亡霊サミット

田丸哲二

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プロローグ

日本国への贈り物

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 5月18日深夜0時、ユージンはシェフチェンコとの約束を果たすべく、聖ソフィア大聖堂を訪れてウクライナの亡霊議員四名と面会し、テーブルの中央に置かれたアルミケース、磁力を帯びたジャケット、数種類のビーンズが入ったボトルを囲み、日本国へ重要機器を持ち込む工作員に任命された。

「霊体の分裂を防ぐジャケット、霊サプリメントについての説明はこれで良いかな?」
「はい、多少経験もあるので問題ないです。しかし、ケースの中身は何なのですか?秘密を抱えて旅立つほど、僕は議員のみなさんを信頼してない」

 ユージンはシェフチェンコがKGBの屈強な男に一撃で抹殺されたシーンを思い起こし、先程、『危険な任務であるが……』と説明された事を頭の中で整理した。

 元政治家の亡霊議員は『明日、ゼレンスキー大統領と一緒にフランス空軍のエアバスA330-200に乗り込み、日本の広島空港へこのケースを送り届けて欲しい……』とユージンに話したが、ケースの中身については重要機器と言っただけで、スペックと用途については一言も触れていない。

「もしこのミッションがプーチンの暴挙を阻止する事に役立つのでしたら、僕は二度死んでも構わないと思っています」

 亡霊議員はユージンの決意を聞き、顔を寄せ合って小声で相談すると、アルミケースを厳重にロックする六桁のダイヤル番号を合わせて解錠し、蓋を全開にしてユージンの方に向けて中の機器を見せた。

「失礼だったのは詫びるが、我々としても君を信頼する時間がなかったのだ。急遽、アンドリー・シェフチェンコから能力のある若者に依頼すると連絡があり、君の経歴は有望なサッカー選手だったとしか知らない」

 シェフチェンコはKGBに追跡されている事を察知して、自分の代役となる能力者ユージンを指名したのである、

「これは……」

 ユージンはバレル(銃身部)とレシーバー(機関部)に分割してケースに収められた機器を見て絶句し、両眼を輝かせて歩み寄り、暗い室内に響く亡霊議員の声を聴きながら、無機物と有機物の融合した機器を観察した。

「未完成ではあるが、核兵器を無効化する装置だ。日本での亡霊サミットで、プーチン大統領の核兵器使用が議案になり、この機器を本題にして話し合われる。つまり君の任務が、亡霊サミットの成否の鍵を握っているのだよ……」
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