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多種族都市 ヘイムダル

各々思うところはあるけど俺は元気です多分

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自分の魔力とやらを他人に流用されてしまい、なおかつ自分にロックを掛けるとかいう前代未聞の個人的珍事に巻き込まれてから1時間。
結局封印はどうやら言う通りにうまくいったようで、エレベーターの外に踏み出しても特にドンッ!する事もなく普通に改めて異世界への第一歩を踏み出す事が出来た。

正直嬉しい。エレベーター生活に突入して恨みを買わなくてよくなった事が。

そしててくてくと街中を歩き、今は異世界と言えばココと誰もが力強く高らかに宣言する『冒険者組合』、所謂ギルドと呼ばれるところにやってきている。
…街中について詳しく語れって声が聞こえてきそうだけど、簡単に言うとこのヘイムダルとかいう都市は『建物の役割が分かりやすい異世界仕様になった、ただの伊勢会津市』ってとこかな。
つまりは現代日本と見た目的には一切変わりがないのに、建物の役割が若干違ってる…というか、スーパーが市場で会社ビルが細々とした職業ギルド、各御家庭の場所は一切変わりなくその人のお家になってるらしく、今いるギルドが市役所…という感じだな。技術的な流用が世界的に出来ないようで、見た目はまんまビルでも中身はあからさまな異世界スタイルでもう気が狂う!
ただし、こんな頭おかしい都市の仕様になってるのはここだけ、とは家族のお言葉。なんでも色々理由があるらしいけど別に聞かなくてもええやろ(楽観)

で、俺らご一行が何故ギルドにいるのかと言えば、ご存知俺の種族確認でござる。
異世界と言えど当然ながら人間と呼ばれる種族は存在するんだけど、俺の魔力量は明らかに人間が有していい量を第三宇宙速度でぶっちぎっているそうな。でも異世界エレベーターを介して異世界に来たものの、俺の容姿は異世界仕様にならない…つまり見た目は人間なのに中身はバリバリの異世界モードなのだ!

…この都市と同じだな草生えますわ、って思ったヤツ、俺と握手しよう。手首キュッてやって投げ飛ばしてくれようぞ。



― ― ― ― ―



「……結局『種族不明』って事以外はあまり分からなかった?」

俺がギルドの外見と中身のギャップにうろたえている時、アルさん(父さんカッコカリって言われるのがイヤだそうな)が何とも言えない声色で職員と話をしていた。
ちなみに姉妹は名前が変わんないので今まで通りだけど、母さんはこっちではフェリス姉さんと呼んでくれと言われました。母さんじゃなくて姉さん、ココが重要らしい。さん付けで呼ぶ事にしました。

「えぇ、最新の魔導技術をフル活用して調査をしましたが、どれもこれもエラーばかり吐き出してほとんど役に立ちません。唯一分かった事と言えば、魔力同様に生命力と耐久力、回復力が割と底が見えないぐらい高いという事ぐらいでしょうか」
「つまり…?」
「多分この人に『致命傷』という概念は存在しません。物理的な攻撃力は存じ上げないのでそこは省きますが、端的に言うと『前線で壁になれる超々戦術的火力砲台』です。超魔力による封印魔法すら正常に機能しないというお言葉から判断するに、恐らく…というか本人がその気になれば、一人で世界が取れます」
「えっ、何それは…」

それは俺のセリフです。

歩く災害、歩く魔力タンクと来て、遂には歩く事すらせずに世界を狙えるとか言われる俺の気持ちを考えろ。なんだったらこの家族の中で俺が一番普通とはかけ離れた存在になってんじゃねぇかよぉ。

「まぁでもそれは『封印を完全に解除した場合』であろうと予想しますけどね。久しぶりに見た限りでは、本人自体にそういう面倒ごとを進んでしようなんて気がサラサラ無さそうですし、する理由すら無いでしょうしね」
「…とはいえ、さっきの魔力波動が世界中で観測されてるだろう状況で、全員が全員傍観しようと思う者ばかりじゃない可能性が否定出来ない時点でちょっと怖いところではあるね」
「あぁ…確かに各国ギルドから既に中心地近いこのギルドに多数の質問状が届いてはいます。勝手ながらアルトリア様のご家族の方の魔力が久々の帰郷により放出され、そこに原因不明の共振が発生し増幅され大拡散してしまったと返事をしています」
「いやいや、全然構わないよ。今回の事は誰にも予想がつかなかったからね、私の名前が抑止力になるのであれば是非とも使ってほしい」

…我が事ながら完全に傍観決め込んでたけど、これは確実に何かしらが俺の身の上に降りかかる壮大なフラグでしかないように聞こえてしまうあたり、俺も異世界系小説を読み過ぎたかなと思っちゃうよね。



誰かフラグブレイカーを連れて来い、高給で雇うから。
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