ゴーストに恋して

田丸哲二

文字の大きさ
10 / 84
第ニ章・ゴーストの正体

暗黒の書物『禁断の書』

しおりを挟む
 江国則子のスマホがシャットダウンと再起動を繰り返し、見慣れないサイトにアクセスしてホーム画面に暗黒の壁紙が出現した。

『な、なんなの?』

 瞼の裏に無数の星が流れ落ち、意識は幻想的な宇宙空間に移送され、スマホの液晶画面の中に放り込まれたように同じ映像を見せられている。

 宇宙の中央に黒い本の表紙が浮かび上がり、高速で回転してから緩やかに向きを変えると、飛行船のように星空を滑空し、こちらに接近して画面にズームアップされ、本のタイトルが映し出された。

『禁断の書?』

 江国は神秘的な世界へ入り込み、その書物に興味を惹かれたが、同時に恐怖心も感じて伸ばした手を引っ込め、暫し心を落ち着かせて深呼吸を繰り返していると、瞼の映像はフェードアウトし、身体の痺れも薄れて現実の世界へ戻る事ができた。

『幻覚だ。こんなのあり得ない……』

 教員室を眺め回し、手に持ったスマホを机の上に放り投げたが、普段のホーム画面に戻っている。江国は首を傾げて、恐る恐る指で摘んで机の引き出しの中に入れ、手鏡を出して乱れた髪をセットし、衣服も整えて老眼鏡を掛け直し、教師たちが戻って来るのを冷静を装って待ち受けた。

『まさか、お茶に変なもの入れてないだろうな?』

 疑い深い江国は湯呑を持って匂いを嗅ぎ、味を確認して大丈夫だと頷いている。

 情報処理室で修理を終えたサポート会社の技術者から、新しいネットワーク環境の説明を教師達が受けている。景子は書類を渡され、一番前に立って耳を傾けた。

「高速になりますが、テレワークも増えてセキュリティ対策が不可欠です。情報漏えいやマルウェア感染、通信内容の盗聴といったリスクが高まりますので、十分注意してください」

「ウイルスに感染したのでしょうか?」

 ふと気になって景子が手を挙げて質問し、返答を聞いて教師達は安心したが、景子は逆に不安が募った。

「いえ、電波障害によるルーターの故障かと思われます」

 教員室へ戻る廊下を歩きながら、景子は夏目先生に過去の噂を憶えているか聞いてみた。

「夏目先生。一年程前、学校に幽霊が出るって噂ありましたよね?」

「ええ、私も見た事がありますよ」

「えっ、そうなんですか?」

「と言っても、生徒のいたずらでした。連が友だちと幽霊ごっこをやってたんです」

 夏目先生は教員室に近付くと、ドアの小さなガラス窓から江国先生が席に着いているのを見て声を潜めた。

「江国先生が連をこっぴどく叱り、それから幽霊騒ぎは無くなりました」

 そう言えば、連は江国先生が居ない時を見計らって教員室に入って来る。連も江国先生だけは苦手なんだと苦笑いし、景子は夏目先生の後から教員室へ入った。

 その時、江国は席にきっちりと座って教師達を迎えたが、机の引き出しを少し開けて、スマホの画面が暗黒の壁紙になっているのを伏せ目がちに見てすぐに閉める。

『ゲッ、幻覚じゃない』
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

処理中です...