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第一章・重要機器を巡る争い
アルミケースの受け渡し
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5月20日15時34分フランス空軍のエアバスA330-200が広島空港に着陸し、ウクライナ・ゼレンスキー大統領がタラップを降りて、木原官房副長官と政府関係者に挨拶を交わし、周囲を警察官が厳重に警備している。
「うーん、それらしい人物はいないね」
展望デッキに数十人の観客が集まって、世界が注目する要人の訪問に興奮しているが、双眼鏡を構えて冷静に偵察する亡霊が二名存在した。
「ねっ、拓郎。……どう?いた?」
背の低い島津福子 (12歳)はつま先立ちになって小型双眼鏡を覗き込んでいるが、ウクライナの工作員は見当たらず、隣りに立つ背の高い大和拓郎 (18歳)にしつこく声を掛ける。
「乗り遅れたんじゃない?だって、バタバタだったんだろ?」
「うるさいぞ、福子。キャップとサングラスに磁気を帯びたジャケット。警備の警察官に紛れ込んでいる」
「おほー、あれか?」
福子は警察官の背後で、ゼレンスキー大統領を乗せた車が走り出すのを見ているユージンを双眼鏡に捉え、胸ポケットに入れた顔写真を出して見比べた。
「変装があだになり、確定はできません」
「いや、アルミケースを持っている。ユージン・レブノフに間違いない」
大和拓郎はベリーショーヘアのイケメンであるが、死者から目覚めた時にスラムダンク(漫画)の三井寿に似せて形成され、本来自分がどういう顔をしていたのか記憶がない。
「まっ、イケメンの拓郎がそう言うならいいよ」と、双眼鏡を首に掛けた福子が拓郎に微笑み掛け、「嫌味か?」と拓郎が横目で睨む。
真実かは不明だが、福子は子供の頃に拓郎と近所の公園で遊んだ記憶があり、本当の顔を知も知っていて、今の顔とは全然違うと揶揄っている。
拓郎がパーカーのポケットからトランシーバーを取り出し、到着ロビーを見張っている坂本和也 (25歳)に連絡した。
「ユージン・レブノフを確認し、搭乗者に怪しい者は見当たらない。そっちはどうだ?」
「こっちも問題ない。10分後に待ち合わせ場所で、俺が先に接触する」
(大和拓郎、島津福子、坂本和也の三名とも広島に原子爆弾を投下された時の犠牲者であるが、霊体が完全に形成されたのは10年程前の事であり、現代の流行にカスタマイズされている。)
展望デッキの観客をすり抜けて、チェックのスカートにカーディガンを着た福子が歩き出し、ユージンの動きを最後まで双眼鏡で見ていた拓郎が走り寄ると、三つ編みの髪を揺らして福子が振り返る。
「ねっ、拓郎。KGBがワープできるって、本当なの?」
「黒虫の服を開発したらしい。通常、霊ゾーンへ入ると霊体は数秒で分裂するからな」
「悔しいけど、亡霊の科学力では負けてるわね」
「いや、このミッションが成功すれば逆転できるさ」
ソビエト連邦の時代からKGBは亡霊の能力を強化するアイテムを開発し、プーチン大統領が誕生したのを機に、両側の世界を支配する活動を繰り広げた。
拓郎と福子と和也はウクライナの工作員が持ち込むアルミケースを広島空港で受け取り、原爆ドームで行われる亡霊サミットに出展する役割を担っている。
二階国際線出発ロビー・特別待合室[弥山]でアルミケースの受け渡しをする手筈になっているが、念の為に坂本和也が待合室の入口の前に立ち、拓郎と福子は少し離れた位置で重要機器を狙うロシア側の亡霊を警戒する。
「来たわよ」と福子が拓郎の腰を手で叩き、坂本和也とユージンが対面して挨拶を交わし、特別待合室へ侵入するのを確認したが、ロビーの少し離れた空間に切れ目が生じ、黒虫の防護服を着た大柄な女性が現出するのを拓郎が気付き、待合室へ歩き出した福子のお下げを引っ張って呼び止めた。
「福子。敵だ」
「うーん、それらしい人物はいないね」
展望デッキに数十人の観客が集まって、世界が注目する要人の訪問に興奮しているが、双眼鏡を構えて冷静に偵察する亡霊が二名存在した。
「ねっ、拓郎。……どう?いた?」
背の低い島津福子 (12歳)はつま先立ちになって小型双眼鏡を覗き込んでいるが、ウクライナの工作員は見当たらず、隣りに立つ背の高い大和拓郎 (18歳)にしつこく声を掛ける。
「乗り遅れたんじゃない?だって、バタバタだったんだろ?」
「うるさいぞ、福子。キャップとサングラスに磁気を帯びたジャケット。警備の警察官に紛れ込んでいる」
「おほー、あれか?」
福子は警察官の背後で、ゼレンスキー大統領を乗せた車が走り出すのを見ているユージンを双眼鏡に捉え、胸ポケットに入れた顔写真を出して見比べた。
「変装があだになり、確定はできません」
「いや、アルミケースを持っている。ユージン・レブノフに間違いない」
大和拓郎はベリーショーヘアのイケメンであるが、死者から目覚めた時にスラムダンク(漫画)の三井寿に似せて形成され、本来自分がどういう顔をしていたのか記憶がない。
「まっ、イケメンの拓郎がそう言うならいいよ」と、双眼鏡を首に掛けた福子が拓郎に微笑み掛け、「嫌味か?」と拓郎が横目で睨む。
真実かは不明だが、福子は子供の頃に拓郎と近所の公園で遊んだ記憶があり、本当の顔を知も知っていて、今の顔とは全然違うと揶揄っている。
拓郎がパーカーのポケットからトランシーバーを取り出し、到着ロビーを見張っている坂本和也 (25歳)に連絡した。
「ユージン・レブノフを確認し、搭乗者に怪しい者は見当たらない。そっちはどうだ?」
「こっちも問題ない。10分後に待ち合わせ場所で、俺が先に接触する」
(大和拓郎、島津福子、坂本和也の三名とも広島に原子爆弾を投下された時の犠牲者であるが、霊体が完全に形成されたのは10年程前の事であり、現代の流行にカスタマイズされている。)
展望デッキの観客をすり抜けて、チェックのスカートにカーディガンを着た福子が歩き出し、ユージンの動きを最後まで双眼鏡で見ていた拓郎が走り寄ると、三つ編みの髪を揺らして福子が振り返る。
「ねっ、拓郎。KGBがワープできるって、本当なの?」
「黒虫の服を開発したらしい。通常、霊ゾーンへ入ると霊体は数秒で分裂するからな」
「悔しいけど、亡霊の科学力では負けてるわね」
「いや、このミッションが成功すれば逆転できるさ」
ソビエト連邦の時代からKGBは亡霊の能力を強化するアイテムを開発し、プーチン大統領が誕生したのを機に、両側の世界を支配する活動を繰り広げた。
拓郎と福子と和也はウクライナの工作員が持ち込むアルミケースを広島空港で受け取り、原爆ドームで行われる亡霊サミットに出展する役割を担っている。
二階国際線出発ロビー・特別待合室[弥山]でアルミケースの受け渡しをする手筈になっているが、念の為に坂本和也が待合室の入口の前に立ち、拓郎と福子は少し離れた位置で重要機器を狙うロシア側の亡霊を警戒する。
「来たわよ」と福子が拓郎の腰を手で叩き、坂本和也とユージンが対面して挨拶を交わし、特別待合室へ侵入するのを確認したが、ロビーの少し離れた空間に切れ目が生じ、黒虫の防護服を着た大柄な女性が現出するのを拓郎が気付き、待合室へ歩き出した福子のお下げを引っ張って呼び止めた。
「福子。敵だ」
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