魔女様は平和をお望みです

yukami

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1.家出します

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とある王室に生まれ、姫として育った女の子は記憶を持っていた。

お姫様なんて場所に居たくない。しかもここは魔王とかいる世界のようだ。魔族とかファンタジーとかどうでもいい。
チートと言えそうなものもない。
攫われて酷い目に合うか。
どっかの貴族と結ばれるのなら。

この国を出た方が良さそうだ。

「……こんなチートもらっても…役に立たないもの、ね。」

即死無効。健康。
あともらってるのは家事と生産、素手っていう簡素なものだけ。
魔法がある世界だけど、それは加護で授けられるものではなく。学んだら誰でも使えるものだそう。
その魔法取得の儀は10歳になると行われる。
それがすぐそこまで迫っているのはわかっているがもう我慢の限界だ。

しかし私は本当についていない。

前世でもついていなかった。自殺しかあの時にできる逃避方法は思いつかなかった。
今世では自由に、気ままに、寿命死というのを叶えられるといいな。

まず、私の立場は王位継承権三位を持つの姫だ。上には2人有能がいる。私の存在など霞むほどに。しかしその2人…癖が強い。

女癖が強い17歳の一位と、引きこもりグセの強い12歳の二位。ここの一家はかなり子宝に恵まれており、私の下にも2人いる。4位は7歳。5位は3歳。
一番この中で有力だと考えられているのは4位。なぜなら有望な加護をもらえていたから。そしてこのまま育てられれば一位とも言われるいい子に育つだろう。

つまり、私はいらない子なのだ。
いらない子でいいのだ。
こんなところ早く出たいその一心で計画を立ててきた。

本当に!早くここから出たい。縛られるのはもう嫌だ。
我慢の限界がきた。

その日の晩、私の前に配膳されたご飯にはいつも同じようにあるものが混じっている。
他の人達のご飯にはなく。私にのみだ。

またかと思いつつ計画のため、今日は食べることとする。
これを作った人はようやく歓喜するだろう。
私は少し多めに食べたふりをして、王家の食卓の中で酷い咳き込みを発症させる。
もちろん演技だ。
隣にいた向かい側にいた2位が椅子を倒しながら私に手を伸ばす。酷く驚いた顔だった。
それを見て微かに背徳心が芽生えたが、準備しておいた血のりを地面に垂らす。

王であるその人も、一位も四位も、私のそばに駆けつける。
声をかけてくるが全部無視だ。こっちは演技に集中せねばならないのである。
誰かが医師をと叫ぶのを見計らい、血のりを口元に垂らしつつ、その場に倒れる。
加護というものは隠すことができる。彼らには私の即死無効と健康という加護は認知されていない。
毒で儚く死にそうな妹や姉を怯えつつ見るのだ。

誰かに部屋に運ばれる。
医者が来る。
彼はこの王家の唯一の協力者だ。
彼には頼んである。
「……残念ですが…毒が全身を回るのも時間の問題です。(毒なら食べた瞬間解毒されてるけど)……解毒薬は飲ませましたが……(ただの水なら飲んだな)」

すぐに犯人探しだと動き出す一行と、なぜか私のそばを離れない兄弟。

私に何度も呼びかけているが安静にしたほうがいいということで、医師の指示とともに出て行く。
しばらく寝たふりを決め込み、完全に人の気配がなくなったことを感じ取る。

「……」
無言で起き上がり、静かに準備を始める。
扉は中から施錠。
衣装ダンスを荒らし…いくつか服を魔法袋にしまう。

ベットの上には真っ黒に焼けた暖炉の中の炭を散らばらせ、こっそり出て退治した時のゴブリンの死体を寝かせる。

「首の骨を折ったら簡単に殺せたのは好都合だった。」

宝石も根こそぎ袋に詰めてお金にするとして…手作りの動きやすい服に着替えて、カーテンを紐に変える。

適当な紙に、魔法で火をつけて、ベットに落とす。
パチパチと寝台が火に包まれたのを確認し、部屋の鍵を開け、窓も開ける。
魔女に死をとデカデカと書き、最後に爆発系統の魔法を時差で発動するように設置。

部屋から飛び降りてすぐ、発動。
爆風で少し落ちる速度が速くなったが風魔法でふわりと着地。
城が騒がしくなったので協力者に報酬を届けそのまま消える。





その後…
その王家は悲しみに取り憑かれた。

「なんで私の姫が死なないといけないんだ!」
「俺の…俺のアンヤを誰が殺した!!殺してやる…絶対死よりも苦しい罪を!!」
「アンヤ…アンヤ……」
「アンヤ姉様…いや、いや……」
「うええ!ねーちゃ!うえええええ!」

王はすぐに調査した。毒の件、娘の部屋の爆発の件の2つをだ。
王位継承者の中の紅一点が暗殺されたことはすぐに広まった。毒を飲ませた犯人グループ黒幕は姿をくらまし、爆発を起こして確実に死なせたもう1つの方の情報が一切出てこなかった。

「……」
しかし1つ、時間が経つにつれ、王家の一族の雰囲気が沈み切るその前にある情報が入った。

「……何?今なんといった?」
「ハイウェルツ…どういうことだ。」
「……姫様は生きている可能性があります。」

その報告をしたのはあの協力者だったはずの医者であった。


姫からある相談を持ちかけられていたと。途切れながらも白状した。


「…………姫様は、ここを出て行きたがっていました。早く死んでしまいたいとも。」
「なぜ!」
「……毎日毎日、あの毒の入った食事が出てきていると彼女は知ったのです。この中に犯人がいるかも知れない。しかし自分の兄弟を、家族を疑うなんて酷いことはしなくない。そして日に日に、彼女は追い詰められた顔でした。あなた方王子は生まれてきたことを喜ばれている。でも、私はそうじゃないのかも知れないと。」


「さらに、彼女は知ってしまった。」
「何をだ?」
「……彼女を殺すために、動いている人の存在を。それを知って彼女は一日部屋に引きこもったことがあります。ご存知ですよね。誰も入れることができず、食事も取らなかった日があったでしょう。あまりのショックで寝込んでしまっていたのです。」
「なぜ貴様がそれを知っとる」
「死ぬか出て行くかという選択をしていた姫様には生きててほしく、ある計画に協力していました。」
「じゃあ、あの爆発は…」
「姫様自身が…おそらく。」

「待ってくれ、死体はどう説明する。」
「申し訳ありません…そこまで詳しくは存じません。私の説得に応じて生きることを選んでくれたのだとは思っております。ですが死体について聞いてそうでないのかもと…私は真実をさほど知りえませんが…姫はどこかで生きているのかも知れないとだけでも…」
「ハイウェルツ、お前の処遇は近々発表する…それまで自室で謹慎だ。出かけることは禁じる。」
「…確かに承ります。しかし、姫様が生きているかも知れないという有力なことをもう1つ。」
「申せ」
「…私という協力者が他にいたかはわかりませんが、私に報酬としてか、宝石の類を机に置いて行っていました。…これは王家のものです。受け取ることはできませんのでここに全て置いて行きましょう。」

ハイウェルツが出て行った後、宝石を確認すると、誕生日に与えたネックレスがあった。

「…………父上、アンヤは生きてるのか?」
「…わからぬ…だが、我らがアンヤの気持ちに気づかなかったのも大きな罪だ。捜索隊は出すが…帰ってくるかはわからんな…それほどまでに私は愛娘が傷ついていたことを知らんかったとは……くぅっ!!」

「アンヤが生きてるのならやること1つだ。」
「探さないと」
「姉様が生きてるの?…ここに住むのやなの?僕のこと嫌い…?」
「ねーちゃーおむかえ…」

各王子たちは探す。

自分の目的のために。
しかし彼女は彼らの手がすぐ届くようなところにはすでにいなかった。

彼女は、風の魔法を使い、秘境に飛び、人のいない場所で1人、家を建てていた。

「ふぅ、体動かすの楽しい。」

木を軽々と運び、組み立てて、釘を使わない家を完成させて行く。
彼女の持つ加護はかなりチートの部類であった。

身体能力の高さも加護の中の1つのおかげだった。
この世界に異世界から転生すると、ランダムで運命、身体能力、加護が決まって行く。
彼女の運命の歯車が狂ったのはほぼ加護のせいである。それを決めた神のせいでもあるだろうが…

とにかく彼女がランダムで決められた運命自体がまず、姫として生まれ、毒によって昏睡状態。植物人間として他の兄弟に存在を疎まれ、人知れず死に至りまた新たな命へと転生し消え去るはず予定だった。
しかし、彼女が持つ健康という加護で毒はないことにされる。

そして、兄弟に疎まれるという運命も歪み、兄弟だけでなく家族に溺愛されて行くとなる。だが、彼女自体、その運命というのはなんとなく転生する前に神から聞いていたので、兄や弟からはすでに嫌われているか疎まれていると勘違いをしているのだ。

彼女の身体能力の高さをあげる加護というものは健康に関係しており、敵と対峙し攻撃されたとしても軽いものだとすぐに治る重いものだと少し痛いにしか感じられないしすぐ痛みも引くことだろう。
その脅威とも言える身体能力の異常さについては人と関わることとなる予定の未来まで知ることはない。



小さな家と整った庭、食料は近くを飛んだ時に見た少し大きな猿と、鳥と牛が見つけられた。大きな湖もあった。魚も取れそうだ。
蜘蛛もいたのでどうにかして糸をくれないかな。ベットカバー用や小物用に…果物はあるかな?

近所付き合い(魔物だらけだけど)頑張らないと。

衣食住を整えるのに毎日楽しく暮らした。
整ってきたらいつか街に物を売れるように手芸品だったり、鉱石を見つけて武器や鎧を作ってみたりした。作るにしても道具がないとできないということでどんどん充実して行く私の家周辺。


城という家から抜け出し自由気ままに歳をとってさらに10年。

「……そろそろ小さな街に出てみようかな。」



20歳になったお姫様は自分の人生を更に楽しくするために、一歩踏み出した…

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