愛と禁欲のサーガ・腐食の魔法[第一部・人間界都市編]本格的異世界LOVEバトル・ファンタジー

田丸哲二

文字の大きさ
38 / 75
第四章・人間界での戦い

人間界の汚染

しおりを挟む
 アルダリと国立図書館で会う予定の中山教授は、近所の知り合いのメッセンジャーが家の玄関前に現れると、封書に入れた科学雑誌を渡してAM11時までに届けるように頼んだ。

「国立図書館へ行き、アルダリという老人に届けてくれ。もし私が行けない場合を考えて、これを君に託したい」

 ある意味保険であるが、教授は逢えない場合の事態も想定していた。この若者なら信用できる。

「中山教授。TVで人間界の危機を提言してるの観ましたよ」

 人間界も異世界とは違った形で腐食が始まり、海や川や大地が汚染され、その毒素が人間にまで蔓延していると教授は考察した。

 TOKYOは暗黒の都市になり、人間に混じって魔女が狼族を引き連れていても不思議ではないと、都市伝説のようにメッセンジャーの若者に話したのが現実化している。

(それを中山教授が知るのは数十分後であるが、異族の友人を持つ教授にしてみれば当然の出来事であった。)

「俺もそう思います。みんな実態に気づいてない。政治の腐敗は酷いし、悪徳警官が増えてないですか?」

「その通りだ。この世界は腐りつつある。信用できる人間は激変した」

 中山教授は身の危険を感じ警察に連絡した事もあったのだが、賄賂を請求され、自分の身は自分で守るしかないと実感した。

「頼んだぞ。これは人間界の危機を知らせる重要な任務だ」

「了解しました。アリダリって人に絶対渡します」

 中山教授は『人ではないが……』と微笑み、若者がロードバイクで通りを軽快に走り出すのを見送った。


 そしてその数十分後、家を出る直前に通りにフォルクスワーゲンが止まるのを二階の窓から見て不審に思い、ベランダに出て隣の屋根へ飛び移って逃げ出した。

 ファラが帽子を押さえてリードを掴み、ウルガンに引っ張られて、遠ざかる通行人に時々軽く手を上げて微笑みかける。

「そんな怖がらなくていいのよ。可愛いペットなんだから」

「おい、ココだ」

 ウルガンが唸って柵の入り口で立ち止まり、ファラは玄関先を眺めてからドアのインターホンを押した。中山慎也の表札があり、ポストには新聞が入っている。

「あら?留守かしら」

 そう呟いて庭に入って窓から中を覗き、ドアのガラスを壊して内鍵を開けて室内へ入る。

 すぐに防犯ブザーが鳴るが、ファラは怒って壁から外してぶち壊し、天井の防犯カメラは手の平の窪みから炎を噴き出して黒焦げにした。

(ファラは可燃性の鉱物を体内に有している魔女であり、ドラゴンの火力はないが火遊び程度の威力はある。)

 ウルガンは床の匂いを嗅ぎ、室内を調べてから二階へと駆け上がった。

「中山教授~。どこですか?」

 ファラは特に慌てる事もなく、ウルガンを追って二階へ行き、窓の開いた部屋で外を眺めているウルガンに話しかけた。

「やっぱ、逃げたんだ?」

「ああ、数分前だろ」

 ベランダへ出るとファラが首輪からリードを外してやり、ウルガンに屋根を走らせて追跡させる。

「しょうがないわね」

 そう呟いてスカートの裾を捲り上げ、美脚を見せて颯爽と屋根に飛び移る。

「見ちゃダメです~。お恥ずかしい」

 防犯ブザーと騒がしい音に付近の住民が窓から顔を出したが、奇妙な大型犬とスカートから太腿と鉄の下着をチラつかせる美女を目にしてすぐに引っ込んだ。

 都内では暴力事件が増え、警察も役立たずで正義は失われている。関わらないのが一番安全だった。

 そしてウルガンが匂いの痕跡をたどり、三角の耳を立てて聴覚も駆使し、すぐに逃走する中山教授を発見した。

「いたぞ」

 ウルガンが一際高い屋敷の上に立ち、振り返って屋根を飛び移るファラにそう告げた。数十軒先だが、路地に降り立って公園の方へ走って行く中山教授の姿が見えた。


「了解した。捕らえろ」

 屋根瓦や樋を壊しながらウルガンがジャンプして追いかけ、ファラもスカートを靡かせて超人的な身体能力で屋根の上を駆ける。


 中山教授は鞄を抱えて通りを走り、振り返ってテラスや屋根を飛び回って猛スピードで追って来る者に気付いた。

「どう見ても、人間じゃない」

 公園の小道を逃走しながら、教授は捕まる事を想定してアルダリに運命を託す。もしかしたら、魔女の存在に気付いて助けに来てくれるかもしれない。

 教授はマンダー家の四姉妹が人間界の汚染に関係していると疑惑を持ち、密かに研究していたのである。

 芝生の中へ入って必死に走り、噴水の広場を通り過ぎて銅像の背後に隠れた。息を整えて気配を消し、鞄から紙飛行機の紙片と炎のペンを取り出す。

「アルダリ、頼んだぞ」

 紙片のシワを伸ばして『help』と走り書きし、ペン先を親指に刺して血の滴を垂らす。

 すると一瞬で火花が吹き出して燃え上がり、紙片の灰が空中に飛び散った。

 しかしその時、ウルガンとファラは噴水の付近まで迫り、匂いと発火音で居場所がバレる。

「何してる?」

 一瞬、教授の瞳に炎の『help』の文字が映ったが、銅像を回り込んでウルガンが牙を剥いて顔を出し、少し遅れてファラが銅像の上から座り込んでいる中山教授を覗き込む。

「焦げ臭いわね」

「いえ、ちょっと一服……」

 煙草も吸わないくせに、そう言ってみたが容赦なくファラに顔面を鞭で打たれ、うつ伏せに倒れ込んだところをウルガンがのしかかって頭を足で押さえ付けた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。  彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。  彼女は思った。 (今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。  今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...