成だ。
ギルドマスターが受け付けに居る時点でお察しの人員不足。
さらには閑散としたギルド内。
依頼ボードと受付があるだけで、人は誰もいない。
俺は自分の身が守れるくらいに強くなってからなら有名になることは吝かではないので、いつかは改善させたいな。
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