彼らのストーリー

RIVER Oikawa

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彼等のメモリー

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「なぁ教えてくれよ」

「教えたって無駄さ」

「あの日以来、お前とも話さなくなっちまったからよ、お前の話を聞きたいんだ」

「話って…何もなかったんだろ?」

「君が来る前の事を聞きたいんだ」

「……分かった話してやる」

 土手の階段で青年二人が空を眺める。

「あの日は、祭りの夜だったな…」

 彼の回想ともう一人の回想が流れる。

 夏休みの中頃のお話だ。

「今日、地区の夏祭り行かん?」

「ごめん、その日丁度塾だ」

「えぇー塾終わるの何時ぐらい?」 

「多分、七時過ぎだと思う」

「だったら来れるね、終わったら会場来てね」

「行けたらね、行けたら」

メッセージアプリで二人は話す。「シン」(祭りを誘った方)は他の友達にも誘いをする。ざっと八人集まるか集まらないかぐらいのグループだった

「シンの奴め、色んな人誘って…」

独り言を言うのは「ゴロウ」塾があって遅れて来ると言った主人公だ。

 時の流れは早く、あっという間に夕方になった。祭りの会場は徐々に明かりを灯しながら夜へと変わって行く。

「おーい、こっちだよ!」

シンに気付いて貰うために必死に手を振る女子達、彼女等もシンや他の友達の人等が誘った

「お待たせー、皆居るかな?」

「シン、ゴロウ君は?」

「後から来るってよ、塾だってさ」

「塾……?一人足りてないけどいっか」

「それよりも、このあと河川敷で花火やるんだってよ、見に行こ!」
 
「ゴロウどうすんだよ」

「そのうちにゴロウ君だって来るはずよ」

「それだといいんだけどね…」

「まぁまぁそんなに仲間思いだからって」

「誘ったのは俺なんだよ」

「誘った?そんなことより屋台見に行こうよ」

「そ、そんなことか?まぁ良いか……」

夕方で薄暗く、明かりも付き始めた。

「うーん、ここは…?」

ペンを握りしめ、数学の式に悩むゴロウ。

「お祭りがあるからって、そのプリント終わらせるまで帰しませんよ」

「先生…」

「あと半ページだけでしょ?頑張りなさいよ」  
 
「はーい」

場面は変わり、シン達となる。

「お前等も来てたのか!」

「お!シンじゃん久しぶり!」

「終業式以来だな、まさかこんなとこで」
 
同級生と偶然遭遇したところだ。シンは友達、知り合いも多く、馴染むのが早い。

「でさ、あのあとどうなった?」

「あぁー、あのあと?失敗したよ」

「トライはしたんだ、スゲェじゃんか」

「学年のマドンナには敵わねぇ」

「その勇気はスゲェぜ」

「その結果、サッカー部の奴が彼女を…」

「そんなこと忘れて、水に流そうぜ」

「いずれは分かるさ、シンもな」

「失恋なんか興味ねぇ、成功するモノしか興味ないよ」

「そう言ってんのも今の内だぞ」

「お前よりも先に付き合ってやるよ」

「上等だな、勝負だ」

二人は高らかに笑う。そんなとこを横目で見る他の女子達の集団はじっと見てくる。

「……屋台回ろうぜ」

「だな、そうしよう」

シン率いる男子グループは屋台の中へと姿を消していった。

「よし、終わったぞ。丸付けも完璧だ」

「終わったんですか?あ、丁度良いところにこの段ボールを外へ出すのをお願いします。」

「これだけ?」

「えぇ、ワークが入った箱ですよ」

「何故、俺が?」

「外へ出るなら持っていって欲しいからですよ、良いじゃないですか」

「分かりましたよ。」

「来週はお盆休みだからね」

「はい、ありがとうございました!」

いそいそと段ボールを片手に階段を下る。外の段ボールなどあるところへ放り投げ、直ぐに自転車に乗り、祭り会場へと向かう

「クソ!予定時刻よりも六分遅れてる!」

 暗い裏の路地道を全力疾走で漕ぐ。電柱からの白い光は次へと次へと通り過ぎる。直角に左へ曲がる角ではペダルと地面が当たる程だった。

「もうそろそろ、移動しようか」

「そうね、皆土手へ行きましょ!」

バラバラとなっていた男子、女子のグループは一つにまとまり、集団で土手へ向かう

「人居るねー、開けた所が良いなぁ」

「そうだね、俺奥まで見てくるよ」

シンは腕時計を見て、残り数分で打ち上げまで迫っていた。奥へ走りに行った男子が手を振っている。そこへ皆で座った。

「あの辺から打ち上げかー」

「小さな町なのに良く花火なんて…」

「俺等の仲も深まると思うぜ」

「ゴロウ居ないけどな!」

「そうだったな!忘れてた!」

「貴方が誘ったんでしょ?」

「だけどよぉ、まだアイツ来ねぇよ」

「そうね、まだ来ないわ」

「アイツのチャリのブレーキの音ですぐわかるけど、まだ来ねぇな」  

「花火まで、もうそろそろだよ!」

「ゴロウもきっと塾の窓から見てるさ」

「……だと良いけど…」

「心配しない方が良いよ、アイツだから」

「そうね、ゴロウ君が居なくなっても私達は友達よね。いつメンでもあるし」

「そんな感じで明るく行こう!」

一方でゴロウは

「あの明かりがお祭り会場か!」

必死にペダルを漕ぐが、長い土手は暗くて先が見えない。

「間に合ってくれ!頼む!」

ちらほらと人の姿も見え始める。きっと花火を観るから土手に来たと解釈した

「人が多くなってきたら速度出しにくいだろうが!ちくしょー」

ゴロウが乗っているのはギア部分のグレードが少し高いクロスバイクで、とても軽くて走りやすいことからスピードも出やすい

「人混み過ぎだろ!」

人を避けながら走行する。しばらくして人が居ない土手へ直ぐに変わっていった。 

「さっきのは何だったんだ?さっきまでは人沢山居たのに…」

先程のよりかは近くなったが、遠くに見える人混みは長かった。

「あれが俺の行きたい祭りの花火だよな、さっきのは他の場所かよ!」
    
気を取り直してペダルをまた踏み出す。

「見えた!多分シン達だ!」

そう思った瞬間、手前にあった石を避けずに自転車はスリップして、身体は土手の下まで転がっていった。
 
「イテテテ…こんなときに…!!」

周りには人影さえ誰も居ない。

「自転車は何処だ?」

自転車は土手の道に投げ出されたようになっており、無残な姿だった。 

「あ!!」

自転車を立て直そうとした時、チェーンが切れていることに気がついた。
  
「嘘だろ!?こんなときに限って…」

チェーンを直すにはそれなりの道具と直すための部品が必要となる。元々塾に行くだけだったのでそのような道具は持っていない。

「仕方ねぇや、歩いて帰ろうかな…」

自転車を押しながらでもシン達が居るであろう、その場所へ向かう。

「遅れちゃったな、なんて言おう?」
 
その瞬間、ヒューという音と共に花火が打ち上がった。

「上がった!急がなきゃ!」

土手の道を花火を眺めながら小走りする。

「ゴロウ君、結局来なかったね」
 
「アイツの事だ、大丈夫だ」 

「あと多分五百メートルだ、ガンバレ!」

自転車を押しながら走るゴロウの姿に通行人から注目を浴びる。

そんな中でも花火は綺麗に上がり、河原や土手を照らす。明るく散った跡の暗くなるところが儚い。

明るく照らされる花火はゴロウの影となる

「居た!待ってろよ!シン!」

直ぐ側へ駆け寄ったが、誰も振り向くことは無く、シン達より約五メートルぐらい離れたところへ自転車を停めて、土手に座る

とても花火は綺麗だった。上がっては消え、上がっては消えて、残った煙はとても幻想的だ。散弾する火の玉はとても迫力があった。夜の街に照らされるこの花火は何故かとても貴重で励ましのように思えた。
最後のクライマックスは、この花火大会の全てを詰め込んだ様な大きくて壮大な花火だった。

今日最後の花火を焼き付け、胸に秘めた。

そっとシンの側へ駆け寄り話そうとした。

「お待たせ!遅くなったね」

「馬鹿野郎!花火終わってから来たって遅すぎだよ」
 
「ゴロウ君、塾近いからっていくら何でも遅いわ」
  
「ゴメン、ゴメン!さぁ屋台行こうよ」
 
「もう帰るだけだよ」
 
「え!?」

「花火始まる前に回ったのよ、貴方が来る前にね」

「お前は遅すぎた。それだけだ」

「そんな…」
 
「私達は貴方と違って電車で帰るから、じゃあね」
 
「また今度な!ゴロウ」
「じゃあねー」「お疲れさん」

「……。」
 
土手を下る皆を見届ける。そのまま、ゴロウは自転車のスタンドを外してサドルに座り込むがチェーンが切れていることを思い出し、自転車を降りて押して歩いて帰る。

「…さて、家へ帰るか…」

自宅へ帰り、玄関で待っていたのは心配そうになっていたお母さんだ。

「どうしたの?何かあった?」

「貴方、塾終わったあと自転車で祭りに行ったの?」

「そうだけど、電車には乗ってないよ」

「なら良かった!ここに居るわけだ」

「でも、友達は電車に乗って帰ったよ」

「え!何ですって!?ゴロウ!テレビ今、見てみなさいよ!」

「え?何でよ、電車ぐらいで…」

靴を脱ぎ、急いでリビングへと向かった。


「嘘…だろ…」

その画面に映っていたのはゴロウにとって衝撃を隠せなかった。

「こ、これ!!友達が乗ってた奴だよ!」

「本当に!?今すぐに連絡しなさい!」 

ゴロウは直ぐ様、シンに電話やメッセージを送ったが、既読や返信が返ってくることはなかった。 

「……」

自分の部屋に籠もり、彼らが無事であることを願う。

「……どうかご無事で……」 

 その数日後、悲報が聞かされ、ゴロウはかけがいの無い友を失った。

 葬式にて、彼等達に告げた。

「皆とあの夜の花火を見れたなら今頃どうなっていたかな、最後に話したのはその理由を話せないまま、罵声や遅かったとか言われるけど、本当はもっと明るく、和やかで、時間にも遅れずに着きかたったよ。まさか、こんな事態になってしまうなんて思っていなかったから……」 

ゴロウの話は数分続いた。目に溜まっていく涙を堪えながらメモの紙をギュッと握り締めていた。

葬式が終わり、空を見上げると空は暗くなっており、何処かであの日と同じ感じの花火の音が聞こえた。いや、聞こえた気がした。

毎年、同じ場所で花火がやって来る。ゴロウは彼らが居た場所で空に広がる花火を観る。ふと隣を見てみても彼達は居ない。居る感じがしただけだった。 

「彼等の為に出来ることはある?」

「シン、君の分まで頑張るよ!」 


    
    
     
     
        ーENDー

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