光の巫女

雪桃

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第3章 ウェンザーズ

脱出と合流

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 牢屋から出られたのはその場から更に5分歩き、地上へ続く岩壁に辿り着いた時だった。
 逃亡を防止するためなのかハシゴも階段もなく、クライミングのように岩壁を登らなければならないらしい。

(途中で落ちたら一貫の終わり)

 千花が体力と持久力に尻込みしていると、不意にリョウガが近づいてくる。

「わっ!?」
「口閉じとけ。舌噛むぞ」

 リョウガは一瞬の間に千花を両腕で抱えると、その強い脚力で難なく岩壁を走っていく。
 数秒後にはあれだけ高かった岩壁の頂点にまで立っていた。

「すごい!」
「……獣人ならこれくらいできて当たり前だ」

 千花が素直に褒めるのでリョウガは照れたような表情でぶっきらぼうに答える。
 千花が辺りを見回すと、光が一筋見えた。

「あっちが出口?」
「ああ」

 牢屋から一刻も早く逃れるように2人は一気に出口へ走っていく。
 抜け出た先は、裏庭と言うべきなのか、正面から見た城よりは薄暗い印象がある。
 裏庭と言った方が早いかもしれない。

「ここはまだ被害は受けてないのか」

 リョウガは独り言のように小さく呟く。
 3年も城を追い出されていて、有様が変わっていたことに少なからずショックを受けていたのだろう。

「ここから国王のいる所は近いの?」

 千花の質問にリョウガは1つ頷く。

「この廊下を抜けた先が王座の間だ」
「行こう」

 いち早く魔王を倒すために、千花達は迷いなく正面を突き進んでいく。
 しかし魔王への道はそう甘くなく、城内に入った途端千花でもわかるくらい血の匂いが充満していた。

「……っ」
「リョウガ、大丈夫?」

 この血は確実にリョウガと関係のある者か、そうでなくてもこの国の仲間が流したものだろう。
 その匂いに顔を顰めるリョウガを千花は気にかける。

「あいつっ、親父の体でこんだけ殺しやがって」

 べモスへの恨みを噛みしめながらリョウガは先に進む。
 千花も後を追おうとしたその時だった。

「あっ!」
「シャアアア!」

 巨大なネズミが千花とリョウガの間を突き抜ける。
 標的とされたのは声を出した千花だった。

「チカ!」

 リョウガが叫びながら急いで手を伸ばす。
 ネズミの鋭い歯が千花を上から貫こうとする。
 千花が杖を手にするのと、前歯が千花の皮膚に着くのが重なったその時。

「イグニート!」

 背後から呪文を唱える声が聞こえたかと思うと、千花は何かに抱えられる。
 そのままネズミの歯に体を貫かれることはなく、代わりにネズミの体が大剣によって真っ二つに切り裂かれた。

「……無事か?」
「興人!」

 千花を守りながら戦ったのは、先程猛獣の追撃によってはぐれてしまっていた興人だった。
 どうやら様子から見て重傷は負っていないらしい。

「良かった。興人も無事だったんだ。安城先生達は?」
「俺もあれからずっと1人だった。2人のことだから何とかやっているとは思うが」

 そう言って興人は千花の後ろへ目を向ける。
 千花もその視線を辿ると、リョウガと目が合った。

「……」

 リョウガは憎悪というほど酷いものではないが、少なくとも興人に対して友好的ではない敵意を向けているような表情を浮かべているのが千花はわかった。

「あ、えっと、興人。色々あってリョウガとも仲間になったから。私ももう殺意を向けられてないし」
「……本当か?」

 隣で警戒していた興人に千花は簡単に説明する。
 彼の視線は千花の目というより体を見ている気がする。

「な、何か?」
「いや」

 興人が言葉を濁しながら千花からリョウガに視線を移す。
 リョウガはその視線に、決まり悪そうに後頭部を掻きながらぶっきらぼうに答える。

「地下牢で猛獣と戦ったんだよ。慣れてねえそいつが戦ったからその見た目になってるだけだ」
「猛獣? 本当に大丈夫だったのか」

 リョウガの言葉に目を見張って興人は千花に聞く。

「う、うん?」

 千花も戸惑いに疑問形になりながらも頷いて答える。
 鏡というものがこの城には見当たらなかったので、千花には2人が何を話しているのかわからなかった。
 しかし鏡があれば一瞬で事態が呑み込めただろう。
 何せ最初に侵入した時よりも髪はボサボサに、所々土のような汚れがついており、明らかに疲労が溜まっている顔をしているのだから。
 ただ、半分はリョウガと戦った時についた傷だと言うのは面倒になりそうなので黙っておく。

「んなこたもういいだろ。魔王がいる所はすぐそこだ。お前らの言う仲間と合流するか」

 珍しくリョウガがこちらの意見を聞こうとしている。
 正直その通り救援を待って実力のある人間を増やした方がいいとは思うが。

「いや、ここまで来たらべモスの元へ行こう。これ以上待っていても犠牲者が増えるだけだ」

 興人の言葉に千花も頷く。
 不安がないわけではないが、これ以上魔王を好き勝手させておくわけにはいかない。

「行こうリョウガ。お父さんと、この国を救おう」

 千花の強い意思に一瞬目を見開いたものの、すぐにリョウガも黙って頷く。
 そうして3人は、瘴気が渦巻く魔王の中心部へと足を進めた。
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