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第ニ章・ゴーストの正体
暗黒の書物『禁断の書』
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江国則子のスマホがシャットダウンと再起動を繰り返し、見慣れないサイトにアクセスしてホーム画面に暗黒の壁紙が出現した。
『な、なんなの?』
瞼の裏に無数の星が流れ落ち、意識は幻想的な宇宙空間に移送され、スマホの液晶画面の中に放り込まれたように同じ映像を見せられている。
宇宙の中央に黒い本の表紙が浮かび上がり、高速で回転してから緩やかに向きを変えると、飛行船のように星空を滑空し、こちらに接近して画面にズームアップされ、本のタイトルが映し出された。
『禁断の書?』
江国は神秘的な世界へ入り込み、その書物に興味を惹かれたが、同時に恐怖心も感じて伸ばした手を引っ込め、暫し心を落ち着かせて深呼吸を繰り返していると、瞼の映像はフェードアウトし、身体の痺れも薄れて現実の世界へ戻る事ができた。
『幻覚だ。こんなのあり得ない……』
教員室を眺め回し、手に持ったスマホを机の上に放り投げたが、普段のホーム画面に戻っている。江国は首を傾げて、恐る恐る指で摘んで机の引き出しの中に入れ、手鏡を出して乱れた髪をセットし、衣服も整えて老眼鏡を掛け直し、教師たちが戻って来るのを冷静を装って待ち受けた。
『まさか、お茶に変なもの入れてないだろうな?』
疑い深い江国は湯呑を持って匂いを嗅ぎ、味を確認して大丈夫だと頷いている。
情報処理室で修理を終えたサポート会社の技術者から、新しいネットワーク環境の説明を教師達が受けている。景子は書類を渡され、一番前に立って耳を傾けた。
「高速になりますが、テレワークも増えてセキュリティ対策が不可欠です。情報漏えいやマルウェア感染、通信内容の盗聴といったリスクが高まりますので、十分注意してください」
「ウイルスに感染したのでしょうか?」
ふと気になって景子が手を挙げて質問し、返答を聞いて教師達は安心したが、景子は逆に不安が募った。
「いえ、電波障害によるルーターの故障かと思われます」
教員室へ戻る廊下を歩きながら、景子は夏目先生に過去の噂を憶えているか聞いてみた。
「夏目先生。一年程前、学校に幽霊が出るって噂ありましたよね?」
「ええ、私も見た事がありますよ」
「えっ、そうなんですか?」
「と言っても、生徒のいたずらでした。連が友だちと幽霊ごっこをやってたんです」
夏目先生は教員室に近付くと、ドアの小さなガラス窓から江国先生が席に着いているのを見て声を潜めた。
「江国先生が連をこっぴどく叱り、それから幽霊騒ぎは無くなりました」
そう言えば、連は江国先生が居ない時を見計らって教員室に入って来る。連も江国先生だけは苦手なんだと苦笑いし、景子は夏目先生の後から教員室へ入った。
その時、江国は席にきっちりと座って教師達を迎えたが、机の引き出しを少し開けて、スマホの画面が暗黒の壁紙になっているのを伏せ目がちに見てすぐに閉める。
『ゲッ、幻覚じゃない』
『な、なんなの?』
瞼の裏に無数の星が流れ落ち、意識は幻想的な宇宙空間に移送され、スマホの液晶画面の中に放り込まれたように同じ映像を見せられている。
宇宙の中央に黒い本の表紙が浮かび上がり、高速で回転してから緩やかに向きを変えると、飛行船のように星空を滑空し、こちらに接近して画面にズームアップされ、本のタイトルが映し出された。
『禁断の書?』
江国は神秘的な世界へ入り込み、その書物に興味を惹かれたが、同時に恐怖心も感じて伸ばした手を引っ込め、暫し心を落ち着かせて深呼吸を繰り返していると、瞼の映像はフェードアウトし、身体の痺れも薄れて現実の世界へ戻る事ができた。
『幻覚だ。こんなのあり得ない……』
教員室を眺め回し、手に持ったスマホを机の上に放り投げたが、普段のホーム画面に戻っている。江国は首を傾げて、恐る恐る指で摘んで机の引き出しの中に入れ、手鏡を出して乱れた髪をセットし、衣服も整えて老眼鏡を掛け直し、教師たちが戻って来るのを冷静を装って待ち受けた。
『まさか、お茶に変なもの入れてないだろうな?』
疑い深い江国は湯呑を持って匂いを嗅ぎ、味を確認して大丈夫だと頷いている。
情報処理室で修理を終えたサポート会社の技術者から、新しいネットワーク環境の説明を教師達が受けている。景子は書類を渡され、一番前に立って耳を傾けた。
「高速になりますが、テレワークも増えてセキュリティ対策が不可欠です。情報漏えいやマルウェア感染、通信内容の盗聴といったリスクが高まりますので、十分注意してください」
「ウイルスに感染したのでしょうか?」
ふと気になって景子が手を挙げて質問し、返答を聞いて教師達は安心したが、景子は逆に不安が募った。
「いえ、電波障害によるルーターの故障かと思われます」
教員室へ戻る廊下を歩きながら、景子は夏目先生に過去の噂を憶えているか聞いてみた。
「夏目先生。一年程前、学校に幽霊が出るって噂ありましたよね?」
「ええ、私も見た事がありますよ」
「えっ、そうなんですか?」
「と言っても、生徒のいたずらでした。連が友だちと幽霊ごっこをやってたんです」
夏目先生は教員室に近付くと、ドアの小さなガラス窓から江国先生が席に着いているのを見て声を潜めた。
「江国先生が連をこっぴどく叱り、それから幽霊騒ぎは無くなりました」
そう言えば、連は江国先生が居ない時を見計らって教員室に入って来る。連も江国先生だけは苦手なんだと苦笑いし、景子は夏目先生の後から教員室へ入った。
その時、江国は席にきっちりと座って教師達を迎えたが、机の引き出しを少し開けて、スマホの画面が暗黒の壁紙になっているのを伏せ目がちに見てすぐに閉める。
『ゲッ、幻覚じゃない』
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