魔王でした。自分を殺した勇者な婚約者などお断りです。

一零

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勇者だけど婚約者!!15歳

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リヨネッタ15歳

 
 卒業と結婚式を1年後に控えた彼女は、アイーシャにスティーブへの感情を相談していた。


「この間こう言うことがあってな…。勇者との距離を測りかねているのじゃ…」

 魔族たちのかつての共食いの価値観と、かじる齧らないの話を聞いたアイーシャが頭を抱えている。

「第一王子は攻略の時にツンデレからの18禁王子へ進化タイプって言われてたのよね…あたしの親友になんて事を…!!やっぱり除夜の鐘でケツドラムさせてやりたいわぁ…」
「その言葉がよくわからぬのだが…?」
「知らなくて良いのよ、そのまま魔法で頑張って抵抗してちょうだい!!多分、リヨネッタの感情は殿下から離れられなくなる感情だと思うわ。だけど、詳しくは自分で感情の名前を見つけた方が、複雑にならないと思うの。」
「う、うむ?わかった。」
「…こうなった以上、私はリヨネッタとスローライフを諦めるね。一人で辺境の地へ行くわ。」

 いまいち良くわからない自分の感情を知りたいリヨネッタだったが、親友が知らなくて良いと言うならいいかと納得した。

「よくわからぬが、そなたが予定より早く辺境へいくなら資金をだそう。二人の共同開発で得たお金を必要なだけ持っていってたも。」
「え、リヨネッタ好き!めっちゃ助かる、結婚しよ?…やっぱり嘘、死にたくないわ…」
「アイーシャ??」

 話が良く見えず、首を傾げた。
 ヒロインアイーシャは何やら貯めていた感情があったのか、破裂した様に話し出した。

「ねぇ、あたしはヒロインだったはずよ。元平たい顔族代表みたいな顔だったあたしが!!皆と仲良く幸せになれる美少女だったはずなのよ!」
「う、うむ?」
「辺境の地でゲームじゃない出会いとかして、恋とか自由にして、大好きな友達と一緒にスローライフをしたかった!!でも、もう友人とは叶わない!!…言ってて悲しくなってきた…」
「大丈夫かぇ?」
「元一般人の記憶と過酷な聖女の記憶しかないあたしには、きらきらした貴族交流なんて元から荷が重かったの!!王族の敵意なんて返り討ちにできるはずなかったの…!!力になれなくてごめんなさい、あたしだけ宿命から逃れてしまいそうで、ごめんなさい。」

 たくさん喋って息切れをするアイーシャに、リヨネッタは優しく笑いかけた。

「よくわからぬが、自主退学できたのなら乙女ゲームとやらは終わったのだろう?そなたが幸せになれるなら妾も嬉しいぞ。ここ数年、ずっとゲームに囚われることを心配していたものなぁ。良かったなぇ。王妃様も安心しておられていたし、もう大丈夫じゃろう。」
「リヨネッタ…貴女はやっぱり悪なんかじゃないわ!!あたくしはあなたが幸せになることを祈っていたの。あなたにも神様の加護がもっと降ればいいのに…。」

 また口調が変わったアイーシャにも慣れて戸惑わず、リヨネッタは彼女と握手をした。

「あの監禁直後に自主退学させられたと聞いた時は心配したが、大丈夫そうじゃな。この後も会いに行くし、手紙を送るぞ、遠い地でも達者でな。」
「…そうね、結果的に自主退学できたから乙女ゲームの強制力は大丈夫そう!私はヒロインじゃないし、リヨネッタも悪役令嬢なんかじゃない!!あたしたちはこれで不安から自由になったのね。…ありがとうリヨネッタ、出会えて本当に良かった。」
「妾もそなたと言う友人に救われた。前世の記憶と乙女ゲームとやらの話しを共有できる者は他にいなかった。ありがとうアイーシャ…。」

 聖女と魔王は清々しい友情の下、再会を約束して別れを告げた。
 そこにわだかまりはなかった。

 そして人間への復讐に生きて殺された魔王は、自身を殺した勇者との間に、二つの人生で知ることがなかった感情を強く意識しだしていた。


(この感情と向き合うには、勇者と2人きりの方が答えが出そうじゃな…ふむ…)

 彼女は数週間ほど自問自答をしていたが、やがてスティーブありきの答えに2人きりになる方法を考えだした。


 次の日の朝
 いつものようにスティーブが一緒に登校するため迎えにきた際に、リヨネッタは馬車の中でいきなり話を切り出した。

「のぅ、勇し…スティーブよ。大事な話があるのだが…。」
「…っは、え?いま初めて名前で呼んだか??」

 
 名前で呼ばれて動揺するを真っ直ぐ見つめ、は思っていたことを口にする。

「気になる人ができたのだ。もうすぐ夏季休暇が来るだろう?2人きりで話がしたいのだが…。」
「…俺にわざわざそれを言うとは、いい度胸だな!」

 上がった気分を地の底まで落として、声変りが終わったスティーブが低い声をだす。
 今までのリヨネッタの行動から、自分スティーブのことを言っているのがわかっていないようだった。

(やはり妾と2人きりは嫌なのか…)

 初めて自分から誘いをかけた彼女は、怒る相手の反応を見て落ち込んだ。

「嫌がるのはわかる。だが、妾は二人きりで話がしたいのだ…チャンスをくれぬか?」
「相手が消える覚悟はあるんだろうなぁ…?」

 馬車の外では御者と護衛が、不穏な気配を感じて震え上がっていた。

(今までの喧嘩でお互いに相手が消えるまでの騒動は起こしたことがない…。それなのに、そこまで嫌か…いつもは頼まなくても会いに来て、手紙もしつこいくらい送ってくるのに!!妾と2人きりはそこまで嫌か !!)

 スティーブの反応に傷ついたリヨネッタは、今まで光の棟でことあるごとに2人きりになっていた状況が頭から抜けていた。
 ズキズキと胸が痛み、泣きそうにもなる。

 対してリヨネッタの人気が高く、男女に恋敵ライバルがいたスティーブは嫉妬に焼かれていた。
 後一年足らずで結婚するということで溜飲を下げていたのに、ここにきてまさかの婚約破棄の話が上がっているのかと思ったのだ。
 泣きそうになるほど‟誰か”と2人きりになりたい彼女に、可愛さ余って憎さ百倍だ。

「なぜ相手を消すなどと思うのだぇ…。ただ妾は、感じるこの胸の高鳴る感情に向き合いたいのだ!」
「初めての胸の高鳴りぃ!?…そんなの(見知らぬ相手を)消してやりたいに決まっているだろう!!」
「今まで(お互いに)消すほどのことをしてこなかったであろう??なぜじゃ…」

 リヨネッタは感情が高ぶり、スティーブの前で初めて涙をこぼしながら、詰め寄って抗議する。
 そこまで相手が好きかと、嫉妬と動揺、怒りで感情が混ざった感情にのまれた彼はつい、泣く彼女の胸倉を掴んで無理やり引き寄せてキスをした。

(2人きりは嫌なのではないのかぇ?消したいほどなら、なぜ妾に人間同士が好意のある相手にする行為を…キスなどをするのだ!)


 状況がわからないリヨネッタは離れようとした。
 互いの口の間に片手をねじ込んで、反対の手で彼をどかすように押す。

「…わからぬ、何をしたいのだそなたは…なんでわかってくれぬ…」
「俺もお前がわからないよ。あと少しで卒業したら結婚するのに!それなのに…、この悪女!!わざわざ俺にこんなこと言うなんて、悪辣すぎだろう!!」

 いつもと違って派手な喧嘩ではなく、静かに二人は距離をとる。
 ちょうど学園に着いた馬車が、気まずげに止まった。

 夏休み直前のその時まで、二人は口をきくことはなかった。
 これはリヨネッタが更に彼を意識することに繋がり、彼女と話せない苦痛にスティーブは密かな監禁の決意をしていた。

 派手な喧嘩は日常茶飯事だったが、お互い会話すらしない二人に、周囲は仲裁すらできずに成り行きを見守ることになって苦労していた。
 



 数日後
 夏休みに入る直前の全校集会の場で、生徒代表の挨拶を終えた第一王子スティーブは高らかに宣言した。

「本日をもって、魔王の生まれ変わりである悪辣女リヨネッタを光の棟に幽閉する!」

 ここ数日はスティーブと口すら聞けなくなった状況を辛いと感じていたので、リヨネッタは内心かなり喜んだ。

(光の棟ならスティーブしか出入りできなくなる。妾を閉じ込めるほど夏季休暇中は顔を見たくないのだとしても、出入りする最初と最後だけは2人きりの環境にもなろうて…)

「願ってもいないことですわ。さようなら王子。」

 堂々とこちらを指さす婚約者を睨みながら、リヨネッタは不敵に笑っていた。

 余談だが、またいつもの派手な喧嘩が始まってくれたのかと、周囲が逆に安堵をかみしめていた。それを二人は知るよしもなかったのである。




リヨネッタ15歳と半年

 夏季休暇の真っただ中
 リヨネッタは予想と違って、四六時中スティーブオンリーな日々に困惑していた。
 どこまで言っても二人はすれ違っているのだ。

(なぜ妾の二人きりになりたいという願いが叶っているのじゃ??)

 なんだかんだ自分の二人きりになりたいと言う願いを叶えてくれた彼に、自覚するほど確かな好感すら感じている。
 今も彼女の膝の上で寝転んで寝たふりをする彼に、変ないたずら心と、ときめきを抑えようとしていた。

「今日の宿題と公務は終わったのかぇ?」

 困惑気味に話しかけるのだが、目を閉じた相手は聞こえないふりをした。
 リヨネッタには長年の付き合いで、スティーブが起きているのが気配でわかる。

(そういえば、妾からキスをしたことなかったな。)

 誰にも抱いたことのなかったいたずら心をついに我慢できず、魔王は勇者にキスをした。
 驚いた相手は飛び起きて、膝から転げ落ちていく。

「ざまぁ見ろ勇者よ。油断しているからじゃ!!」
「おま、おまおま、お前!?」

 彼女は楽し気に笑い、驚きすぎて床から起き上がれない彼にのし掛かった。
 彼が何か言う前に、もう一回キスを落とす。

(結局この感情が何かはわからぬ。でもこの初めての感情も悪くない。)

「妾は二人きりになりたいと言っていただろう?これが気になっていたことだぇ。」
「気になる相手って…まさか、そんな、嘘だろ…?ずっと、ずっと、ずっと俺に振り向かなかったのに!?」
「うるさい口じゃなぁ…。」

 かつての恨めしくも嫌だった相手の驚いた反応に、更に楽し気に笑う。
 何度もキスを落として、人間同士が好意を向ける相手とする行為を繰り返す。

(かつての前世と違い、今世は愉快で幸せなことがよく起きるものよ。)

 人間たちに追い込まれていき、最期は独りになって死んだ魔王。
 今度は沢山の人間に囲まれて、もうじき幸せな結婚式が待っている。


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