光の巫女

雪桃

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第2章 リースへ

だから手伝って

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 千花が逃げ出した後、幸いなことに魔物はシモンに標的を向けていた。

(あいつも、その前の巫女候補もその前も……皆そうだ。トロイメアが平和だからって世界を甘く見て、いざ魔物と対峙したら何もできず周りの人間を頼る)

 千花がいなくなると足首の痛みが更に増す。
 応急処置をして安静にしていれば何ともない痛みだが、ここまで千花を優先にしてきたツケが回ってきた。

(クニヒコもなぜここまで候補者を連れてくる。地球で平和ボケしてるガキがリースを救えるなんてありえない。俺達だって、悪魔に敵わないのに)

 シモンは元々千花に期待なんてしていなかった。
 千花だけではない。
 シモンはこれまで何人もの候補者に魔法を教えてきた。
 それなのに誰一人として魔物に立ち向かわず、逃げて人任せにしていた。

(あいつもそうだ。何が今までとは違うだ。馬鹿みたいに俺の心配をするくせに、いざ魔物が来たらすぐに逃げる。結局光の巫女なんていない。クニヒコが連れてくるのは偽善者ばかりだ)
「ウギィィィィ!!」

 心の中で悪態を吐くシモンに向かって魔物は攻撃を仕掛ける。
 すぐに防壁を作って攻撃をかわすシモンだが、魔法を使う度に足首に激痛が走る。

(1人、また1人と魔法を教えてきた。世界を救ってほしいから真剣に教えてきた。なのに、あいつらは努力を無駄にしてきた)

 魔物は攻撃のスピードを変化させてくる。
 防壁もヒビが入り始める。
 そろそろ戦闘不能にさせなければシモンがやられる。

(信じさせてほしいのに。巫女が現れるって。それが無理なら、俺達に希望はもうない)

 シモンが攻撃をする前に、魔物は防壁を破壊してしまう。
 その衝撃でシモンの体は石壁に打ちつけられる。

「くそがっ」
「ウギィィィィ!!」

 防壁がないシモンは魔物の餌食だ。
 魔物は顔と思われる部分を口のように開き、シモンを飲み込もうと勢いをつけて突進してくる。

(ここまでか)

 シモンが目を閉じ、諦めて喰われようとした。
 しかしその前に何かがシモンと魔物の間に入り、口の中に何かを突き刺した。

「ギィィィィガッ!!」
「……は?」

 シモンが驚いて目を開くと、そこには魔石を縦に差し込まれ、口を閉じられなくなり悲鳴を上げている魔物と、魔石を魔物に突き刺している千花の姿があった。

「お前、何して」
「魔石ってなんでこんなに重いんですか!? 見た目すごい軽そうなのに3本しか持ってこれなかったです!」

 そういう千花の足下には先程見つけたばかりの魔石が2つ置いてあった。
 いや、そんなことよりも言わなければならないことがある。

「馬鹿か! 俺はさっさと逃げろって言ったんだ。どうして言うことを聞かない」
「そのままにしたらシモンさん死ぬでしょ! 持ってこれそうな魔石をさっき見つけたから攻撃に使えるかなって取りに行ってたんです」
「魔法も使えない奴が来たって死人が増えるだけだ!」
「死なずに帰ってくるって約束したから死にません! でも、シモンさんを殺して生き延びるくらいなら戦って死にます!」

 千花の主張にシモンは絶句したまま固まる。
 どう考えてもここで死ぬより1人を犠牲にして逃げた方がいい。
 その方が悲しむ人間も減る。
 今までの巫女候補も全員その考えで逃げてきた。

「魔物ってことは人間以外に魔石も食べるんじゃないですか」
「あ、ああ。主食は魔石だが」
「やっぱり読み通り」

 千花は1人で誇らしげになぜか喜んでいる。
 そのまま口に突き刺さった魔石を激しい音を立てて食している魔物に向かってもう1本魔石を投げる。

「ほらほら! あっちに美味しそうな魔石があるよ。食べないなら私が奪って食べちゃうよ」

 千花は魔物に魔石のありかを叫ぶ。
 魔物は聞こえたかどうかはさておき千花が落とした魔石の方へ寄っていく。

「よし、作戦通り」

 注意が逸れていることをいいことに、千花は最後の魔石を手に取って魔物の体に飛び乗る。
 予想通りではあるが、魔物の体はブヨブヨとしていて決して良い触感ではない。

「こ、これは虫じゃない。何かわからない生き物」

 虫があまり得意ではない千花は鳥肌を立てながら自分に言い聞かせる。
 魔物を触ってみると皮のような掴めるものがある。

「ミミズは脱皮するし、多分そうだと思った」

 千花は安心して魔物の顔めがけて登り始める。
 こんな遊びもあったなと呑気に考えながら千花は不安定な足場を頼りに魔石を貪っている魔物の頂点までやってきた。

「よいしょ。食事中ごめんね。うりゃあ!」

 千花は魔物の額についている赤い魔石に向かって刃となっている青い魔石を振りかざす。
 しかし魔物が動いたため体がぐらつき、赤い魔石は半分しか欠けられなかった。

「ギィィィギャアアア!!」

 魔物は魔石を壊された激痛に叫び声を上げ、大きく体を揺らした。

「わ、わっ!」

 千花は何とか体に残ろうと皮を掴むが、それより振動が強く、振り落とされてしまう。

「チカ!」

 落ちていく千花にシモンが風を使って地面にゆっくり着地させる。

「上手く行くと思ったのに」
「本当に死ぬぞお前!」
「でもあってるでしょう? 動きが鈍くなったような気もするし」

 一度振り落とされた千花だが、遠くから見ると魔物は苦しんでいるように見える。
 少し可哀想な気もするが、こちらも命を狙われたので仕方ない。

「あれならもう1回登れば」
「いや、あれだけ動きが鈍ければ逃げられるだろう。その魔石を放り投げて囮に使え」

 シモンの指示に千花は大人しく使うことにした。
 ちょうど逃げ道の死角になる場所に魔石を放り投げて千花はシモンの腕を担ぎ、その場を離れていった。



 魔石を壊された魔物がそれ以上追ってくることはなく、ゆっくり足を進めていった先に光が見えた。

「やっと出口ですか」
「ああ。ここまで来ればクニヒコも迎えに来れるだろ」

 洞窟から出てすぐに太陽の光が目を刺激してきた。
 千花は目を細めながら側にある硬い土壁にシモンを座らせる。

「応急処置はどうしたら」
「ギルドに帰ったら手当てをしてもらう」

 あくまで千花の助けは借りないシモンに少しムッとする。

「そりゃあ私は頼りないでしょうけど、できることがあれば協力したいです」

 千花の主張にシモンは顔をしかめて言い返す。

「いらねえよ。大体魔法も使えない奴が勘と運だけで魔物に立ち向かうこと自体無謀だ」
「だってシモンさん死にそうだったじゃないですか」
「俺1人死んだって別に」
「よくありません」

 シモンの言葉を遮るように千花は真剣な眼差しで否定する。

「シモンさんが死んだら約束を破ることになります。私が救える人間は全員救うって約束したので、逃げるのは最終手段です」

 千花は真剣に語っているが、今までの巫女候補を見てきたシモンにとっては綺麗事にしか聞こえない。

「1人で全員救えるわけねえだろ」
「1人じゃ無理ですよ。だから手伝ってもらうんです。私にもっと魔法を教えてください」

 千花の言葉にシモンは諦めた表情から一変目を見開いて目の前の彼女を見つめる。
 千花は冗談を言っているようには見えない。

「手伝う?」
「だって私、まだ魔法の1つも使えませんから。巫女候補だけど、1人で悪魔討伐は無理でしょう?」

 さも当たり前と言うように千花は首を少し傾げながらシモンに問う。
 純粋に助けを求めている千花をしばらく見つめ、シモンは口角を徐々に上げていった。

「ああそうか。そういうことかクニヒコ」
「?」

 急に笑い出すシモンに千花は首を傾げた状態のまま目を丸くする。
 その間にもシモンは顔を下に向けながら笑う。

(そりゃそうだ。ただの子どもが世界を救えるわけねえのに巫女だからって期待しすぎるから。逃げて当たり前だな)

 上級の悪魔は光の巫女でなければ対峙できない。
 だが魔物や低級の悪魔なら誰だって対峙できる。
 それを混同していた。

「お前、怖くねえのか? 悪魔は容赦なく殺してくるぞ」
「怖いに決まってます。ていうかそれ、何回も先生に聞かれました。だから耳にタコです。悪魔は怖いけど、傷つけられた人達を救えない方が怖いです」
「ふーん」

 邦彦の言っていた意味がわかった気がする。確かにお気楽主義な少女らしい回答だ。
 それは今までの候補者と変わりない。
 だが。

(開き直って人を頼る巫女候補は初めてだな)

 シモンは張っていた気を一旦緩め、千花と目を合わせる。

「魔法を教えてもいいが、お前が少しでもサボろうとするなら俺は仲間をやめるが?」
「もちろんです。私もシモンさんが訓練を緩めようとするなら教えてもらいませんから」
「いい度胸だなチカ」
「伊達に喧嘩を買いません」

 不敵に笑う千花にシモンも頬を緩める。
 まだ千花が悪魔を根絶できる確証はないが、せめてできる範囲までは付き合う。
 これが最後の綱だから、せめて最後までは信じよう。
 シモンは1つ大きく深呼吸をした。
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