61 / 70
第3章 ウェンザーズ
獣人の反撃
しおりを挟む
褪せた色もなく、全てダークブラウンの木材が敷き詰められた城の床は、今は真っ赤な血の海と化していた。
「はあっ……はあっ」
血の海に立っている彼もまた、返り血なのか自分の傷なのかわからないものを全身につけていた。
「これで、10体目……後、何体いるんだよ」
ミラン達を一度退けてから何分経ったのか。
シモンは1人で何十体もの猛獣を相手にしていた。
魔導士の中で強い部類に入るシモンでも、心身ともに疲弊している。
「グルルル」
シモンが何とか倒れないように己を叱咤して立っているというのに、目の前からはとめどなく猛獣が飛び出してくる。
「……くそがっ」
シモンが悪態を吐きながら目の前を飛ぶ猛獣に鋭い岩を突きつける。
必ず絶命できるように的を絞って魔法を撃っているが、集中力も途切れている。
段々攻撃1つでは動きを止められなくなっている。
(そろそろ、限界か)
目眩によって猛獣が2体にも3体にも増える。
もうどれが本当に動いている敵かもわからない。
「ぐっ!」
シモンが正面に気を取られている間に背後からモグラの猛獣に鉤爪で背中を裂かれる。
咄嗟に避けたものの、シモンの背中には大きく3本の傷が走った。
当然傷口から血も溢れ出る。
「……おらぁ!」
シモンが激痛に意識を飛ばす前に、猛獣の心臓目がけて岩を深く刺し込む。
モグラはすぐに息絶えるが、その後ろから狼がシモンの腕を噛みちぎろうとしてくる。
「っ!」
シモンは腕が体から離れる前に狼の腹に蹴りを入れて引き剥がす。
1体倒したらまた1体、更に1体、シモンの目の前から猛獣が絶えることはない。
「頼むから……そろそろ消えてくれ」
意識が朦朧とする中、シモンは弱音を吐く。
猛獣の追撃がいつ終わるのかもわからないまま、たった1人で、死ぬまで対峙しなければならない。
段々絶望を浮かべ始めたシモンの腹を、何かが頭突きしてくる。
もう何の猛獣かもわからないが、今のシモンにとってはどうでもいい。
(もう、死んでも)
虚ろになったシモンの目に、鋭い爪が見える。
その爪で殺してくれるなら、それでいいとシモンが諦めた時、近くで発砲するような乾いた音が響いた。
「シモンさん! 避けてください!」
遠くから聞こえる大声に、反射的にシモンは横に避ける。
その直後、シモンの目の前にいた猛獣は銃弾に撃ち抜かれてその場に倒れた。
「シモンさん!」
「……クニヒコか」
シモンに駆け寄り、急いで邦彦は彼を肩に担ぐ。
シモンはゆっくりと邦彦を見上げる。
「ここまでよく耐えました。後は休んでいてください」
「そうしたいのはやまやまだが、お前1人でこの猛獣の数を相手にできるとは思えないぞ」
邦彦も戦闘技術も優れている。
だが、彼は魔法を使うことはできない。
いくら拳銃の操作ができても弾が切れれば終わりだ。
その意図で話すシモンだが、邦彦の視線はそちらには向いていなかった。
「クニヒコ?」
「いえ、戦えるのは僕だけじゃありませんよ」
何を言っているのか、邦彦の視線の先をシモンが追おうとすると、横から何かが通り過ぎていく。
それは、シモンを傷つけていた猛獣を噛む、獣だった。
その後も続けて様々な獣がシモン達の後ろから猛獣に飛びかかっていく。
「猛獣同士が戦ってる?」
「いいえ。あれは猛獣ではありません」
シモンが呆気に取られている中、邦彦は理解したように不敵に笑う。
「猛獣じゃないならあれは……」
「遅くなってすまない」
シモンが言いかけた言葉に被せるように、背後から低い男の声が聞こえた。
そちらに目をやると、先程一度撤退したミランが立っていた。
「お前……」
「おかげで体勢を立て直すことができた。後は任せてくれ」
ミランの言葉にようやくシモンは理解した。
「こいつら全員獣化したのか」
「任せてもいいんですね。こちらに敵を向かわせることは」
「こちらで必ず足止めをする」
邦彦の念押しのような問いにミランは即答する。
その表情を見つめた後、シモンは無言で頷いた。
「わかりました。では僕はシモンさんを処置してきますので」
「ああ」
邦彦は判断力が鈍っているシモンを引きずるように連れて猛獣から遠く離れる。
「あいつらに任せて大丈夫なのか」
「確証はできませんが、まずはあなたの存命が第一です。それまでは彼らに任せましょう」
邦彦達が姿を消したところでミランは戦闘を繰り広げている猛獣と仲間達を見上げる。
獣化すれば魔法も使えるため、負傷が少ない。
だが、それを続けていればまた先程のように大量の同士討ちが起きる。
「すまない、同胞よ。お前達の無念は、必ず責任を取ってみせる」
そう言うとミランは獣人の姿を解く。
肌色の部分は茶色く毛深い体毛に覆われ、手足の指先は長く、鋭利になる。
顔つきも変わり、丸かった歯は全てを噛みちぎれるような牙に、目は獲物を捕らえる力を持つ獰猛なものに。
ミランは人の姿を変え、巨大な熊の姿をした獣になった。
(我々の国は、我々で救う)
ミランは他の仲間と共に、猛獣の群れへ突進していった。
「はあっ……はあっ」
血の海に立っている彼もまた、返り血なのか自分の傷なのかわからないものを全身につけていた。
「これで、10体目……後、何体いるんだよ」
ミラン達を一度退けてから何分経ったのか。
シモンは1人で何十体もの猛獣を相手にしていた。
魔導士の中で強い部類に入るシモンでも、心身ともに疲弊している。
「グルルル」
シモンが何とか倒れないように己を叱咤して立っているというのに、目の前からはとめどなく猛獣が飛び出してくる。
「……くそがっ」
シモンが悪態を吐きながら目の前を飛ぶ猛獣に鋭い岩を突きつける。
必ず絶命できるように的を絞って魔法を撃っているが、集中力も途切れている。
段々攻撃1つでは動きを止められなくなっている。
(そろそろ、限界か)
目眩によって猛獣が2体にも3体にも増える。
もうどれが本当に動いている敵かもわからない。
「ぐっ!」
シモンが正面に気を取られている間に背後からモグラの猛獣に鉤爪で背中を裂かれる。
咄嗟に避けたものの、シモンの背中には大きく3本の傷が走った。
当然傷口から血も溢れ出る。
「……おらぁ!」
シモンが激痛に意識を飛ばす前に、猛獣の心臓目がけて岩を深く刺し込む。
モグラはすぐに息絶えるが、その後ろから狼がシモンの腕を噛みちぎろうとしてくる。
「っ!」
シモンは腕が体から離れる前に狼の腹に蹴りを入れて引き剥がす。
1体倒したらまた1体、更に1体、シモンの目の前から猛獣が絶えることはない。
「頼むから……そろそろ消えてくれ」
意識が朦朧とする中、シモンは弱音を吐く。
猛獣の追撃がいつ終わるのかもわからないまま、たった1人で、死ぬまで対峙しなければならない。
段々絶望を浮かべ始めたシモンの腹を、何かが頭突きしてくる。
もう何の猛獣かもわからないが、今のシモンにとってはどうでもいい。
(もう、死んでも)
虚ろになったシモンの目に、鋭い爪が見える。
その爪で殺してくれるなら、それでいいとシモンが諦めた時、近くで発砲するような乾いた音が響いた。
「シモンさん! 避けてください!」
遠くから聞こえる大声に、反射的にシモンは横に避ける。
その直後、シモンの目の前にいた猛獣は銃弾に撃ち抜かれてその場に倒れた。
「シモンさん!」
「……クニヒコか」
シモンに駆け寄り、急いで邦彦は彼を肩に担ぐ。
シモンはゆっくりと邦彦を見上げる。
「ここまでよく耐えました。後は休んでいてください」
「そうしたいのはやまやまだが、お前1人でこの猛獣の数を相手にできるとは思えないぞ」
邦彦も戦闘技術も優れている。
だが、彼は魔法を使うことはできない。
いくら拳銃の操作ができても弾が切れれば終わりだ。
その意図で話すシモンだが、邦彦の視線はそちらには向いていなかった。
「クニヒコ?」
「いえ、戦えるのは僕だけじゃありませんよ」
何を言っているのか、邦彦の視線の先をシモンが追おうとすると、横から何かが通り過ぎていく。
それは、シモンを傷つけていた猛獣を噛む、獣だった。
その後も続けて様々な獣がシモン達の後ろから猛獣に飛びかかっていく。
「猛獣同士が戦ってる?」
「いいえ。あれは猛獣ではありません」
シモンが呆気に取られている中、邦彦は理解したように不敵に笑う。
「猛獣じゃないならあれは……」
「遅くなってすまない」
シモンが言いかけた言葉に被せるように、背後から低い男の声が聞こえた。
そちらに目をやると、先程一度撤退したミランが立っていた。
「お前……」
「おかげで体勢を立て直すことができた。後は任せてくれ」
ミランの言葉にようやくシモンは理解した。
「こいつら全員獣化したのか」
「任せてもいいんですね。こちらに敵を向かわせることは」
「こちらで必ず足止めをする」
邦彦の念押しのような問いにミランは即答する。
その表情を見つめた後、シモンは無言で頷いた。
「わかりました。では僕はシモンさんを処置してきますので」
「ああ」
邦彦は判断力が鈍っているシモンを引きずるように連れて猛獣から遠く離れる。
「あいつらに任せて大丈夫なのか」
「確証はできませんが、まずはあなたの存命が第一です。それまでは彼らに任せましょう」
邦彦達が姿を消したところでミランは戦闘を繰り広げている猛獣と仲間達を見上げる。
獣化すれば魔法も使えるため、負傷が少ない。
だが、それを続けていればまた先程のように大量の同士討ちが起きる。
「すまない、同胞よ。お前達の無念は、必ず責任を取ってみせる」
そう言うとミランは獣人の姿を解く。
肌色の部分は茶色く毛深い体毛に覆われ、手足の指先は長く、鋭利になる。
顔つきも変わり、丸かった歯は全てを噛みちぎれるような牙に、目は獲物を捕らえる力を持つ獰猛なものに。
ミランは人の姿を変え、巨大な熊の姿をした獣になった。
(我々の国は、我々で救う)
ミランは他の仲間と共に、猛獣の群れへ突進していった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
サディストの私がM男を多頭飼いした時のお話
トシコ
ファンタジー
素人の女王様である私がマゾの男性を飼うのはリスクもありますが、生活に余裕の出来た私には癒しの空間でした。結婚しないで管理職になった女性は周りから見る目も厳しく、私は自分だけの城を作りまあした。そこで私とM男の週末の生活を祖紹介します。半分はノンフィクション、そして半分はフィクションです。
迎えに行ったら、すでに君は行方知れずになっていた
月山 歩
恋愛
孤児院で育った二人は彼が貴族の息子であることから、引き取られ離れ離れになる。好きだから、一緒に住むために準備を整え、迎えに行くと、少女はもういなくなっていた。事故に合い、行方知れずに。そして、時をかけて二人は再び巡り会う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる