「水に溶ける恋」花と読み解く物語

田丸哲二

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白い花束の依頼完了

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「これがお前が毒を入れた容器だ。スペアを用意したのが役立った。僕が必ず白い粉を使うと知ってたんだろうが、別に色なんて関係ないのさ」

「やだ、洋介ったら。こっちまで騙されたわ」

 姉がそう言って、望美とハイタッチをしている。依頼主の星川鈴美は不安そうにソファに倒れて気を失った麻衣を抱き締めたが、これで依頼主の「贈られたユリの花束」の案件は完了した。

「マドンナリリーの花の想いは、悪魔に騙されて闇に堕ちた天使を目覚めさせる事でした。誘惑の魔法は解け、お嬢様の心から偽王子は消え去った」

 洋介は棚の花々の観客と、テーブルの上にある白いユリの花束にも感謝を込めてそう告げた。その瞳には花たちが喜び、拍手で揺れているのが見えたが、その正義感と優しさを知る者は他にいない。

 しかしこの時、火の錬金術師が暴挙に出た。手に持っていた黒い革張りの小さなケースを開け、指で象牙と火薬の粉を摘んで空中に振り撒くと、一瞬のうちに赤珊瑚のライターを点火させて火を放った。

「それで勝利したつもりか?水の錬金術師よ。この燃え上がる炎を消せるか?」

 幻想であるが全員がドラゴンが出現して、周辺に炎を吐き出したかに見えた。吐き出された火が、四方の壁に燃え移り炎が湧き上がる。


「チッ」

 洋介が舌打ちをして棚の花々を守ろうと駆け寄ると、姉と望美が消火器を探しに部屋を出た。

 星川鈴美は娘を抱いて部屋から逃れようとする。ドラゴンがそれを追ったが、炎で襲われる寸前に通路へ逃れた。

 火の錬金術師は前もって火薬の粉を室内の壁に仕掛けていたのだ。最悪の事態を想定して逃げ道も作っておいたのか?

「水の錬金術師よ。次の戦いでお前の幸せを灰にし、完膚なきまでに叩き潰して完全に葬ってやるぜ」

 英人は洋介がテーブルの上に置いた毒入りの容器を奪い、窓を全開にしてこっちを睨み返すと、炎の瞳で怒りと憎しみ吐き捨てた。

 ドラゴンの幻は火の錬金術師の身体へ戻り、窓から一緒に外へ飛び出して曲芸師のように屋根を伝って庭に着地した。

 窓のカーテンにも火が燃え移り、その炎の枠の向こうにパトカーが走って来るのが見えたが、モスグリーンの高級車に乗り込んだ英人は堂々とメイン通りを走り去って行く。

「洋介、気をつけて」

 姉が消火器を手にして壁の火を消しながら花々の花瓶を避難させるのを手伝い、望美はお手伝いさんも呼んでバケツの水をリレーして壁にかけている。

 やがて火が下火になり、洋介は最後にテーブルの上の道具箱と萎れた白い花束を持って、煙の燻《くすぶ》る水浸しの部屋で窓の外を眺めて「卑劣な魔術師との対決はひとまず終わった……」と安堵した。

 水は火を鎮めるが、火は水を沸き立てて消し去るのが好きらしい。でも、水蒸気は雲になり、雨となって地に落ち草花に恵みを与える。

『僕には真の友人がいる。君に負ける気はしないよ……』



[第二話、マドンナリリーの純潔。完了]

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