ムーンライト

くるみぱん

文字の大きさ
4 / 15

ソラ

しおりを挟む
翌日から、リンがソラを連れてオレの家に遊びに来るようになった。

公園での出来事は、野球チームの連中数人が見ていたらしく、すぐに広まったらしい。
ソラへのいじめもなくなったようだ。

リンなんか、手のひらを返したようにオレに愛想よくなった。
野球の練習がない日は三人でオレの家でゲームをしたり、宿題も一緒にした。

すっかり付き合いの悪くなったオレを、タカたちが家まで訪ねてきたりもしたが、オレは、「家の手伝いがあるから」などとテキトーに言って追い返した。
手伝いなんて一度もしたことないけど。

下級生と遊ぶなんてカッコ悪くて言えなかった。
だけど、正直、オレの心は今までにないくらい穏やかな幸福感に満たされていた。


ソラは言葉数が異常に少なかった。ほとんどは首を縦か横に振るだけで、あとはひたすらこちらの目をじっと見つめる。

名前を聞いたとき以来、まだ声を聞けていなかった。

リンが、「恥ずかしがり屋なんだよね?」とソラに聞くと、コクリと頷いていた。

恥ずかしがってる奴が、こんなめちゃくちゃ目を合わせてくるか?

あまりにも凝視するので、こっちの心の奥まで見透かされるような気がして、こっちがいたたまれなくなり目を逸らす。

ソラがいじめられていたのも、言葉をうまく話せないことが原因だったようだ。

「またいじめられたら、いつでもアキトに言いなよ!」

無責任にリンが言い、ソラも頷いている。


オレはソラに格闘ゲームやキャッチボールを教えた。ソラはオレの言うことは何でも素直に聞く。だからといって、オレは以前クラスメイトにした様に、ソラを子分扱いしたりはしなかった。
むしろ、デリケートなものにでも触れるように、気を遣っていたくらいだ。

ソラは少しずつ笑顔を見せるようになった。が、それがオレを混乱させることになる。

ソラが笑うと心臓がドキドキする。反則級に可愛い顔をしやがるのだ。
白いおでこにサラサラの前髪がかかって、ふっくらとした頬っぺたが、昔懐かしの裸の赤ちゃん人形を彷彿とさせる。
少し垂れ気味の二重の大きな目は、幼く優しげで、リンよりずっと女の子っぽい印象だ。


ある時、オレの部屋で三人とも遊び疲れて寝てしまった。
六時に町内に響く、夕焼け小焼けのメロディでオレは目を覚ました。
ベッドと勉強机に占領された、子供部屋の狭いスペース。
オレはベッドにもたれかかって座ったまま寝ていたが、太ももに温かいボールのような重みを感じた。
ソラの頭だった。ソラはこちらに顔を向け、オレの太ももを枕にしてスヤスヤと寝ていやがった。
その寝顔は無防備な赤ん坊のようで、カーテンの開いた窓から差し込む夕日でオレンジに染まっていた。

オレ様を枕にするとはいい度胸だ!

ちょっと前のオレならその頭を掴んで、引っぱたいていただろう。
しかし、その時のオレは、まるで見たことも無い神秘的な生き物を目にしたかのように、その寝顔に惹きつけられ、見入ってしまった。閉じられた瞼から延びる長いまつげはくるんと丸まっている。オレの太ももに押しつぶされた右の頬っぺたがぷにゅっと口をタコにしている。そして、その口の端からは・・・

「ぅおい!!」

よだれ!どんだけリラックスしてるんだよ、ひとんちで!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

M性に目覚めた若かりしころの思い出 その2

kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、終活的に少しづつ綴らせていただいてます。 荒れていた地域での、高校時代の体験になります。このような、古き良き(?)時代があったことを、理解いただけましたらうれしいです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...