あふれる愛に抱きしめられて

田丸哲二

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雨降って地固まる

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 紗織はこれが雨女の最期かと思い、自分の事よりも他の人たちが助かるように冷たい暗闇の中で祈った。

『もし私が災いを招いたのであればお許しください』

 そう心の中で謝罪して眠りに付く。救助に向かう筈の雨女が冷たい水に濡れて土砂に埋まっている。

『自業自得……。雨女が降らせた雨で死ぬなら本望……』

 しかしながら、神はまだ紗織を大地の生贄にするつもりはないのか、目が覚めると地上から物音が聴こえてきた。

 そして光の眩しさに手をかざして目を開けると、紗織は数人の救急隊員に瓦礫の下から引き上げられ、担架に乗せられて運ばれた。

 空を見上げると夜が明けて雨が上がり、目の前に神野洋介の顔が現れて声を掛けられる。

「大丈夫か?紗織」

「な、なんで、あなたがいるのよ?」

 洋介の背中から朝陽に輝く七色の虹が空に架かり、愛の伝道師は雨女の窮地を感知して助けに現れたのかと感嘆したが、実際には被災地へマッサージのボランティアで訪れただけだった。

『後で聞いた話だが、洋介もすぐ近くの温泉宿に泊まってボランティアの疲れでぐっすり眠っていたらしい』


「晴れるのが、遅過ぎるじゃない?」

「ああ、雨女の方が強かったって事だ」

 洋介はそう言って微笑んだが、紗織はまた気を失うように救急車のベッドで眠ってしまった。

『悔しいけど、彼の顔を見て安堵してしまったのである』

 幸いにも紗織の怪我は軽傷で、救急車で病院に運ばれたが午後には退院して、洋介もボランティアで忙しかったので長く話す事もなく東京へ戻った。


『それから一ヶ月後、私たちは故郷で結婚式を挙げる事になった。土砂に埋まって死ぬと覚悟した時、もし助かったら私の方から彼に逆プロポーズしようと決めていたのである』

 散り散りになっていた家族も久しぶりに集まり、雨女が助けたと言い張る地方の人々も長野まで駆けつけ、雨女と愛の伝道師との結婚式が盛大に行われた。

 予想した通り式が始まる朝に優しい雨が降り始め、式が終わる頃には雨が上がって虹が架るという自然のウェディングプランになった。

 集合写真は今見ても泣けてくる程、みんな晴れやかな笑顔で向日葵みたいに並んでいる。

 そして不思議な事に、洋介と結婚して紗織の雨女アメジョの能力は失われた。

 紗織が葡萄園を手伝うようになってから雨が適度に降り、素晴らしい品質の葡萄が実っていると洋介は自慢げに話している。

「君と僕とで調和されたんだよ」

『つまり適度な雨女になったと言うことか?そしてこれは殆ど変わりなく、私は時々疲れて心が渇いてくると、彼に思いっきり抱きしめられて潤っている』



「あふれる愛に抱きしめられて」end.
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