6 / 6
第六楽章・フィナーレ
しおりを挟む
猫が鳴かなくなって地下鉄でのレイロクは終了となり、涼子の家に猫たちと集まって組曲の練習を重ねる日々が数日間続き、遂に涼子と友太は三ツ沢上町駅の広場で演奏することになった。
しかし二人とも自信がないので音源データをメインとし、涼子がキーボード伴奏、友太がギターとカホンという打楽器を使って生演奏に一味加える。
「大丈夫?緊張してない?」
友太にそう言った涼子も緊張感で水を飲んで、開始時間ギリギリまで練習し、家を出る前にお揃いの白いシャツに黒いジャケットに着替えた。
そして町中から野良猫が集まり、二人にしか見えないが猫の亡霊の群れも勢揃いし、それらを引き連れて涼子と友太が楽器と機材を手押車に乗せて駅前の広場へ行進する。
顔見知りの駅員にも手伝ってもらい、音響機器のセッティングを済ませると、街の人々も何事かと集まって来た。
野良猫の集合に驚く通行人が足を止めて、駅前のステージを囲み始め、パラボラ集音マイクはセンターに立て、涼子と友太が音合わせを終えると、猫の群れが二人の前に整列した。
もちろん、亡霊の猫は涼子と友太にしか見えず、本物の三毛猫がマイクの前でニャーゴと鳴いてイントロがスタートした。
静かな波の音とカモメの鳴き声。
青い空と海が目に浮かび、子どもの合唱が水平線の向こうから聴こえてくる。
潮の匂いがする、波の寄せる海の声。
友太がカホンを叩き始めると、電車のリズム音がベースとなり涼子がキーボードを弾く。
そして猫の鳴き声のラップ。
バックコーラスは猫のハーモニーだ。
観客はその頃から増えだし、駅の改札に行かずにステージに集まって来た。
なんと猫たちが器用に踊り始めたのである。
その仕掛けは涼子と友太にしか見えず、猫の亡霊が本物の猫の手を取ってリードし、後ろ足で立ってステップを踏む。
友太がカホンを小刻みに叩くと、タップまでする本物の猫もいて、それを見て観客が笑顔で拍手する。
その中に混じって、見たことのある懐かしい顔が幾つかあった。淡い光りの存在であるが、髪が風に揺れ陽射しを浴びて佇んでいた。
それに気付いた涼子と友太は顔を見合わせて驚いたが、演奏に集中して熱がこもる。
涼子の父と母。そして友太の家族が観客になり、バイオリンの美しい音色が奏でられると、群衆の中から現れた涼子のおばあちゃんが黒猫を連れてステージの方へ進み出た。
そしてマイクの前に立ち、黒猫を足元に座らせてソロで歌い始める。
髪は真っ白に光り輝き、服装も白いブラウスに黄金色のロングスカートを穿き、声は猫のオペラ歌手みたいに澄んで透き通っていた。
猫のメロディー 忘れないで
猫のメロディー 消さないで
心の中は夢の世界 想いがあればよみがえる
猫のメロディー 聴こえてくる
猫のメロディー 泣かないで
耳を澄ませば歌ってる あなたの心の懐かしい声
(間奏・猫の鳴き声による亡霊と本物の猫たちの合唱……。)
黒猫がその歌声に合わせて、おばあちゃんの前でクルクル回りながら踊り、亡霊の猫と涼子と友太の家族もペアになって一緒に踊り出す。
それはまるで天国の舞踏会の様相になったが、それが見えるのは涼子と友太だけであり、二人は演奏しながらポロポロと泣いた。
このひと時が永遠に続くように願い、曲が終わるまで猫と一緒に楽しんだ。
絶対に忘れない。忘れられない。そんな猫のメロディーが果てしない空に飛び跳ねるように広がってゆく……。
end.
しかし二人とも自信がないので音源データをメインとし、涼子がキーボード伴奏、友太がギターとカホンという打楽器を使って生演奏に一味加える。
「大丈夫?緊張してない?」
友太にそう言った涼子も緊張感で水を飲んで、開始時間ギリギリまで練習し、家を出る前にお揃いの白いシャツに黒いジャケットに着替えた。
そして町中から野良猫が集まり、二人にしか見えないが猫の亡霊の群れも勢揃いし、それらを引き連れて涼子と友太が楽器と機材を手押車に乗せて駅前の広場へ行進する。
顔見知りの駅員にも手伝ってもらい、音響機器のセッティングを済ませると、街の人々も何事かと集まって来た。
野良猫の集合に驚く通行人が足を止めて、駅前のステージを囲み始め、パラボラ集音マイクはセンターに立て、涼子と友太が音合わせを終えると、猫の群れが二人の前に整列した。
もちろん、亡霊の猫は涼子と友太にしか見えず、本物の三毛猫がマイクの前でニャーゴと鳴いてイントロがスタートした。
静かな波の音とカモメの鳴き声。
青い空と海が目に浮かび、子どもの合唱が水平線の向こうから聴こえてくる。
潮の匂いがする、波の寄せる海の声。
友太がカホンを叩き始めると、電車のリズム音がベースとなり涼子がキーボードを弾く。
そして猫の鳴き声のラップ。
バックコーラスは猫のハーモニーだ。
観客はその頃から増えだし、駅の改札に行かずにステージに集まって来た。
なんと猫たちが器用に踊り始めたのである。
その仕掛けは涼子と友太にしか見えず、猫の亡霊が本物の猫の手を取ってリードし、後ろ足で立ってステップを踏む。
友太がカホンを小刻みに叩くと、タップまでする本物の猫もいて、それを見て観客が笑顔で拍手する。
その中に混じって、見たことのある懐かしい顔が幾つかあった。淡い光りの存在であるが、髪が風に揺れ陽射しを浴びて佇んでいた。
それに気付いた涼子と友太は顔を見合わせて驚いたが、演奏に集中して熱がこもる。
涼子の父と母。そして友太の家族が観客になり、バイオリンの美しい音色が奏でられると、群衆の中から現れた涼子のおばあちゃんが黒猫を連れてステージの方へ進み出た。
そしてマイクの前に立ち、黒猫を足元に座らせてソロで歌い始める。
髪は真っ白に光り輝き、服装も白いブラウスに黄金色のロングスカートを穿き、声は猫のオペラ歌手みたいに澄んで透き通っていた。
猫のメロディー 忘れないで
猫のメロディー 消さないで
心の中は夢の世界 想いがあればよみがえる
猫のメロディー 聴こえてくる
猫のメロディー 泣かないで
耳を澄ませば歌ってる あなたの心の懐かしい声
(間奏・猫の鳴き声による亡霊と本物の猫たちの合唱……。)
黒猫がその歌声に合わせて、おばあちゃんの前でクルクル回りながら踊り、亡霊の猫と涼子と友太の家族もペアになって一緒に踊り出す。
それはまるで天国の舞踏会の様相になったが、それが見えるのは涼子と友太だけであり、二人は演奏しながらポロポロと泣いた。
このひと時が永遠に続くように願い、曲が終わるまで猫と一緒に楽しんだ。
絶対に忘れない。忘れられない。そんな猫のメロディーが果てしない空に飛び跳ねるように広がってゆく……。
end.
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4
この作品の感想を投稿する
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる