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第四章・人間界での戦い
人間界の汚染
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アルダリと国立図書館で会う予定の中山教授は、近所の知り合いのメッセンジャーが家の玄関前に現れると、封書に入れた科学雑誌を渡してAM11時までに届けるように頼んだ。
「国立図書館へ行き、アルダリという老人に届けてくれ。もし私が行けない場合を考えて、これを君に託したい」
ある意味保険であるが、教授は逢えない場合の事態も想定していた。この若者なら信用できる。
「中山教授。TVで人間界の危機を提言してるの観ましたよ」
人間界も異世界とは違った形で腐食が始まり、海や川や大地が汚染され、その毒素が人間にまで蔓延していると教授は考察した。
TOKYOは暗黒の都市になり、人間に混じって魔女が狼族を引き連れていても不思議ではないと、都市伝説のようにメッセンジャーの若者に話したのが現実化している。
(それを中山教授が知るのは数十分後であるが、異族の友人を持つ教授にしてみれば当然の出来事であった。)
「俺もそう思います。みんな実態に気づいてない。政治の腐敗は酷いし、悪徳警官が増えてないですか?」
「その通りだ。この世界は腐りつつある。信用できる人間は激変した」
中山教授は身の危険を感じ警察に連絡した事もあったのだが、賄賂を請求され、自分の身は自分で守るしかないと実感した。
「頼んだぞ。これは人間界の危機を知らせる重要な任務だ」
「了解しました。アリダリって人に絶対渡します」
中山教授は『人ではないが……』と微笑み、若者がロードバイクで通りを軽快に走り出すのを見送った。
そしてその数十分後、家を出る直前に通りにフォルクスワーゲンが止まるのを二階の窓から見て不審に思い、ベランダに出て隣の屋根へ飛び移って逃げ出した。
ファラが帽子を押さえてリードを掴み、ウルガンに引っ張られて、遠ざかる通行人に時々軽く手を上げて微笑みかける。
「そんな怖がらなくていいのよ。可愛いペットなんだから」
「おい、ココだ」
ウルガンが唸って柵の入り口で立ち止まり、ファラは玄関先を眺めてからドアのインターホンを押した。中山慎也の表札があり、ポストには新聞が入っている。
「あら?留守かしら」
そう呟いて庭に入って窓から中を覗き、ドアのガラスを壊して内鍵を開けて室内へ入る。
すぐに防犯ブザーが鳴るが、ファラは怒って壁から外してぶち壊し、天井の防犯カメラは手の平の窪みから炎を噴き出して黒焦げにした。
(ファラは可燃性の鉱物を体内に有している魔女であり、ドラゴンの火力はないが火遊び程度の威力はある。)
ウルガンは床の匂いを嗅ぎ、室内を調べてから二階へと駆け上がった。
「中山教授~。どこですか?」
ファラは特に慌てる事もなく、ウルガンを追って二階へ行き、窓の開いた部屋で外を眺めているウルガンに話しかけた。
「やっぱ、逃げたんだ?」
「ああ、数分前だろ」
ベランダへ出るとファラが首輪からリードを外してやり、ウルガンに屋根を走らせて追跡させる。
「しょうがないわね」
そう呟いてスカートの裾を捲り上げ、美脚を見せて颯爽と屋根に飛び移る。
「見ちゃダメです~。お恥ずかしい」
防犯ブザーと騒がしい音に付近の住民が窓から顔を出したが、奇妙な大型犬とスカートから太腿と鉄の下着をチラつかせる美女を目にしてすぐに引っ込んだ。
都内では暴力事件が増え、警察も役立たずで正義は失われている。関わらないのが一番安全だった。
そしてウルガンが匂いの痕跡をたどり、三角の耳を立てて聴覚も駆使し、すぐに逃走する中山教授を発見した。
「いたぞ」
ウルガンが一際高い屋敷の上に立ち、振り返って屋根を飛び移るファラにそう告げた。数十軒先だが、路地に降り立って公園の方へ走って行く中山教授の姿が見えた。
「了解した。捕らえろ」
屋根瓦や樋を壊しながらウルガンがジャンプして追いかけ、ファラもスカートを靡かせて超人的な身体能力で屋根の上を駆ける。
中山教授は鞄を抱えて通りを走り、振り返ってテラスや屋根を飛び回って猛スピードで追って来る者に気付いた。
「どう見ても、人間じゃない」
公園の小道を逃走しながら、教授は捕まる事を想定してアルダリに運命を託す。もしかしたら、魔女の存在に気付いて助けに来てくれるかもしれない。
教授はマンダー家の四姉妹が人間界の汚染に関係していると疑惑を持ち、密かに研究していたのである。
芝生の中へ入って必死に走り、噴水の広場を通り過ぎて銅像の背後に隠れた。息を整えて気配を消し、鞄から紙飛行機の紙片と炎のペンを取り出す。
「アルダリ、頼んだぞ」
紙片のシワを伸ばして『help』と走り書きし、ペン先を親指に刺して血の滴を垂らす。
すると一瞬で火花が吹き出して燃え上がり、紙片の灰が空中に飛び散った。
しかしその時、ウルガンとファラは噴水の付近まで迫り、匂いと発火音で居場所がバレる。
「何してる?」
一瞬、教授の瞳に炎の『help』の文字が映ったが、銅像を回り込んでウルガンが牙を剥いて顔を出し、少し遅れてファラが銅像の上から座り込んでいる中山教授を覗き込む。
「焦げ臭いわね」
「いえ、ちょっと一服……」
煙草も吸わないくせに、そう言ってみたが容赦なくファラに顔面を鞭で打たれ、うつ伏せに倒れ込んだところをウルガンがのしかかって頭を足で押さえ付けた。
「国立図書館へ行き、アルダリという老人に届けてくれ。もし私が行けない場合を考えて、これを君に託したい」
ある意味保険であるが、教授は逢えない場合の事態も想定していた。この若者なら信用できる。
「中山教授。TVで人間界の危機を提言してるの観ましたよ」
人間界も異世界とは違った形で腐食が始まり、海や川や大地が汚染され、その毒素が人間にまで蔓延していると教授は考察した。
TOKYOは暗黒の都市になり、人間に混じって魔女が狼族を引き連れていても不思議ではないと、都市伝説のようにメッセンジャーの若者に話したのが現実化している。
(それを中山教授が知るのは数十分後であるが、異族の友人を持つ教授にしてみれば当然の出来事であった。)
「俺もそう思います。みんな実態に気づいてない。政治の腐敗は酷いし、悪徳警官が増えてないですか?」
「その通りだ。この世界は腐りつつある。信用できる人間は激変した」
中山教授は身の危険を感じ警察に連絡した事もあったのだが、賄賂を請求され、自分の身は自分で守るしかないと実感した。
「頼んだぞ。これは人間界の危機を知らせる重要な任務だ」
「了解しました。アリダリって人に絶対渡します」
中山教授は『人ではないが……』と微笑み、若者がロードバイクで通りを軽快に走り出すのを見送った。
そしてその数十分後、家を出る直前に通りにフォルクスワーゲンが止まるのを二階の窓から見て不審に思い、ベランダに出て隣の屋根へ飛び移って逃げ出した。
ファラが帽子を押さえてリードを掴み、ウルガンに引っ張られて、遠ざかる通行人に時々軽く手を上げて微笑みかける。
「そんな怖がらなくていいのよ。可愛いペットなんだから」
「おい、ココだ」
ウルガンが唸って柵の入り口で立ち止まり、ファラは玄関先を眺めてからドアのインターホンを押した。中山慎也の表札があり、ポストには新聞が入っている。
「あら?留守かしら」
そう呟いて庭に入って窓から中を覗き、ドアのガラスを壊して内鍵を開けて室内へ入る。
すぐに防犯ブザーが鳴るが、ファラは怒って壁から外してぶち壊し、天井の防犯カメラは手の平の窪みから炎を噴き出して黒焦げにした。
(ファラは可燃性の鉱物を体内に有している魔女であり、ドラゴンの火力はないが火遊び程度の威力はある。)
ウルガンは床の匂いを嗅ぎ、室内を調べてから二階へと駆け上がった。
「中山教授~。どこですか?」
ファラは特に慌てる事もなく、ウルガンを追って二階へ行き、窓の開いた部屋で外を眺めているウルガンに話しかけた。
「やっぱ、逃げたんだ?」
「ああ、数分前だろ」
ベランダへ出るとファラが首輪からリードを外してやり、ウルガンに屋根を走らせて追跡させる。
「しょうがないわね」
そう呟いてスカートの裾を捲り上げ、美脚を見せて颯爽と屋根に飛び移る。
「見ちゃダメです~。お恥ずかしい」
防犯ブザーと騒がしい音に付近の住民が窓から顔を出したが、奇妙な大型犬とスカートから太腿と鉄の下着をチラつかせる美女を目にしてすぐに引っ込んだ。
都内では暴力事件が増え、警察も役立たずで正義は失われている。関わらないのが一番安全だった。
そしてウルガンが匂いの痕跡をたどり、三角の耳を立てて聴覚も駆使し、すぐに逃走する中山教授を発見した。
「いたぞ」
ウルガンが一際高い屋敷の上に立ち、振り返って屋根を飛び移るファラにそう告げた。数十軒先だが、路地に降り立って公園の方へ走って行く中山教授の姿が見えた。
「了解した。捕らえろ」
屋根瓦や樋を壊しながらウルガンがジャンプして追いかけ、ファラもスカートを靡かせて超人的な身体能力で屋根の上を駆ける。
中山教授は鞄を抱えて通りを走り、振り返ってテラスや屋根を飛び回って猛スピードで追って来る者に気付いた。
「どう見ても、人間じゃない」
公園の小道を逃走しながら、教授は捕まる事を想定してアルダリに運命を託す。もしかしたら、魔女の存在に気付いて助けに来てくれるかもしれない。
教授はマンダー家の四姉妹が人間界の汚染に関係していると疑惑を持ち、密かに研究していたのである。
芝生の中へ入って必死に走り、噴水の広場を通り過ぎて銅像の背後に隠れた。息を整えて気配を消し、鞄から紙飛行機の紙片と炎のペンを取り出す。
「アルダリ、頼んだぞ」
紙片のシワを伸ばして『help』と走り書きし、ペン先を親指に刺して血の滴を垂らす。
すると一瞬で火花が吹き出して燃え上がり、紙片の灰が空中に飛び散った。
しかしその時、ウルガンとファラは噴水の付近まで迫り、匂いと発火音で居場所がバレる。
「何してる?」
一瞬、教授の瞳に炎の『help』の文字が映ったが、銅像を回り込んでウルガンが牙を剥いて顔を出し、少し遅れてファラが銅像の上から座り込んでいる中山教授を覗き込む。
「焦げ臭いわね」
「いえ、ちょっと一服……」
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