光の巫女

雪桃

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第2章 リースへ

トロイメア女王との謁見

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 扉の部屋を出ると、辺り一面が煌びやかな色彩を放っていた。
 絨毯が一面に敷かれている長い廊下に外の景色が一望できる大きなガラスの窓が並んでいる。
 そこから見える外の景色も千花の住んでいる日本とはかけ離れていた。

「高いし広いし……あれが街ですか? すごい、レンガの道だ。家も西洋っぽいし高いビルもない」

 情報が多すぎて千花は全てを言葉にすることはできない。
 そんな千花の感情を察したのか、邦彦は感動している千花の肩を軽く2回叩く。

「謁見が終わったら街も案内しましょう。今はこちらへ」

 何もかもが新鮮で小さな子どものように色々目移りする千花をこちらに引き戻し、邦彦はそのまま長い廊下を一直線に進んでいく。
 千花と邦彦が赤い絨毯で敷かれた道を進むこと5分。
 一際大きく、厳重に管理されているであろう扉が目の前にそびえ立っている。
 そこにあるだけで圧倒されそうな白い扉には女神のような女性が描かれている。

「ここが謁見の間です。こちらの作法はご存知ではないでしょうし、僕の真似をすれば大丈夫です」
「はあ」

 千花はとりあえず生返事をするしかない。
 呆気に取られている千花を余所に、邦彦は扉に手の平を重ね、口を開く。

「──」

 邦彦はその状態で何かを唱えるように口を動かす。
 だが近くにいる千花でも何も話しているか聞こえない。
 こっそり耳を傾けてみるが、聞こえたのは邦彦が節々に息を吸う音だけだ。

(聞こえちゃいけないのかな。それにしたってどうやって声を出してるんだろう)

 千花がそう疑問に思ったのも束の間。
 邦彦が何かを唱え終わり、手を降ろした瞬間扉が音を立てながら内側にゆっくり開いた。

「!?」

 千花は崩していた体勢を急いで戻し、背筋を伸ばして直立する。
 扉は徐々に部屋の全貌を映し出していく。
 陽の光が扉に反射して千花は眩しさに目を細める。

「入れ」

 千花が目をつぶった瞬間、前から凛とした大人の女性の声が聞こえてきた。
 眩しさに慣れ、薄ら瞼を開けると邦彦が姿勢を崩さずに前へ歩こうとしている。

「あっ」

 その姿に小さく声を上げ、千花は慌てて邦彦の斜め後ろを小走りで追いかける。
 扉を抜けた先には廊下から続く赤い絨毯とガラス張りの大きな窓、そして千花達の目の前には玉座に腰かけている王の姿があった。

「田上さん、会釈を」

 国王の姿に呆けている千花に邦彦は聞こえるか聞こえないかの音量で指示する。
 千花ははっと我に返り、邦彦の見様見真似で片膝をつき、頭を下げた。

「トロイメア女王陛下。光の巫女候補を連れてまいりました」

 邦彦は落ち着いた様子で頭を垂れながら国王に報告する。
 しばらく沈黙が流れた後、国王が口を開いた。

「頭を上げよ」

 邦彦が頭を上げたところを見て千花も目線を上げる。
 その瞬間国王と目が合った。

「……」

 国王は千花の目を見つめている。
 千花は今更になって冷や汗が出てきた。
 品定めされているようなその視線が威圧に感じるのだ。

(あ、安城先生は何も言わなくていいって言ってたし。私は待ってればいいんだよね。でも気まずい)

 何か話して無礼だと突き放されても終わりだ。
 だがもしその何かを要求されているのだとしたらこの時間もまた無礼なのだろうか。

(と、とりあえず見つめ返してみよう)

 千花は混乱しながらも国王の姿を見つめることにした。
 入った時には動転していて気づかなかったが、やはり一国の王というだけあって気品に満ち溢れている。
 よく手入れがされていそうなブロンドの髪を邪魔にならないようにシニヨンに纏め、その髪には陽の光を反射して光っているティアラが飾られている。
 瞳は翡翠のように透き通った緑色、鼻は高く、引き締まった唇。
 服装も華美ではあるが決して見劣りしない体型だ。

「モデルさんだ……」

 どこを取っても非の打ちどころがないその容姿に千花はついうっかり口を滑らせてしまう。

「田上さん」

 千花の声は独り言にしては大きめの音量だ。
 更に広く反響するため国王にも聞こえているのだろう。
 冷静に見据えていた翡翠色の瞳が驚いたように少し開く。
 邦彦の窘めるような声で千花は「あ」と声を出す。

「申し訳ございません陛下。私の配慮不足です。こちらで言い聞かせておきますので罰は」
「光の巫女の候補者よ」
「は、はい」

 邦彦の言葉を遮るように国王は千花を呼ぶ。
 千花は初めからやらかしたことに気づいていたため、背筋を凍らせる。

「名はなんという」
「へ?」
(ナハナントイウ? この国の言葉?)

 千花が緊張から言葉の意味すら把握できていないところを見計らって邦彦が口を出す。

「名前を聞いておられるんです」
「あっ! た、田上千花です! えっと、田上が姓で千花が名前です」
「チカ。モデルとはなんだ」
「えっと、地球の芸能人……スタイルが良くて美人でかっこいい女性のことを言います」

 本来は男性も含まれるし、別に美人でなくてもスタイルが良くなくても人気のモデルは多くいるが、千花が思い浮かべたものだけを伝える。
 国王は千花の説明にしばし考え込む素振りを見せ、口元をわずかに緩める。

「そう。悪い気はしないわね」

 国王の言葉に千花は叱られたわけではないことは理解した。
 ただどう返せばいいかわからず固まる。
 そんな中、国王は片手を出して千花を手招きする。

「田上さん。近くまで歩いてください」
「は、はい」

 千花がまるでロボットのように手足をぎこちなく動かしながら玉座の前まで歩く。
 国王は玉座から立つと千花の目の前に立つ。

「チカ。1つ問う」

 国王は再度口元を引き締めると純粋な千花の瞳を見つめる。

「お前は悪魔を倒せるか」

 国王の言葉に千花は呆気に取られた顔でゆっくり小さく頷く。
 しかし国王は未だ真剣な表情を崩さない。

「私が言っているのは実力ではない。悪魔と対峙しても挫けない度胸だ」

 千花の後ろで待機している邦彦の顔が強張る。
 もしここで千花がやっぱり無理だと言えば、国王が千花を認めなければ、この半年は水の泡になる。
 そんな中、千花はどう返答するか。

「悪魔は容赦なく人間を殺してくる。光の巫女は最も危険な役だ。降りるなら今のうちだが」

 国王の言葉を全て聞き終えた千花は意図がよくわかった。
 邦彦にも何度も言われ、自分でも何度も迷った。
 だからこそ言える。

「絶対降りません」

 千花の力強い否定に国王は僅かに目を見開く。

「私はまだ役に立てるほど力もありません。この半年間、悩みに悩んだ。親や友達と離れることも辛いし、1人で知らない世界に来ることも怖かった。でも約束したんです。救える命は救ってこいって。世界を救って帰ってくるって約束しました。だから私は降りません」

 千花のゆるぎない目をしばらく見つめ、国王は静かに瞼を閉じる。

「そう」

 短く呟くと国王は千花の頭に片手をかざした。
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