3-days love story.

田丸哲二

文字の大きさ
6 / 29
第一章・イースター(復活祭)

死者(悠太)の回想

しおりを挟む
 復活祭の前日、青葉台駅前のビルの一階にあるカフェ「Maybe」に車が激突し、咄嗟に客を非難させ、自分を助けようと駆け寄ったマリアと呼ばれる女性の姿が脳裏に焼き付いている。

 鈴木悠太は大学を中退して親がオーナーのカフェ「Maybe」のマスターになり四年になるが、微風のような暇な時間が流れる日々が続き、利益を出してない罪悪感を抱えていたが、不思議な女性が最近カフェに舞い込んで、今朝も悠太がカウンターでコーヒー豆を挽いていると、その女性が温かい笑顔で悠太を励まして厨房へ入った。

「マスター。今日は忙しくなりますよ」
「えっ、そんなわけないでしょ?」

 悠太の返答など気にせず、うさぎのイラストのエプロンを付けた女性は仕込んであった大量のドーナツを揚げ始める。

「な、何してるんですか?」
「見ての通り、ドーナツですよ」
「でもそんな作って売れるわけがない。やめてください」
「いえ、ダメです。前向きに頑張りましょう」

 厨房の女性の笑顔をカウンターからガラス越しに見て、悠太は不思議な感情が込み上げた。新人のバイトなのに客が入ってない事を自分以上に心配し、心地よい風を店内に吹き込んでいる。

 一週間前の面接で、悠太は彼女の履歴書に目を通して『あの人』に似ていると不思議な感覚に陥った。安野麻里子、21歳。東海大学文学部、北欧学科専攻、三年生。藤が丘に住み、青葉台駅まで徒歩で通える距離……。

 偶然か運命なのか、清楚なワンピースを着た女性はバイトの欠員がでた閉店後に面接を受け、優しい笑みを添えてウインドーをバックにダビンチの名画のように座って話した。

「マリアって呼ばれるので、マスターもそれでお願いします。前のバイトの方、私が来店して辞めたかも?嫌われるタイプですがご容赦ください」

 悠太は「マリアか……」と呟き、長い髪が微笑みに擦り寄い、笑顔は向日葵のようなのに、瞳に映る寂しそうな影を感じて不思議に思う。

「いえ、僕の責任です。前から態度で感じてたからね」
「そうなんですか?でも、私ならマスターと上手くいきますよ」
「上から目線だけど、不思議と僕もマリアさんとならやっていけそうな気がする」
「ハイ。頑張りましょう」

 悠太はその一言で彼女が何故マリアと呼ばれるか理解した。純粋な正義感と前向きな性格。澄んだ瞳で見透かされた人間は道端に咲く花を踏み付け、千切りたくなる衝動が生まれるのだろう。

『マリアは僕を学生時代にイジメられていたと直感したのでは?』

 そんなセンシティブな感性を持った人物を悠太は過去に一人だけ知っている。

『ジーザスを揶揄やゆして、ジーケンと呼ばれた高校の同級生、溝端賢士。僕は私立の付属中学校で散々イジメられて、それを払拭したいと公立高校を選んで入学したが、生徒は違えどイジメは繰り返され、僕はそういう人種で嫌われる血が流れていると決めつけて絶望した』

 それを見透かしたジーケンは教室の隅っこにいる悠太を哀しそうな眼差しで見て微笑み、「変な思い込みは捨てた方がいいんじゃない?」と囁いた。

「えっ?」
「嫌だったら、れなきゃいいんだよ」

 その数日後、男子生徒の数人が怪我をして学校を休み、悠太へのイジメは減り、賢士を妬んでいた男子生徒がジーケンの怒りに触れたという噂が流れた。

 高校時代の一件を思い出した悠太は安野麻里子を店員として雇い、マリアと呼んで大学の授業の合間にカフェで働いている。

 そのマリアを見る度にジーケンに重ね合わせ、『ジーケンとマリア』は素晴らしい組み合わせだと確信し、悠太はジーケンが愛せるのはマリアで、きっとこの二人はめぐり逢う運命で、マリアならジーケンを譲ってもいいと思った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

処理中です...