6 / 7
雨のハンター
しおりを挟む
故郷で雨の日に洋介とめぐり逢い、強く抱きしめられて別れてから、早一年間が過ぎ去っていたが、エネルギーを注入された紗織はその間精力的に活動した。
吉祥寺のアンティークショップで仕事をしながら、雨の予感がすると長期の休暇を取って旅へ出かけ災害地へと向かう。
天気予報も参考にするが、雨女の勘を重視して、五感を研ぎ澄ませて地域と時刻のポイントを読み取り、フル装備で戦地へ向かって雨の匂いを追う。
『私は心のコンパスと長靴と雨合羽にスコップを武器に雨を追うハンターである』
そして八割の確率で人命救助に成功し、鹿児島と愛媛と広島と和歌山で表彰されたが、いずれの写真も二本の指で両眼を隠して犯罪者のように写っている。
紗織はこの成績を経て、少しだけ雨女の不運と罪を返したつもりになり、プラスマイナスゼロの気分を味わった。
『しかしそれが油断を招き、雨女は最悪の悲運を自ら引き当ててしまう……』
『紗織ちゃんは、雨女の中でも、最強のスーパー雨女だよ』
洋介が小学生の時にそう呼び始めたのが紗織のニックネームになり、ずっとそれを嫌悪して数十年間生きて来た。でもそれを少しだけ払拭し、少しは役目を果たしたと思って、自分ご褒美に春先に温泉旅行に行くことにした。
それも安全と復興を兼ねて洪水の被害にあった栃木県の温泉地へ向かった。しかしそれが裏目になり、その日の真夜中に局地的な大雨が降り、土砂崩れが起こって小さな温泉旅館が崩壊して流された。
前回の大雨でぬかるんだ地盤の二次災害だったが、紗織は温泉に疲れを癒され、美味しい料理に舌鼓を打ち、お酒もけっこう飲んで酔っ払ってしまい、何の予測も予兆も感じずに熟睡してしまった。
そして胸騒ぎがして目が覚めた時にはもう遅かったのである。轟音と共に流木と土砂で崩れた家屋の下敷きなり、身動きさえできない雨の被災者となって暗闇の中で助けを待つしかなかった。
吉祥寺のアンティークショップで仕事をしながら、雨の予感がすると長期の休暇を取って旅へ出かけ災害地へと向かう。
天気予報も参考にするが、雨女の勘を重視して、五感を研ぎ澄ませて地域と時刻のポイントを読み取り、フル装備で戦地へ向かって雨の匂いを追う。
『私は心のコンパスと長靴と雨合羽にスコップを武器に雨を追うハンターである』
そして八割の確率で人命救助に成功し、鹿児島と愛媛と広島と和歌山で表彰されたが、いずれの写真も二本の指で両眼を隠して犯罪者のように写っている。
紗織はこの成績を経て、少しだけ雨女の不運と罪を返したつもりになり、プラスマイナスゼロの気分を味わった。
『しかしそれが油断を招き、雨女は最悪の悲運を自ら引き当ててしまう……』
『紗織ちゃんは、雨女の中でも、最強のスーパー雨女だよ』
洋介が小学生の時にそう呼び始めたのが紗織のニックネームになり、ずっとそれを嫌悪して数十年間生きて来た。でもそれを少しだけ払拭し、少しは役目を果たしたと思って、自分ご褒美に春先に温泉旅行に行くことにした。
それも安全と復興を兼ねて洪水の被害にあった栃木県の温泉地へ向かった。しかしそれが裏目になり、その日の真夜中に局地的な大雨が降り、土砂崩れが起こって小さな温泉旅館が崩壊して流された。
前回の大雨でぬかるんだ地盤の二次災害だったが、紗織は温泉に疲れを癒され、美味しい料理に舌鼓を打ち、お酒もけっこう飲んで酔っ払ってしまい、何の予測も予兆も感じずに熟睡してしまった。
そして胸騒ぎがして目が覚めた時にはもう遅かったのである。轟音と共に流木と土砂で崩れた家屋の下敷きなり、身動きさえできない雨の被災者となって暗闇の中で助けを待つしかなかった。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる